SSブログ

生まれ変わったら

「生まれ変わったら、お金持ちの家の子になりたいです。そして町で困っている人を見かけたら、100万円ずつ配ってあげます」

私が発表すると、クラスのみんながどっと笑った。
「佐伯さんは優しいのね。だけどね、昨日の宿題は、将来の夢ですよ。生まれ変わったらの話じゃないのよ」
みんながさらに笑った。

先生、私には将来はないんです。だってもうすぐ死ぬんだもの。
昨日の夜、パパとママが話すのを聞いてしまったんです。
コロナでお店がダメになって、借金もたくさんあって(たぶん100万円より多いです)、もうみんなで首をくくるしかないって言ってました。
だからもう、学校へ来るのも最後かもしれません。

金曜日の午後、私は仲良しのクラスメートに「元気でね」と言って別れた。
不思議そうな顔をしていた。
だって、今日が最後かもしれない。そんな予感がする。

家に帰ると、お客さんが来ていた。
真っ黒な服に身を包んだ、やけに痩せた青白い顔の男。
死神だ。絶対そうだ。パパが死ぬ情報を聞きつけて、魂を取りに来たんだ。
パパとママは、死神の前にかしこまって座っている。
「エリナ、奥に行っていなさい」
パパが言ったけど、私は動けなかった。
「お嬢さんも一緒にどうぞ」
死神が言った。低い声だ。私も一緒に連れて行くつもりだ。
天国か、地獄か。生まれ変われるならどっちでもいい。
パパとママの後ろにちょこんと座った。

「さて」と言いながら、死神が鞄から書類を取り出した。
死神と契約するつもりなんだ。どんな契約? 苦しまないで天国に行ける契約?
それなら私もサインする。

「こちらが、佐伯様が相続する財産でございます」
財産? ちらっと覗いたら、数字が並んでいる。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……。すごい。100万よりずっと多い。
「突然言われても」と言いながら、パパも数字を目で追っている。
「故人の遺言でございます。故人とお母さまが離婚されて、幼少期に家を出たとはいえ、立派な血縁がございます。当然の権利ですよ」

死神……じゃなくてパパのお父さんの弁護士が帰った後、パパとママは呆然としていた。
パパのお父さんがものすごくお金持ちだってことを、パパとママはまるで知らなかったみたい。おばあちゃんは何も言わずに死んじゃったから。
「お店、続けられるね」
ママが、涙声で言った。
「首をくくらなくていいんだね」
私が言うと、パパとママは驚いだ顔をした。
「ばかだな。そんなことするわけないだろう」
笑った。久しぶりに、みんなで笑った。

「私の将来の夢は、パパのお店を大きくすることです。今は小さなレストランだけど、100人くらい座れる大きな店にして、先生やみんなを無料で招待します」
月曜日、私は大きな声で発表をした。
「ありがとう、佐伯さん。先生、うんと長生きしなくちゃね」
みんなが笑った。
将来があるって、いいなあと思った。

nice!(11)  コメント(10)