続きは夢の中 [ファンタジー]
幼いころ、ベッドの中で、母がいつも物語を話してくれた。
僕はそれが楽しくて、もう眠るどころではなかった。
物語のほとんどは母の創作で、わくわくしながら続きを待った。
しかしある程度の時間になると、
「はい、おしまい。続きは夢の中」
と言って、電気を消してしまう。
続きがすごく気になるのに、電気を消されると魔法にかかったようにすぐに眠った。
そしてケロッと忘れてしまう。
次の夜には、母もまたケロッと忘れてしまうのか、別の話を始める。
その話も途中で終わり。
「はい、おしまい。続きは夢の中」
だから母の物語は、どれもみんな未完結だった。
竜に乗って戦う戦士
風の魔法で旅をする少年
突然現れた恐竜に連れ去られた姫を助ける少年
みんなどうなってしまったのだろう。
今頃になって、やけに鮮明に思い出す。
結末のない物語たち。
それなりの反抗期を経て大人になり、結婚して父親になった。
親の気持ちがやっとわかるようになったころ、母が病に倒れた。
父とともに毎日のように病室に付き添った。
弱っていく母に、僕はなるべく明るく話しかけた。
「母さん、いつも寝るときに話を聞かせてくれたよね」
「そうね」
「だけどさ、いつも途中で終わっちゃったね」
「あら、夢で続きを見たんじゃないの?」
「夢なんかみてないよ」
「あら変ね。夢で続きを見るように、魔法をかけたのに」
「そんなこと言って、本当は結末を考えてなかったんだろう」
ふふふと母は笑った。
数日後、母は静かに息を引き取った。
眠るような穏やかな最期だった。
葬式をすませた夜、なかなか寝付けずにいると、7歳になる息子が起きてきた。
「パパ」
「なんだ、起きちゃったのか」
「あのね、竜に乗った戦士は、光る石を見つけて悪魔の呪いを解くんだ」
「え?」
「風の魔法で旅を続けた少年は、最後の行き先に、自分の家を選ぶんだ。家がいちばんいいって最後に気づくんだ」
「それって…」
「恐竜に連れ去られた姫を救うため、少年は時空を超えるんだ。氷河期の世界に恐竜だけを残して姫と一緒に戻ってくるんだ」
「物語の続きか?」
「わからない。夢を見たんだ。忘れないうちにパパに話さなきゃいけない気がしたんだ」
僕が見られなかった物語の続き。
母がかけた魔法は、息子に引き継がれたのだろうか。
写真になった母に尋ねても、静かに笑うだけだった。
「パパ、何か話して」
「よし」
僕は、母が話してくれた物語の記憶をたどって、息子に話した。
「はい、おしまい」
「え~。もう終わり?」
「続きは夢の中だ。明日の朝、パパにも教えてくれよ」
息子の頭をなで、電気を消す。
明日が楽しみだ。ねえ、母さん。
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僕はそれが楽しくて、もう眠るどころではなかった。
物語のほとんどは母の創作で、わくわくしながら続きを待った。
しかしある程度の時間になると、
「はい、おしまい。続きは夢の中」
と言って、電気を消してしまう。
続きがすごく気になるのに、電気を消されると魔法にかかったようにすぐに眠った。
そしてケロッと忘れてしまう。
次の夜には、母もまたケロッと忘れてしまうのか、別の話を始める。
その話も途中で終わり。
「はい、おしまい。続きは夢の中」
だから母の物語は、どれもみんな未完結だった。
竜に乗って戦う戦士
風の魔法で旅をする少年
突然現れた恐竜に連れ去られた姫を助ける少年
みんなどうなってしまったのだろう。
今頃になって、やけに鮮明に思い出す。
結末のない物語たち。
それなりの反抗期を経て大人になり、結婚して父親になった。
親の気持ちがやっとわかるようになったころ、母が病に倒れた。
父とともに毎日のように病室に付き添った。
弱っていく母に、僕はなるべく明るく話しかけた。
「母さん、いつも寝るときに話を聞かせてくれたよね」
「そうね」
「だけどさ、いつも途中で終わっちゃったね」
「あら、夢で続きを見たんじゃないの?」
「夢なんかみてないよ」
「あら変ね。夢で続きを見るように、魔法をかけたのに」
「そんなこと言って、本当は結末を考えてなかったんだろう」
ふふふと母は笑った。
数日後、母は静かに息を引き取った。
眠るような穏やかな最期だった。
葬式をすませた夜、なかなか寝付けずにいると、7歳になる息子が起きてきた。
「パパ」
「なんだ、起きちゃったのか」
「あのね、竜に乗った戦士は、光る石を見つけて悪魔の呪いを解くんだ」
「え?」
「風の魔法で旅を続けた少年は、最後の行き先に、自分の家を選ぶんだ。家がいちばんいいって最後に気づくんだ」
「それって…」
「恐竜に連れ去られた姫を救うため、少年は時空を超えるんだ。氷河期の世界に恐竜だけを残して姫と一緒に戻ってくるんだ」
「物語の続きか?」
「わからない。夢を見たんだ。忘れないうちにパパに話さなきゃいけない気がしたんだ」
僕が見られなかった物語の続き。
母がかけた魔法は、息子に引き継がれたのだろうか。
写真になった母に尋ねても、静かに笑うだけだった。
「パパ、何か話して」
「よし」
僕は、母が話してくれた物語の記憶をたどって、息子に話した。
「はい、おしまい」
「え~。もう終わり?」
「続きは夢の中だ。明日の朝、パパにも教えてくれよ」
息子の頭をなで、電気を消す。
明日が楽しみだ。ねえ、母さん。
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2015-11-04 18:42
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コメント(9)
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続きは夢の中・・・いい響きだ〜♪ (๑◔‿◔๑)
by desidesi (2015-11-05 03:12)
リンさんさん おはようございます。
息子が話を続きを夢で見て話しかけてきた瞬間、ぞくっとする、時空を超えたファンタジーの世界に入った気になりました。すばらしいお話です。
by SORI (2015-11-06 07:13)
不思議だけど ありそうなお話しで魅力的です。~
by たまきち (2015-11-07 09:58)
<desidesiさん>
ありがとうございます。
夢ってあんまり覚えていないんですよね。
続きを見たくても、見られないことばかりです^^
by リンさん (2015-11-07 11:12)
<SORIさん>
ありがとうございます。
おばあちゃんが、亡くなる前に魔法をかけたのかもしれませんね。
by リンさん (2015-11-07 11:15)
<たまきちさん>
ありがとうございます。
ふつうは話が終わる前に子供が寝てしまうものですが、このお話はちょっと変えてみました^^
by リンさん (2015-11-07 11:19)
SORIさんの
>息子が話を続きを夢で見て話しかけてきた瞬間、ぞくっとする
と言うのがよく解ります。
>母がかけた魔法は、息子に引き継がれたのだろうか。
と、なぜ、息子が夢の続きを見たのか、その辺の真実はぼかしてありますが、ちゃんとした理屈付けが最後で出来れば、その真相が明らかになる瞬間まで僕はゾクゾクし続けたことでしょう(笑)
by 海野久実 (2015-11-09 18:35)
<海野久美さん>
ありがとうございます。
なぜ息子が夢の続きをみたのか、全然考えていませんでした(笑)
何となく不思議な感じで終わってしまいましたね。
真実は夢の中…これじゃダメですね^^;
by リンさん (2015-11-09 23:22)
夢ってものをそもそもあまり見たことがない。見た時もだいたいつじつまの合わない、途切れ途切れの映像だけが過ぎてって、、、だからどんな夢だったのかまたく覚えていない。まとまった話をするツレの夢とはずいぶん違っていて夢っていったいどんなもんなのかと、ツレが夢を話すたんびに考えた。結局、このつじつまの合わない夢も夢なんだろうけど、ストォリのある夢が見たいと思う。
by さきしなのてるりん (2016-01-28 09:41)