令和お年玉事情
おばあちゃんは悩んでいた。
孫にお年玉をあげたいけれどお金がない。
孫は大学生と高校生。いくら何でも千円というわけにはいかないだろう。
自営業の夫に先立たれて３年。しがない年金暮らしで、財産もない。
孫には会いたいけれど、いっそ居留守を使ってしまおうか。
「あのね、お正月は老人会で温泉に行くのよ。だから帰って来てもいないからね。来なくていいよ」
息子夫婦に嘘をついた。
寂しいけど仕方ない。家で紅白見て、除夜の鐘聴いて、酒でも飲もうか。
何ともわびしい大晦日だ。
元日の朝、けたたましくチャイムが鳴った。
「だれ？ 正月早々カラオケのお誘いかい？」
ドアを開けると、息子夫婦が立っていた。孫もいる。
「あっ、やっぱりいた。正月から老人会の旅行なんて絶対変だと思った」
「そうよ、お義母さん。私たちに気を遣ったんですか？」
「おばあちゃん、あけおめ！」
一気に賑やかになった。
「お義母さん、おせち作ってきたから食べましょ」
「ああ、悪いね。でもね、お年玉が……」
「母さん、やっぱり一人じゃ寂しいだろ。この家建て替えて二世帯にしない？」
「無理だよ。お年玉も渡せないのに……」
「おばあちゃん、僕たち、お年玉なんていらないよ」
「うん。あとでいいよ」
「あとで……？」
「ねえ、それより、どこか行きましょうよ。お義母さんは海外旅行行ったことあります？」
「ないよ」
「夏休みにハワイとかどうかな」
「あんたたち、ずいぶん羽振りのいい話をしているけど、何かあったの？」
「えー、またまた、とぼけちゃって」
「何の話？」
息子と嫁が顔を見合わせた。
「お義母さん、もしかして、見てないんですか」
「何を？」
「宝くじですよ。年末ジャンボ、ふたりで買ったじゃないですか」
「ああ、そういえば」
おばあさんは、年末に買い物に行ったとき、連番１０枚を買って嫁と５枚ずつ分けたことを思い出した。
「当たってるんですよ。お義母さんが持ってる宝くじ」
「えええ～」
「おばあちゃん、僕たち、換金してからでいいからね、お年玉」
あああ、買ったのは覚えてるけど、どこに仕舞ったか思い出せない。
まさか暮れの大掃除で……？ あああ、どうしよう。
うーん、うーん。
「お義母さん、大丈夫ですか」
「様子がおかしいから来てみたら、寝込んでるなんて世話が焼けるな」
紅白見ながらコタツで寝たせいで、正月早々おばあさんは風邪をひいていた。
「はっ、た、宝くじは？」
「なんですか、それ。当たるわけないでしょ。３００円だけです」
「なんだ夢か」
「宝くじが当たる夢見たんですか。しょせん夢ですよ」
「お年玉をあげられると思ったのに、残念だね」
「お義母さん、うちの子はふたりともバイトしてますよ。もうお年玉なんてあげなくていいんですよ。ほら、お雑煮食べましょ。お義母さん、お金が足りなかったらいつでも言ってくださいね。少しなら援助できますから」
「ありがとう。優しい嫁だね」
嫁は、おばあさんが雑煮を食べている間に仏間に行き、仏壇の引き出しに仕舞ってある宝くじをこっそり抜き取った。
「ふふ、どうせ仕舞った場所も忘れてるんだから」
悪い嫁だな～
私は本当に優しい嫁なので、神様、宝くじを当ててください！
新年早々ブラックな話ですみません。
今年もよろしくお願いします。
孫にお年玉をあげたいけれどお金がない。
孫は大学生と高校生。いくら何でも千円というわけにはいかないだろう。
自営業の夫に先立たれて３年。しがない年金暮らしで、財産もない。
孫には会いたいけれど、いっそ居留守を使ってしまおうか。
「あのね、お正月は老人会で温泉に行くのよ。だから帰って来てもいないからね。来なくていいよ」
息子夫婦に嘘をついた。
寂しいけど仕方ない。家で紅白見て、除夜の鐘聴いて、酒でも飲もうか。
何ともわびしい大晦日だ。
元日の朝、けたたましくチャイムが鳴った。
「だれ？ 正月早々カラオケのお誘いかい？」
ドアを開けると、息子夫婦が立っていた。孫もいる。
「あっ、やっぱりいた。正月から老人会の旅行なんて絶対変だと思った」
「そうよ、お義母さん。私たちに気を遣ったんですか？」
「おばあちゃん、あけおめ！」
一気に賑やかになった。
「お義母さん、おせち作ってきたから食べましょ」
「ああ、悪いね。でもね、お年玉が……」
「母さん、やっぱり一人じゃ寂しいだろ。この家建て替えて二世帯にしない？」
「無理だよ。お年玉も渡せないのに……」
「おばあちゃん、僕たち、お年玉なんていらないよ」
「うん。あとでいいよ」
「あとで……？」
「ねえ、それより、どこか行きましょうよ。お義母さんは海外旅行行ったことあります？」
「ないよ」
「夏休みにハワイとかどうかな」
「あんたたち、ずいぶん羽振りのいい話をしているけど、何かあったの？」
「えー、またまた、とぼけちゃって」
「何の話？」
息子と嫁が顔を見合わせた。
「お義母さん、もしかして、見てないんですか」
「何を？」
「宝くじですよ。年末ジャンボ、ふたりで買ったじゃないですか」
「ああ、そういえば」
おばあさんは、年末に買い物に行ったとき、連番１０枚を買って嫁と５枚ずつ分けたことを思い出した。
「当たってるんですよ。お義母さんが持ってる宝くじ」
「えええ～」
「おばあちゃん、僕たち、換金してからでいいからね、お年玉」
あああ、買ったのは覚えてるけど、どこに仕舞ったか思い出せない。
まさか暮れの大掃除で……？ あああ、どうしよう。
うーん、うーん。
「お義母さん、大丈夫ですか」
「様子がおかしいから来てみたら、寝込んでるなんて世話が焼けるな」
紅白見ながらコタツで寝たせいで、正月早々おばあさんは風邪をひいていた。
「はっ、た、宝くじは？」
「なんですか、それ。当たるわけないでしょ。３００円だけです」
「なんだ夢か」
「宝くじが当たる夢見たんですか。しょせん夢ですよ」
「お年玉をあげられると思ったのに、残念だね」
「お義母さん、うちの子はふたりともバイトしてますよ。もうお年玉なんてあげなくていいんですよ。ほら、お雑煮食べましょ。お義母さん、お金が足りなかったらいつでも言ってくださいね。少しなら援助できますから」
「ありがとう。優しい嫁だね」
嫁は、おばあさんが雑煮を食べている間に仏間に行き、仏壇の引き出しに仕舞ってある宝くじをこっそり抜き取った。
「ふふ、どうせ仕舞った場所も忘れてるんだから」
悪い嫁だな～
私は本当に優しい嫁なので、神様、宝くじを当ててください！
新年早々ブラックな話ですみません。
今年もよろしくお願いします。
2020-01-06 18:39
nice!(7)
コメント(8)
![[わーい（嬉しい顔）]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/140.gif){kind=small}
![[本]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/70.gif){kind=small}
お義母さんに、持って来てあげた、お雑煮のお餅、念入りに突いてこねてもらった、特製のお餅なんだ。よおく粘るんだ。
もう、そろそろかな。すぐ電話できるように、スマホにあの番号を登録してあるんだ。
「う、う、う、う」やったあ！
さらにブラックにしてしまいました。
by ごろりん (2020-01-07 14:38)
新年だからねえ。
冗談でも希望のもてるお話にしてほしかったかも。
danはお嫁さんがいなくてとても幸せだと思いました。
ほほほブラックジョーク?
by dan (2020-01-08 12:08)
わぁ、ほのぼの話しかと思いきや、ブラックな話しだったのでやすね。
お年寄りって、ほんとにさっきのことも忘れてしまうようになるみたいでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2020-01-08 22:13)
リンさんさん おはようございます。
どんな理由にせよ、家族が集まるのはいいですね。
by SORI (2020-01-09 10:34)
＜ごろりんさん＞
ありがとうございます。
うわ、これはすごいブラックですね。
意地悪ばあさんなら、こんなラストもあるかもしれませんね。
このおばあさんは、とても善人なので＾＾
by リンさん (2020-01-11 17:36)
＜danさん＞
ありがとうございます。
いいお話を考えようと思ったのですが、性格が歪んでいるのか、正月早々こんな話ですみません（笑）
周りの方々の話だと、最近のお嫁さんはさっぱりしていて、台所も手伝わないそうです。だけどすごく仲がいいんですって。
時代も変わりましたわね～
by リンさん (2020-01-11 17:39)
＜ぼんぼちぼちぼちさん＞
ありがとうございます。
私の母は、宝くじを買っていないのに、当たった時のことを考えていて、「当たったらあなたには３千万あげることになっているから」と言います。
買ってから言って！
by リンさん (2020-01-11 17:41)
＜SORIさん＞
ありがとうございます。
そうですね。お正月に家族が勢ぞろいって、一番の幸せですね。
by リンさん (2020-01-11 17:42)