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帽子じぞう [名作パロディー]

木枯らしが吹く帰り道、3年生のリカと、1年生のマミが並んで歩いています。
リカとマミは姉妹です。
「ねえ、お姉ちゃん。今日学校でね、笠地蔵の本を読んだよ」
「あー、あたしも読んだことあるよ。お地蔵さんに笠をかぶせて大金持ちになる話」
「マミもお地蔵さんに笠をかぶせてあげたいなって思った」
「笠なんて家にないよ。昔の笠は今の傘と違うんだから」
「そっか。じゃあ、帽子は?」
「あー、帽子ならいいね」
「帽子かぶせたら、お金くれるかな」
「そうだね。一万円くらいくれるかも」
「いちまんえん!!そんなにくれるの?」
「お地蔵さん、金持ちだからね」
「じゃあさ、帽子かぶせよう。ほら、バス停の横にお地蔵さんいるでしょ」
「ああ、いるね。よし、家に帰って帽子もってこよう」

リカとマミは、家に帰っておやつも食べずに帽子を探しました。
「あんたたち、何やってるの?」
「何でもないよ、ママ。それより、洗濯物が風で飛ばされそうだったよ」
「あら大変。取り込まなくちゃ」
ママがいなくなって、ふたりはホッとしました。
ママに話したら、一万円を取られてしまいます。

「お姉ちゃん、帽子あったよ」
「よし、じゃあ、ママが洗濯物を取り込んでるうちに出かけよう」
リカとマミは、バス停まで走りました。
昼間はバスの本数が少ないので、お地蔵さん以外誰もいません。

「お地蔵さん、あったかい帽子を持ってきたよ。かぶせてあげるね」
「お地蔵さん、似合うね」
「あたまは暖かくなったけど、首が寒そう」
「マフラーも持ってくれば良かったね」
「いいこと考えた」
リカは、枯れすすきを取ってきて、お地蔵さんの首に巻きました。
「わあ、あったかそう。よかったね、お地蔵さん」
「マフラーっていうより、ヒゲみたいだけどね」
「お姉ちゃん、これで一万円だね」
リカとマミはスキップしながら帰りました。

しかし寝る時間になっても、お地蔵さんはお礼に来ません。
「笠地蔵のお地蔵さんは、すぐ来たのにね」
「ATMが故障してたのかな?」
そのとき、パパが子ども部屋にやってきました。
「リカ、マミ、去年ドンキで買った、サンタクロースの帽子を知らないかな。会社の忘年会でかぶろうと思ったけど、どこにもないんだ」
リカとマミは顔を見合わせました。
「し、しらない……」
「そうか、失くしちゃったかな」

リカとマミがお地蔵さんにかぶせたのは、パパのサンタクロースの帽子でした。
「お姉ちゃん、明日、返してもらおうか」
「でもさ、一万円もらった方がよくない?一万円でサンタの帽子いっぱい買えるよ」
「そうか。お姉ちゃん、頭いい!」

翌日、お地蔵さんの前に、子どもたちの行列が出来ていました。
『ポケモンのゲームが欲しいです』
『スマホが欲しいです』
『プリキュアのコスチューム、ください』
子どもたちは手を合わせてクリスマスプレゼントをお願いしていました。

「お姉ちゃん、お地蔵さんが、サンタさんになっちゃったね」
「そうだね。あたしたちがかぶせた帽子と、すすきのヒゲのおかげで大人気だね」
「お仕事増えて忙しくて、お礼に来られなかったんだね」
「パパの忘年会より有意義かも」
「たくさんお願い事されてるけど、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。お地蔵さん、金持ちだから」
「ついでにクリスマスプレゼントもお願いしようかな」
「そうだね。一万円と一緒にクリスマスに届けてもらおう」

リカとマミの元に一万円が届くことは、もちろんありません。
だけどお地蔵さんは、ちょっぴり楽しそうでした。



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