鬼の霍乱（かくらん）：りんのショートストーリー：SSブログ

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鬼の霍乱（かくらん）　[コメディー] [編集]

「ちょっと、鬼ちゃん、風邪ってどういうことだよ」
「すみません。町内会長さん。鬼の霍乱です」
「節分に風邪ひくことないじゃない。豆まきどうするんだよ」
「すみません。無理です」
「あのね、豆まきの鬼やってもらうために、あんたをこの町に住ませているんだよ」
「はあ、重々承知しています」

「そりゃあ昔は鬼もたくさんいたし、それなりの力もあった。だけどほら、あの桃太郎にずいぶん殺られちゃったでしょ」
「面目ない…」
「だからおれたちはボランティアで、少なくなった鬼を保護してあげてんの。わかる？」
「はあ…お世話になってます」
「税金も免除してるし、狭いけど住居も与えてるでしょ」
「お言葉ですが、鬼の町としてのキャンペーンに、割と協力してると思うんですが」
「そりゃ当たり前でしょ。ただ飯食ってるんだから」
「すみません」

「ああ、どうしよう。鬼がいなくちゃ豆まき盛り上がらないよ」
「町内会長さんが代わりにやってもらえませんか」
「おれ？無理だよ。角ないもん」
「あ、じゃあ、僕の角、使います？」
「えっ？なになに、それ、取り外し可能なの？」
「ほら、不必要な部分って衰退するっていうでしょ。人間と暮らすうちに、いらなくなって、ある日スポンって取れたんです」
「へえ」
「でも角がないと鬼としての仕事が出来ないから、両面テープで付けてるんです」
「ふうん、どれどれ。付けてみよう」
「あ、町内会長さん、お似合いですよ」
「そう？」
「本物の鬼みたいです。バッチリですよ」

「あ、あれ？取れない。鬼ちゃん、角が取れないぞ」
「おかしいですね。両面テープが強力すぎたかな？」
「お、鬼ちゃん、牙が生えてきた」
「ますます本物の鬼みたいですよ」
「か、顔が赤くなってきた」
「町内会長さん、赤鬼タイプだったんですね」
「呑気なこと言ってないで、助けろ」
「仕方ありませんよ。角があなたを選んだんですから。ああ、これでやっと解放される。大丈夫ですよ。人間らしく穏やかに生きていれば、そのうち角がスポンと取れますよ。そうしたら次の鬼に引き継いでしまえばいいんです」
「騙したのか？」

「あ。ほら、豆まきが始まりますよ。子供たち、容赦ないですからね、結構痛いですよ」
「ちくしょう」

おにはーそと、ふくはーうち、おにはーそと、ふくはーうち

「ああ、これで節分はゆっくり寝られる」

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