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リアル鬼は外 [コメディー]

鬼の皆さん、今年も忌々しい節分がやってきます。
私たち鬼が恐れられていたのは遠い昔の話。
今じゃすっかり人間たちと共存し、穏やかに暮らしています。
しかし数年前の節分の夜、一部の若者が「リアル鬼は外」と称して鬼に豆を投げつける動画を投稿したのをきっかけに、すっかり広まってしまいました。
「リアル鬼は外」はその年の流行語にもなり、すっかり定着してしまいました。
いつもは優しい人間も、節分の夜だけは急変するのです。
まさに鬼です。いや、悪魔です。
しかし我々鬼も、いつまでも豆をぶつけられて黙ってはいられません。
今こそ立ち上がりましょう。こちらも負けずに豆をぶつけるのです。
節分に怯えて生きるのは、もうやめましょう。

「ただいま」
「おかえりなさい。鬼の集会、どうだった?」
「うん。今年は人間に逆襲するってさ。”人間は外”って言いながら、豆をぶつけるんだって。だからさ、危ないから今夜は出掛けない方がいいよ。君は人間なんだから」
「そうか。でも今夜は、人間と鬼の結婚を合法化させる会があるの。鬼と人間のカップルがこれだけ多いのに、結婚できないのは不当だわ。あなたもそう思うでしょう」
「う、うん。そうだね。でもさ、そんなに急がなくてもいいんじゃないかな」
「だめよ。早く籍を入れたいわ」
「そ、そうだよね。あっ、テレビでもつけようか」

『速報です。総務省の統計によりますと、本日、鬼の人口が人間の人口を上回ったということです。鬼と人間が共存するようになって30年余りとなりますが、鬼の出産率が人間の5倍であることから、こういった現象が起きたということです。
政府はこの事態を受けて、鬼の人権を認め、以前から要望が多く寄せられていた人間と鬼の結婚の合法化について、早急な話し合いを進めるとの見解を示しました。また、毎年恒例の”リアル鬼は外”について、自粛を求めるように呼びかけるということです』

「あなた、すごいわ。今年中に鬼と人間の結婚が認められるかもね。ねえ、両親に会ってくれる? あなたのことはそれとなく話してあるから、反対はされないと思うの」
「あー、いや、でも……」
「歯切れが悪いわね。はっ、もしかして、あの鬼の女とまだ続いているの?」
「ごめん。彼女去年5人目の子供を産んだんだ」
「別れてないの?」
「仕方ないよ。鬼は一夫多妻制だからさ。もちろん君のことは、第二婦人として大切にするよ」
「ふざけるな。出て行け!」
「あっ、豆!」
「鬼は~外。鬼は~外」
「痛い、痛い、豆まきは自粛だって言ってただろう」
「知るか! 鬼は~外。鬼は~外」
「痛いよぉ、君は鬼だな」
「鬼は~外。鬼は~外」

鬼は寒空へ追い出されてしまいました。
伝統ある節分の行事も、時代とともに変わるものですね。

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コメント 6

SORI

リンさんさん こんばんは
時代の変化を実感させられる物語です。いつもながら発想の柔軟さに感心させられました。素晴らしいです。
by SORI (2021-01-28 21:58) 

dan

面白い。長い年月の間には世の中も 人も変わって行くでしょう。
その年月danも生き過ぎたかも。
でも幸せな人生だったと思えたらそれも又いいのかも。
by dan (2021-01-29 15:19) 

ぼんぼちぼちぼち

二号さんを認めないというのも、時代とともに変わりつつありやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2021-02-01 12:46) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
人間の方が鬼より強いのが、現代っぽいですよね。
きっと過去に何かがあったのでしょうね^^
by リンさん (2021-02-02 17:45) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
新しいものを受け入れたり、排除したりしながら時代は変わっていきますね。自分が生きた時代が一番いいと思えたら幸せですね。
by リンさん (2021-02-02 17:48) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
そうですね。
少子化が進めば、産めよ増やせよで一夫多妻制が認められるようになるかも。
私は嫌ですけどね~^^
by リンさん (2021-02-02 17:51) 

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