邪な介護

土曜日は、おばあちゃんの家に行く。
足が悪いおばあちゃんを車椅子に乗せて、お散歩に行く。
「エミちゃん、いつも悪いわね。叔母さん助かるわ」
「1時間くらい歩いてくるから、韓流ドラマでも見たら」
「あら、じゃあ、そうさせてもらおうかな」
叔母さんは、いそいそと家の中に入っていった。

「おばあちゃん、湖の方に行こうか」
「そうだねえ」
天気がいいから、湖面がキラキラ輝いている。
水辺には、たくさんの鳥が集まっていた。
おばあちゃんは、昔の話ばかりする。
「ボケてるから適当に話合わせてね」と叔母さんが言っていた。
ウンザリだけど、いいこともある。

「そうだ。エミちゃんに、今月のお小遣い、あげてなかったね」
おばあちゃんはそう言って、1万円をくれる。
「ありがとう。おばあちゃん」
実はもらっている。おばあちゃんは、月に一度のお小遣いを毎週くれる。
「適当に話し合わせて」って叔母さんも言ってたし、別にいいよね。

バイト禁止の高校で、欲しいものも買えなかった。
もうすぐ卒業だし、卒業旅行は思いっきり贅沢したい。
ボケたおばあちゃんが毎回くれる１万円。１時間の散歩で１万円。
時給１万円なんて、夜のバイトよりいい。
おばあちゃんがボケてるおかげで、私の財布が潤っちゃう。

あと３回で１０万円突破だ。
そう思った矢先、おばあちゃんが突然亡くなった。
食べ物をのどに詰まらせて、あっけなく亡くなった。
お別れは悲しかった。
お金目当ての散歩だったけど、最期に一緒に見た湖のキラキラを思い出したら泣けてきた。
おばあちゃん、ごめん。お小遣いもらってない振りしてごめん。

お葬式の後、叔母さんに呼ばれた。
「エミちゃんに渡すものがあるのよ。これね、おばあちゃんがエミちゃんの卒業祝いに用意していたのよ。春になったら渡すつもりだったのね」
叔母さんは、『卒業祝い』と書かれた祝儀袋を差し出した。
裏には、『金１０万円』と書いてある。
「ここだけの話だけど、ケチなおばあちゃんが１０万も出すなんて、やっぱり孫は可愛いのね。それとも、お散歩効果かな」
叔母さんは、肩をすくめて笑った。
おばあちゃん、私のために１０万円も用意してたんだ。
ありがとう。ごめんね。私、大事に使うね。

家に帰って祝儀袋を開けると、３万円しか入っていない。
あれ、何で？　まさか叔母さん、抜いた？
よく見ると、お札の下に紙きれがあった。
『エミに小遣いあげた日１/14 ・1/21・ 1/28………』

えっ、小遣いの１万円、ここから出してたの？
おばあちゃん、しっかりしてる。
ボケてないじゃん！！

コメント 12

リンさんさん　こんばんは
ちゃんと教育までしているとは！
最後まで、おばあちゃんはすごかったのですね。
by SORI (2023-01-27 19:47) 

さすが、おばあちゃん。
分割でお支払いとは＾＾
「年寄だって甘くないのよ」と
天国で笑っていますね＾＾

by 青山実花 (2023-01-27 20:11) 

実際にありそう＾＾
さすがおばあちゃん♪っていう感じですね☆
by めりー (2023-01-28 00:19) 

おばあちゃん　そこだけはボケてなかったのかな？しっかりしたおばあちゃんだ。((´∀｀))
by たまきち (2023-01-28 04:44) 

ははは、、、亡くなった話しだけど、ラストは笑ってしまいやした。
おばあちゃん、空の上で、ふふふ、と笑っているでやしょうね。
by ぼんぼちぼちぼち (2023-01-28 12:12) 

いいですね。このオチ。ショートショートのオチは星新一的オチばかりではないことを認識させられました。みごとです。
SF私には書けないオチですね。
by 雫石鉄也 (2023-01-31 13:19) 

＜SORIさん＞
ありがとうございます。
おばあちゃん、一枚上手でしたね＾＾
by リンさん (2023-02-02 17:59) 

＜青山実花さん＞
ありがとうございます。
そうですね。
天国で舌出してるかも＾＾
by リンさん (2023-02-02 18:00) 

＜めりーさん＞
ありがとうございます。
高校生に大金はいけませんね＾＾
さすがおばあちゃんです。
by リンさん (2023-02-02 18:01) 

＜たまきちさん＞
ありがとうございます。
お金のことだけはしっかりしてる人って、割と多いみたいです。
by リンさん (2023-02-02 18:02) 

＜ぼんぼちぼちぼちさん＞
ありがとうございます。
本当ですね。
空の上から様子をうかがっているでしょうね。
by リンさん (2023-02-02 18:04) 

＜雫石鉄也さん＞
ありがとうございます。
ずる賢いことは出来ないっていう教訓でもあります＾＾
by リンさん (2023-02-02 18:06)