新説 蜘蛛の糸 [名作パロディー]
わたくしは、醜い蜘蛛でございます。
おんなこどもは、わたくしを見ただけで悲鳴をあげるのでございます。
しかもわたくしは、毒を持っておりますので、誰も近づいてはくれません。
そんなわたくしを、可愛がってくれたお方がおりました。
カンダータという男でございます。
カンダータは、悪い男でございました。
お金をもらって平気で人を殺す、非情な殺し屋でございました。
だけど、どんな男でも、わたくしにとっては、たったひとりの男でございました。
「さあ、おまえの毒をわけておくれ」
カンダータは、そう言うとわたくしの毒を注射器に入れるのでございます。
わたくしはカンダータのためならば、いくらでも毒を吐いてさしあげました。
たとえそれが、人殺しに使われようとも。
ある日、カンダータは正体がばれて、捕まってしまったのでございます。
わたくしは、カンダータを助け出さなければ、と思いました。
カンダータは、ひどく傷つけられて独房に入れられていました。
窓もない、冷たく狭い独房です。
わたくしは、天井裏から忍び込み、カンダータに向かって糸を垂らしたのでございます。
「さあ、カンダータ、その糸を伝って昇っておいで」
カンダータは、傷ついた体を起こして、糸を見ました。
そしてその上にいる、わたくしの姿をとらえたのでございます。
「さあ、わたくしのところにいらっしゃい」
わたくしが手をさしのべたときでございます。
カンダータは、突然大声で悲鳴をあげたのでございます。
「うわ!毒蜘蛛だ!あっちへ行け!」
可哀想なカンダータは、わたくしがわからないほど、混乱していたのでございます。
ひどい仕打ちに、頭がおかしくなっていたのでしょう。
お気の毒です。
わたくしは、うろたえて逃げ回るカンダータが哀れでなりませんでした。
いっそ、わたくしの手で殺してさしあげましょう。
わたくしは糸を伝って、するするとカンダータの元へ降りたのでございます。
そしてその首筋に、毒を入れてさしあげたのです。
カンダータの全身に、わたくしの毒がまわり始めました。
体が小刻みに震え、やがて動かなくなりました。
わたくしは、その隣に寄り添って、そっと息絶えたのでございます。
カンダータとわたくしは、どこまでも一緒でございます。
たとえそれが地獄の果てでございましても…。
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おんなこどもは、わたくしを見ただけで悲鳴をあげるのでございます。
しかもわたくしは、毒を持っておりますので、誰も近づいてはくれません。
そんなわたくしを、可愛がってくれたお方がおりました。
カンダータという男でございます。
カンダータは、悪い男でございました。
お金をもらって平気で人を殺す、非情な殺し屋でございました。
だけど、どんな男でも、わたくしにとっては、たったひとりの男でございました。
「さあ、おまえの毒をわけておくれ」
カンダータは、そう言うとわたくしの毒を注射器に入れるのでございます。
わたくしはカンダータのためならば、いくらでも毒を吐いてさしあげました。
たとえそれが、人殺しに使われようとも。
ある日、カンダータは正体がばれて、捕まってしまったのでございます。
わたくしは、カンダータを助け出さなければ、と思いました。
カンダータは、ひどく傷つけられて独房に入れられていました。
窓もない、冷たく狭い独房です。
わたくしは、天井裏から忍び込み、カンダータに向かって糸を垂らしたのでございます。
「さあ、カンダータ、その糸を伝って昇っておいで」
カンダータは、傷ついた体を起こして、糸を見ました。
そしてその上にいる、わたくしの姿をとらえたのでございます。
「さあ、わたくしのところにいらっしゃい」
わたくしが手をさしのべたときでございます。
カンダータは、突然大声で悲鳴をあげたのでございます。
「うわ!毒蜘蛛だ!あっちへ行け!」
可哀想なカンダータは、わたくしがわからないほど、混乱していたのでございます。
ひどい仕打ちに、頭がおかしくなっていたのでしょう。
お気の毒です。
わたくしは、うろたえて逃げ回るカンダータが哀れでなりませんでした。
いっそ、わたくしの手で殺してさしあげましょう。
わたくしは糸を伝って、するするとカンダータの元へ降りたのでございます。
そしてその首筋に、毒を入れてさしあげたのです。
カンダータの全身に、わたくしの毒がまわり始めました。
体が小刻みに震え、やがて動かなくなりました。
わたくしは、その隣に寄り添って、そっと息絶えたのでございます。
カンダータとわたくしは、どこまでも一緒でございます。
たとえそれが地獄の果てでございましても…。
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2011-07-04 21:53
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コメント(12)
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わぁ この作品パロディーなんかじゃないですよ。
りっぱな恋愛小説だと思います。
ちなみに私は蜘蛛好きです。
相方さんは蜘蛛が大嫌い。ねこズも蜘蛛は食べちゃうし。
だから いつも家の中で蜘蛛を見つけたら、そっとつまんで戸棚の中とか
クローゼットの中に隠します。
by もぐら (2011-07-04 23:40)
『蜘蛛の糸』のパロディといえば、やっぱりお釈迦様の意図をどう解釈するか、糸を垂らす展開をどう料理するか、なんてところに目が行ってしまうんです、ボクの場合。
でもりんさんはやっぱりスゴイ!
蜘蛛目線で、虐げられたものの愛の話に仕立てちゃうんだもん。
by 矢菱虎犇 (2011-07-05 00:30)
今回は。。。なんだか怖いお話でしたね。
毒蜘蛛の一途さが、
ゾォワァ~っと。。。伝わってきます。
リンさんってば。。。
蜘蛛の糸のパロディで。。。
無理心中へ展開させてゆくなんて。。。さすがの発想力。
楽しみました。ありがとっ♪
by 春待ち りこ (2011-07-05 23:33)
りんさんは、やっぱりすごいなあー!
語り口調がよけいに切なさを感じさせますね。
ウチの娘も蜘蛛・虫メチャ苦手、庭で見たものなら大騒ぎ!
蜘蛛は虫を食べてくれる人間にとっては、益虫なんだよと教えても、
嫌いなものは、嫌い!
私の朗読がもっと上手になったら、いつかりんさんの作品を読ませて頂きたいです。
もぐらさんのようにはいきませんけどね。(笑)
by haru (2011-07-06 17:51)
うううっ、この写真は。。
昨日も1匹殺してしまいました。
きっと私には蜘蛛の糸は降りてこないです。
by 浅葱 (2011-07-06 20:31)
<もぐらさん>
ありがとうございます。
そうですか。蜘蛛好きなんですか。
私はダメです。
娘はゴマ粒ほどの蜘蛛でも大騒ぎです。
だけどクローゼットに隠すと、蜘蛛巣だらけにならない?(笑)
by リンさん (2011-07-07 17:12)
<矢菱さん>
ありがとうございます。
これは、あの蜘蛛の糸の前の話…かな?
このあとカンダータは地獄に行きますが、果たしてお釈迦様は登場するのでしょうか。
by リンさん (2011-07-07 17:16)
<りこさん>
蜘蛛って、何となく執念深いイメージがありますよね。
一途なだけに怖~いですね。
無理心中…ああ、そうですね。
蜘蛛さんは幸せだったのね。
by リンさん (2011-07-07 17:19)
<haruさん>
私も虫はダメですね。
蜘蛛ってどこにでも現れるから怖いです。
スパイダーマンは好きだけど。
朗読…そのうちぜひお願いします。
haruさんの声で読んでほしいなあ。
by リンさん (2011-07-07 17:22)
<浅葱さん>
写真に反応しましたね(笑)
私はなるべく殺さないで逃がすようにしています。
蜘蛛の糸が切れないように、ダイエットしなくちゃ^^;
by リンさん (2011-07-07 17:23)
人生で、蜘蛛の糸を読まなけりゃ、どんなに幸せだっただろう
って思うんです。
あのお話しのせいで、けっこうボクは蜘蛛を殺せなくなりましたよ。
それは、地獄ってもんがあって、そこからいつか恩返しみたいにして
今まで助けた誰かが助けてくれるんじゃねえかという
浅はかな思いからなんです。
それもこれも蜘蛛の糸のせいだ!
だけど、おりんさんは、視点が違いますねえ。
地獄に行く前の段階ですもんね。
すごいなあ。
by ヴァッキーノ (2011-07-07 21:07)
<ヴァッキーノさん>
私も蜘蛛が殺せないです。
蜘蛛の糸を読んだせいなのかな?
まあ、私たちは地獄に行かないように気をつけましょう(笑)
by リンさん (2011-07-09 13:10)