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僕は253号 [ファンタジー]

もやもやした白い部屋で目が覚めた。
ここはいったいどこだろう。そして僕はいったい誰だろう。
まるで覚えていなかった。

白い服を着た老人が、僕の前に立った。
「お目覚めですか?」
「あなたは誰です?ここはどこです?そして僕は誰です?」
「まあ落ち着いて。順番にお話しします。まず、私は神様です。ここは死後の世界です。そしてあなたは253号です」
「死後の世界?僕は死んだのか?しかも253号ってなんだ」
「はい、お若いのに残念ですがあなたは亡くなりました。大きなトラックにぶつかったのです。
そして名前はここでは必要ありません。前世の記憶は、生まれ変わるときに邪魔になります」
253…その数字を、僕はどこかで見たような気がした。
そうか、僕は死んだのか。記憶がないから、まるで何も感じなかった。

「僕は、これからどこへ行くのですか?」
「今、審査をしていますので、もう少々こちらでお待ちください」
「天国か地獄かを審査しているのか?」
「天国に行くことは決定しておりますが、天国でもいろいろとランクがございまして」
「なんだ、天国にも格付けがあるのか」
僕はうんざりしながら、審査を待った。

しばらくすると、神様が部屋に入ってきた。
「253号、審査が終わりましたよ」
「やっと天国に行けるんだね」
「はい、253号、あなたは天国のBランクです」
「Bランク?それってどうなの?」
「A~EのBランクです。いい方ですよ。来世では長生きが出来そうですよ。
よかったですね、253号」
「ふ~ん」とうなづきながら、僕は何かを感じていた。

Bランク…Bランク…。Bランクってなんだっけ?
そうだ!予備校の模試だ。僕はいつもBランクだった。
ああ、思い出した。僕は受験生だった。毎日必死で勉強して試験を受けた。
そして合格発表の日、僕はトラックにぶつかった。
薄れていく記憶の中で、僕は握りしめていた受験票を見た。253番…それが僕の番号だった。

「神様!思い出しました。僕はすごく頑張って大学を受験したんです。お願いです。合格しているかどうかだけ、確認させてください」
「おや、思い出してしまったんですか。困りましたね。現世に未練を残したままでは、天国にお連れ出来ないんですよ」
「合否を確かめたい。それだけ見たら、全部忘れて天国に行くよ。神様、お願いだ」
「仕方がありませんね。特別ですよ。他の方には内緒ですよ」
神様は、人差し指を口にあてた。
「では目を閉じてください。そして3つ数えたら開けてください」
僕は目を閉じた。
3,2,1…

ゆっくり目を開けると、僕の前をすごい勢いでトラックが通り過ぎた。
「うわ!」っと体をのけぞると、トラックの運転手が「気を付けろ」と怒鳴った。
あのトラックに、僕は轢かれるんだな…。

僕はとりあえず大学へ向かった。掲示板を見ると、僕の番号253は、確かにそこにあった。その数字は、3D映像のように浮かび上がって見えた。
やった!合格だ!
僕は飛び上がって喜んだ。そしてポロポロと泣いた。
これで、思い残すことはないはずなのに、僕は悲しくて仕方なかった。

「気が済みましたか?」
神様が立っていた。僕はうなづいた。だって、仕方がないだろう。
「本当に、気が済みましたか?」
神様は、僕の心がわかっているかのように、微笑んだ。

「気が済むわけないだろう。頑張って合格したのに、入学前に死ぬなんて悲しすぎるだろう」
「そうですか。心残りがあるんですね」
「もちろんあるさ。合格がゴールじゃないんだ」
「では、あなたを天国に連れて行くわけにはいきません。先ほども言いましたが、現世に未練を残したまま、天国には行けないんですよ。かといって、地獄に行くほど悪い人でもない。仕方ないですね。あなた、ここに残ってください」
「どういうこと?僕、生き返っていいってこと?」
「そういうことです」
「ありがとう」
「やれやれ、これで私はまた降格ですよ」
神様は、困ったような顔をしながらも笑っていた。
「ああ、車にはじゅうぶん気を付けてくださいね。253号…いや、鈴木よしおさん」
名前を取り戻した僕は、253番の受験票を握りしめて、もう一度泣いた。

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ヴァッキーノ

蘇っちゃったんですね。
しかも時間まで巻き戻りました。
この場合、プラスマイナスゼロにするために
死ななくていい誰かが代わりに死んじゃうんでしょうね。
今度、そっちのバージョンもお願いします!
(うそ)
by ヴァッキーノ (2011-03-11 12:33) 

雫石鉄也

この神様、ええ人(?)ですね。
出世しませんね。
by 雫石鉄也 (2011-03-11 13:25) 

haru

あらら、せっかく天国のBランクに行けたものを。。。
私なら喜んで行くなぁー!
だって、少子化に年金問題、なんも解決しないうちに
新燃岳の噴火、そして今日は日本最大の地震だって。
ひょっとして、ここは地獄ではないかと……。
考えすぎでしょうかね。(笑)
by haru (2011-03-11 18:56) 

ぼんぼちぼちぼち

地震 大丈夫でやしたか?
by ぼんぼちぼちぼち (2011-03-11 20:32) 

クローヴ

面白かったです。
よく来世とか生まれ変わるとかいいますが、
私は死んだら二度と生まれ変わりたくない…と願っています(^^;
by クローヴ (2011-03-12 16:13) 

hiro1468

僕も受験が終わって、ブログとか色々なことを軌道にもどそうとした矢先
この地震…正直不安です、りんさんは大丈夫なようですね…。

来世で生まれ変わるっていうのはよく言われてますが…
僕はどうなんでしょうね。
ちょっと死ぬ前にこういう小説書いてみて、神様に訴えてみます(笑
by hiro1468 (2011-03-13 00:32) 

ヴァッキーノ

落ちたリンゴは元の枝には戻りませんけど
種は、蒔かれるわけです。
これからが、日本に生きるボクらの正念場なんでしょうね。

世界の終りに自分はなにをしているんだろう?
ってのが、ボクのひとつのテーマなんですけど
なるほど、
ブログ記事の更新のために、画像の準備をしてました(笑)
なんともはや。
by ヴァッキーノ (2011-03-14 07:01) 

リンさん

<ヴァッキーノさん>
そうか、代わりに誰かが犠牲になるんですかね。
神様の降格で、ひとつ納めてもらえませんか?^^
by リンさん (2011-03-14 16:44) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ええ人ですわ。
確かに出世はしませんねえ^^
by リンさん (2011-03-14 16:45) 

リンさん

<haruさん>
Bランクでいいんですか?
Aランクを目指しましょうよ。

地震…まさに地獄絵図のようでした。
みんな優しい神様が生き返らせてあげたらいいのに…
by リンさん (2011-03-14 16:49) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
はい、家族全員無事でした。
ご心配ありがとうございます。
by リンさん (2011-03-14 16:50) 

リンさん

<クローヴさん>
そうですか。
前世の記憶はないから、生まれ変わってもいいんじゃないですか。
私は、生まれ変わりたいなあ~^^
by リンさん (2011-03-14 16:56) 

リンさん

<hiroさん>
受験お疲れ様でした。
それにしてもすごい地震でした。
hiroさん、無事でよかった。
by リンさん (2011-03-14 16:58) 

リンさん

<再びヴァッキーノさん>
そうですね。人間は強いですから、きっと大丈夫です。
ヴァッキーノさんが無事でよかった。

ヒアアフター、見ようと思っていましたが、怖くて見られなくなりました。
by リンさん (2011-03-14 17:00) 

ぼんぼちぼちぼち

ご無事で何よりでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2011-03-14 18:19) 

愛輝

なんだか「カラフル」を思い出しました。
映画ではなく中学生くらいの時に原作を随分前に読んだきりですが、
読了後のなんともいえない、刹那的に輝く感じが似ています。

・・・・・・後悔しないようにしたいなあ。
by 愛輝 (2011-03-16 23:10) 

リンさん

<愛輝さん>
カラフルは、読んでいないんですが、娘が読んで面白かったと言ってました。映画にもなったんですよね。
今度見てみようかな。
by リンさん (2011-03-17 14:52) 

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