しっかりものの赤ずきん [名作パロディー]
あるところに、とてもしっかりした女の子がいました。
女の子はいつも赤いずきんをかぶっていたので、あかずきんと呼ばれていました。
ある日母親が、あかずきんにおつかいをたのみました。
「おばあさんが病気なのよ。このケーキとぶどう酒を届けておくれ」
「わかりました。しかしお母様、病人にケーキというのはいかがなものでしょう。おかゆと栄養ドリンクあたりの方が喜ばれると思いますが。
ところで保冷剤は入れましたか?春とはいえ、昼間は汗ばむ陽気。万が一いたんだ物を食べさせたとあっては、嫁姑問題にもなりかねません」
「そ、そうね。気がつかなかったわ」
「まあ今回は私の方で取り繕っておきましょう。次回からもう少し考えた方がいいかもしれませんよ。お母様」
「…わかったわ。
ところであかずきん、寄り道しちゃだめよ」
「わかっています。
わたしの一番嫌いな言葉は、無駄と浪費です。
寄り道などするわけがないじゃないですか」
「そ、そうだったわね。じゃあ、気をつけて」
あかずきんが出かけると、母親は大きなため息をつきました。
「やれやれ、しっかりした子だわ。誰に似たのかしら」
あかずきんは、森にさしかかったところで、立ち止まって計算しました。
「ちゃんとした道を通れば2.7キロ、森を抜ければ2.5キロ。森の方が近いわ」
あかずきんは、森の中に入っていきました。
森には悪いオオカミが、あかずきんを待っていました。
「やあ、あかずきんちゃん、こんにちは」
「失礼ですがどちらさまですか?」
「森に住んでるオオカミだよ。どこへ行くんだい?」
「それをあなたにお答えする義務があるのでしょうか?」
「いや…義務って、そんな…」
「先を急ぎますので失礼します」
「ああ、ちょっと待ってよ」
「まだ何か?」
あかずきんは、時間のロスが気になって、だんだん苛立ってきました。
「森の中は危ないから、おいらがついていってあげようか」
「けっこうです。おばあさまの家に行くだけですから。何度も行って慣れています。ご心配は無用です」
「そうか。おばあさんの家に行くのか。じゃあ花でも摘んで持っていったらどうだい。この先に、きれいに咲いているよ」
「けっこうです。花は野に咲くからこそ美しいのです。それを人間の都合で摘み取っても構わないのですか?わたしには出来ません。では、先を急ぎますので」
赤ずきんはてきぱきを歩いて行きました。
「ちぇ、なんてしっかりしたガキだ。よし、こうなったら先回りしてばあさんを食ってやる」
オオカミが本気を出して走ると、てきぱき歩く赤ずきんでも、さすがにかないません。
オオカミは、おばあさんの家に着くと、病気で寝ているおばあさんをあっという間に食べてしまいました。
「うわ、やっぱり年寄りはまずいな。思わず丸呑みしちゃったよ。赤ずきんがきたら、ゆっくり味わって食べてやる」
オオカミはベッドに入って、おばあさんの振りをしました。
そこへ赤ずきんがやってきました。
「おばあさま、お加減はいかがでしょうか」
「おや、あかずきんかい。お入り」
おばあさんに化けたオオカミがしゃがれた声を出しました。
「おばあさん、声がへんですわ。風邪のせいですね」
「もっとこっちにおいで」
「少々お待ちください」
赤ずきんはそう言うと、マスクと手袋をつけました。
なんて用意がいいのでしょう。
「おばあさまの目はどうしてそんなに光っているのですか?」
「あ、ああ、これは、お前の顔がよく見えるようにさ」
「そんな抽象的な説明は結構です。悪い病気かもしれませんよ。ちゃんと検査した方がよろしいんじゃないですか」
「そ…そうだね」
「耳はどうしてそんなに大きいのですか?」
「おまえの声がよく聞こえるようにさ」
「そんな子供だましの答えは結構です。補聴器を使うことをお勧めします」
「そ…そうだね」
「口はどうしてそんなに大きいのですか?」
「それはおまえを食べるためだ!」
オオカミはガバっと起き上がって、赤ずきんに襲いかかりました。
「やはり、そういうことですか。おばあさまはこのお腹の中にいるのですね」
赤ずきんは冷静にそう言うと、自らオオカミの口の中へ飛び込みました。
「ありゃりゃ!味わって食べたかったのに、また丸呑みしちゃった」
オオカミのお腹の中で、赤ずきんはおばあさんと再開しました。
「おばあさま、大丈夫ですか?」
「あら、赤ずきん、おまえまで食べられちゃったのかい?」
「ご心配は無用です、おばあさま。こんなこともあろうかと、先ほど会った猟師の方にお願いしたのです」
「何をだい?」
「私が20分たっても出てこなかったら、助けに来てくださいとお願いしたのです」
「はあ~、しっかりした子だね~」
「あ、おばあさま、動かないで!胃液に触れると溶けてしまいますよ」
「ひえ~」
しばらくすると、猟師が来ました。
オオカミは、お腹いっぱいで寝ていました。
「この中に、さっきの子がいるんだな。あの、やけにしっかりした子が」
猟師ははさみで、オオカミのお腹を切りました。
「おじさん、あと3ミリ右です。そうそう、そこで一気に切り裂いてください」
猟師は、赤ずきんの完璧な誘導のもと、無事にふたりを助け出すことが出来ました。
よかったよかった。
おばあさんは、オオカミのお腹に石をつめて、川に流しました。
楽しそうに石を拾い集めるおばあさんは、もはや病気には見えませんでした。
「さあ、赤ずきん、いっしょにケーキを食べよう」
「はい、いただきます」
「ぶどう酒も飲むかい?」
「いいえ、こう見えても私はまだ4歳です。未成年にお酒は勧めないで下さい」
「ああ、そうだったね。
やれやれ、しっかりした子だよ」
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女の子はいつも赤いずきんをかぶっていたので、あかずきんと呼ばれていました。
ある日母親が、あかずきんにおつかいをたのみました。
「おばあさんが病気なのよ。このケーキとぶどう酒を届けておくれ」
「わかりました。しかしお母様、病人にケーキというのはいかがなものでしょう。おかゆと栄養ドリンクあたりの方が喜ばれると思いますが。
ところで保冷剤は入れましたか?春とはいえ、昼間は汗ばむ陽気。万が一いたんだ物を食べさせたとあっては、嫁姑問題にもなりかねません」
「そ、そうね。気がつかなかったわ」
「まあ今回は私の方で取り繕っておきましょう。次回からもう少し考えた方がいいかもしれませんよ。お母様」
「…わかったわ。
ところであかずきん、寄り道しちゃだめよ」
「わかっています。
わたしの一番嫌いな言葉は、無駄と浪費です。
寄り道などするわけがないじゃないですか」
「そ、そうだったわね。じゃあ、気をつけて」
あかずきんが出かけると、母親は大きなため息をつきました。
「やれやれ、しっかりした子だわ。誰に似たのかしら」
あかずきんは、森にさしかかったところで、立ち止まって計算しました。
「ちゃんとした道を通れば2.7キロ、森を抜ければ2.5キロ。森の方が近いわ」
あかずきんは、森の中に入っていきました。
森には悪いオオカミが、あかずきんを待っていました。
「やあ、あかずきんちゃん、こんにちは」
「失礼ですがどちらさまですか?」
「森に住んでるオオカミだよ。どこへ行くんだい?」
「それをあなたにお答えする義務があるのでしょうか?」
「いや…義務って、そんな…」
「先を急ぎますので失礼します」
「ああ、ちょっと待ってよ」
「まだ何か?」
あかずきんは、時間のロスが気になって、だんだん苛立ってきました。
「森の中は危ないから、おいらがついていってあげようか」
「けっこうです。おばあさまの家に行くだけですから。何度も行って慣れています。ご心配は無用です」
「そうか。おばあさんの家に行くのか。じゃあ花でも摘んで持っていったらどうだい。この先に、きれいに咲いているよ」
「けっこうです。花は野に咲くからこそ美しいのです。それを人間の都合で摘み取っても構わないのですか?わたしには出来ません。では、先を急ぎますので」
赤ずきんはてきぱきを歩いて行きました。
「ちぇ、なんてしっかりしたガキだ。よし、こうなったら先回りしてばあさんを食ってやる」
オオカミが本気を出して走ると、てきぱき歩く赤ずきんでも、さすがにかないません。
オオカミは、おばあさんの家に着くと、病気で寝ているおばあさんをあっという間に食べてしまいました。
「うわ、やっぱり年寄りはまずいな。思わず丸呑みしちゃったよ。赤ずきんがきたら、ゆっくり味わって食べてやる」
オオカミはベッドに入って、おばあさんの振りをしました。
そこへ赤ずきんがやってきました。
「おばあさま、お加減はいかがでしょうか」
「おや、あかずきんかい。お入り」
おばあさんに化けたオオカミがしゃがれた声を出しました。
「おばあさん、声がへんですわ。風邪のせいですね」
「もっとこっちにおいで」
「少々お待ちください」
赤ずきんはそう言うと、マスクと手袋をつけました。
なんて用意がいいのでしょう。
「おばあさまの目はどうしてそんなに光っているのですか?」
「あ、ああ、これは、お前の顔がよく見えるようにさ」
「そんな抽象的な説明は結構です。悪い病気かもしれませんよ。ちゃんと検査した方がよろしいんじゃないですか」
「そ…そうだね」
「耳はどうしてそんなに大きいのですか?」
「おまえの声がよく聞こえるようにさ」
「そんな子供だましの答えは結構です。補聴器を使うことをお勧めします」
「そ…そうだね」
「口はどうしてそんなに大きいのですか?」
「それはおまえを食べるためだ!」
オオカミはガバっと起き上がって、赤ずきんに襲いかかりました。
「やはり、そういうことですか。おばあさまはこのお腹の中にいるのですね」
赤ずきんは冷静にそう言うと、自らオオカミの口の中へ飛び込みました。
「ありゃりゃ!味わって食べたかったのに、また丸呑みしちゃった」
オオカミのお腹の中で、赤ずきんはおばあさんと再開しました。
「おばあさま、大丈夫ですか?」
「あら、赤ずきん、おまえまで食べられちゃったのかい?」
「ご心配は無用です、おばあさま。こんなこともあろうかと、先ほど会った猟師の方にお願いしたのです」
「何をだい?」
「私が20分たっても出てこなかったら、助けに来てくださいとお願いしたのです」
「はあ~、しっかりした子だね~」
「あ、おばあさま、動かないで!胃液に触れると溶けてしまいますよ」
「ひえ~」
しばらくすると、猟師が来ました。
オオカミは、お腹いっぱいで寝ていました。
「この中に、さっきの子がいるんだな。あの、やけにしっかりした子が」
猟師ははさみで、オオカミのお腹を切りました。
「おじさん、あと3ミリ右です。そうそう、そこで一気に切り裂いてください」
猟師は、赤ずきんの完璧な誘導のもと、無事にふたりを助け出すことが出来ました。
よかったよかった。
おばあさんは、オオカミのお腹に石をつめて、川に流しました。
楽しそうに石を拾い集めるおばあさんは、もはや病気には見えませんでした。
「さあ、赤ずきん、いっしょにケーキを食べよう」
「はい、いただきます」
「ぶどう酒も飲むかい?」
「いいえ、こう見えても私はまだ4歳です。未成年にお酒は勧めないで下さい」
「ああ、そうだったね。
やれやれ、しっかりした子だよ」
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2010-06-03 17:48
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赤ずきんちゃんのお話自体、
女の子が誘惑に負けてはいけないよっていう
イマシメみたいなお話ですよね。
一人で寂しい道を歩いてはいけません。
花とかにそそのかされてだまされちゃいけません。
しっかり者になりなさいっていうイマシメ。
そういう意味でもカンペキなパロディとなっていますねぇ!
by 矢菱虎犇 (2010-06-04 04:40)
題名がバッチリ☆はまってますね^^
by めりー (2010-06-04 16:19)
昔話のパロディは難しいので
ボクはできるだけ避けてるんです。
だけど、なるほど、こういう風に書くといいんですね!
いつか、やってみます。
勉強になりました。
特に、この赤ずきんちゃんの冷静さ。
ギャップがいいんですね。
by ヴァッキーノ (2010-06-04 21:17)
<矢菱さん>
もしも、赤ずきんがしっかりしていたら…そんな事を想像してたら面白くなってきて、こんなお話ができました。
まあ、これでは教訓になりませんかね?
by リンさん (2010-06-05 18:30)
<めりーさん>
ありがとうございます。
パロディーの場合、題名にもけっこう気を使うんですよね。
注目していただけてうれしいです^^
by リンさん (2010-06-05 18:32)
<ヴァッキーノさん>
昔話のパロディーは、現代風にしたり、その後の話を考えたりするとおもしろいです。
子供が小さい頃に、よく話を作って聞かせてたんですよ。
これは、子供にいちばん好評だった話です。
ヴァッキーノさんもぜひぜひ、作ってみてください。
by リンさん (2010-06-05 18:35)
しっかりしてますねえ。
・・・しかし、赤ずきんちゃん、4歳なんですか!?
てっきり8歳くらいはいっているだろうと思っていたのに。
一人で森に行かせる親も親ですが、
酒を飲ませようとする祖母もまた・・・・・・
おおらかな家族からものすごい鷹が生まれましたねw
by 愛輝 (2010-06-06 22:42)
<愛輝さん>
赤ずきんちゃんの年齢は、テキトーです(笑)
家にある絵本の挿絵が4歳ぐらいだったので。
「はじめてのおつかい」みたいに、取材班がついて行くならわかりますけどね(笑)
by リンさん (2010-06-07 16:29)