サバイバルゲーム [男と女ストーリー]
M社が主催するサバイバルゲームに参加した。
何もない無人島で数日間を過ごすゲームだ。
リタイアせずに最後まで残った者がM社に就職できる。
僕は必死だった。就職が決まらず焦っていた。
実家からは帰って民宿を手伝えと言われるし、最後の大勝負だったのだ。
参加者は10人。船に乗れるのが10人だから、ジャンケンで勝ち残りを決めた。
すでにサバイバルが始まっていたのだ。
男6人と女4人。トイレもシャワーもないから、女子にはきついだろう。
早くリタイアしてくれれば僕も助かる。
無人島には、雨風をしのぐだけの寝床と、3日分の食糧と水が用意されていた。
そのあとは自分で何とかしろと言うわけだ。
みんなあまり話をしなかった。ライバル意識が強いのだろう。
2日目に、男2人がリタイアした。
大きなムカデに、生命の危機を感じたから、という理由だった。
3日目に、女子2人がリタイアした。
ケイタイのない生活に耐えられなかったらしい。
食糧がなくなると、2人の男と1人の女子がリタイアした。
マクドナルドや、ケンタッキーの幻覚が見えるようになったらしい。
残ったのは僕と、夏海という女の子のふたりだ。
夏海は日焼けした健康そうな女の子で、笑顔が可愛いと思った。
恋愛感情は持たないようにしていたけれど、実はいちばん気になる子だった。
僕は海辺の町で育ったので、海に潜って魚を獲るくらい簡単にできた。
一方夏海は、植物に詳しかった。
食べられる野草を取ってきたり、木の実を取ったりした。
僕たちは協力し合った。何しろ、ふたりしかいないのだ。
ふたりとも田舎育ちだったから、話も合った。
協力し合って火を熾したり葉っぱでバケツを作ったりするうちに、まるで家族みたいな気がしてきた。
1週間が過ぎたころ、夏海が言った。
「ねえ、私たちのどちらか一人しか就職できないのよね」
「そうだね」
「私、あなたと一緒がいいわ」
夏海は日焼けした腕をからませてきた。
「僕だって、君と一緒がいいよ」
「じゃあ、明日同時にリタイアしない?同時にリタイアすれば、ふたりとも優勝でしょう」
「そうかな?」
「そうよ。超一流会社のM社だもん。2人くらい雇ってくれるわ」
夏海が僕にもたれかかる。
「うん」と頷いて、僕は夏海を抱きしめた。
朝になるとM社の船が沖に見える。
その船に向かって白い旗を振ればリタイア宣言だ。
翌朝、僕たちは並んで船を待った。
船が見えた。僕は思い切り白旗を振った。「リタイアします」
ところが、一歩下がったところに立っている夏海は、旗を振らなかった。
「夏海?なんで旗振らないの?」
夏海はニヤッと笑いながら、「気が変わったの」と、しらっとして言った。
男って馬鹿ね…と、その横顔が言っていた。
騙された。。。
船が来て、「№6の田中君、リタイア」と言った。
そして夏海の方を見て「№7の吉田さんはどうしますか?」と聞いた。
「私は残ります」
「それではあなたが優勝です。明日の朝迎えに来ます。一緒に本社に行きましょう」
勝ち誇った笑顔の夏海を残して、僕は帰った。
悔しさと情けなさで涙が出た。どうやら本気で夏海を好きだったようだ。
僕は就職浪人になった。
しかし数か月後、M社から連絡が来た。
「あなたを採用します」というものだった。
サバイバルゲームの好成績が認められたそうだ。
「え?だけど、夏海…吉田夏海さんはどうしたんですか?」
「吉田さんは、辞退しました」
「なぜですか?」
「吉田さんは、妊娠しています」
「え…?それって、もしかして…」
こうして僕は、大手のM社に就職した。
そして夏海は、今僕の隣で高級ブランドのカタログを見ている。
大きなお腹をさすりながら、「この子のためにも早く出世してね、パパ」
女って、やっぱりしたたかだ。
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何もない無人島で数日間を過ごすゲームだ。
リタイアせずに最後まで残った者がM社に就職できる。
僕は必死だった。就職が決まらず焦っていた。
実家からは帰って民宿を手伝えと言われるし、最後の大勝負だったのだ。
参加者は10人。船に乗れるのが10人だから、ジャンケンで勝ち残りを決めた。
すでにサバイバルが始まっていたのだ。
男6人と女4人。トイレもシャワーもないから、女子にはきついだろう。
早くリタイアしてくれれば僕も助かる。
無人島には、雨風をしのぐだけの寝床と、3日分の食糧と水が用意されていた。
そのあとは自分で何とかしろと言うわけだ。
みんなあまり話をしなかった。ライバル意識が強いのだろう。
2日目に、男2人がリタイアした。
大きなムカデに、生命の危機を感じたから、という理由だった。
3日目に、女子2人がリタイアした。
ケイタイのない生活に耐えられなかったらしい。
食糧がなくなると、2人の男と1人の女子がリタイアした。
マクドナルドや、ケンタッキーの幻覚が見えるようになったらしい。
残ったのは僕と、夏海という女の子のふたりだ。
夏海は日焼けした健康そうな女の子で、笑顔が可愛いと思った。
恋愛感情は持たないようにしていたけれど、実はいちばん気になる子だった。
僕は海辺の町で育ったので、海に潜って魚を獲るくらい簡単にできた。
一方夏海は、植物に詳しかった。
食べられる野草を取ってきたり、木の実を取ったりした。
僕たちは協力し合った。何しろ、ふたりしかいないのだ。
ふたりとも田舎育ちだったから、話も合った。
協力し合って火を熾したり葉っぱでバケツを作ったりするうちに、まるで家族みたいな気がしてきた。
1週間が過ぎたころ、夏海が言った。
「ねえ、私たちのどちらか一人しか就職できないのよね」
「そうだね」
「私、あなたと一緒がいいわ」
夏海は日焼けした腕をからませてきた。
「僕だって、君と一緒がいいよ」
「じゃあ、明日同時にリタイアしない?同時にリタイアすれば、ふたりとも優勝でしょう」
「そうかな?」
「そうよ。超一流会社のM社だもん。2人くらい雇ってくれるわ」
夏海が僕にもたれかかる。
「うん」と頷いて、僕は夏海を抱きしめた。
朝になるとM社の船が沖に見える。
その船に向かって白い旗を振ればリタイア宣言だ。
翌朝、僕たちは並んで船を待った。
船が見えた。僕は思い切り白旗を振った。「リタイアします」
ところが、一歩下がったところに立っている夏海は、旗を振らなかった。
「夏海?なんで旗振らないの?」
夏海はニヤッと笑いながら、「気が変わったの」と、しらっとして言った。
男って馬鹿ね…と、その横顔が言っていた。
騙された。。。
船が来て、「№6の田中君、リタイア」と言った。
そして夏海の方を見て「№7の吉田さんはどうしますか?」と聞いた。
「私は残ります」
「それではあなたが優勝です。明日の朝迎えに来ます。一緒に本社に行きましょう」
勝ち誇った笑顔の夏海を残して、僕は帰った。
悔しさと情けなさで涙が出た。どうやら本気で夏海を好きだったようだ。
僕は就職浪人になった。
しかし数か月後、M社から連絡が来た。
「あなたを採用します」というものだった。
サバイバルゲームの好成績が認められたそうだ。
「え?だけど、夏海…吉田夏海さんはどうしたんですか?」
「吉田さんは、辞退しました」
「なぜですか?」
「吉田さんは、妊娠しています」
「え…?それって、もしかして…」
こうして僕は、大手のM社に就職した。
そして夏海は、今僕の隣で高級ブランドのカタログを見ている。
大きなお腹をさすりながら、「この子のためにも早く出世してね、パパ」
女って、やっぱりしたたかだ。
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2012-07-07 10:43
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コメント(16)
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女はしたたか?
うーん、しかし田中君も結構したたかなんじゃないですか?
お互いに思惑通りになっちゃったということかな。
まあ、勝手にすれば?(笑)
大人の読者としては二人の濡れ場が欲しかったかもしれない(こらこら)
by 海野久実 (2012-07-07 20:08)
この場合ふたりとも
結果オーライだったのかもね(笑)^^
by めりー (2012-07-07 22:26)
命がけのサバイバルゲームで就職を決める会社ってのがまず怖いっ
出し抜いて裏切った女と生活するハメになっちゃったのも怖いっ
サバイバルの才能を必要とする会社で昼間は働き、家に帰っても女房からいつ寝首を掻かれるともわからない・・・主人公のサバイバル人生は始まったばかりですねぇ。
by 矢菱虎犇 (2012-07-08 02:17)
あ、妊娠してたんですね。
育児休暇っていう制度を活用されてはいかがでしょうか?
いや、永久就職のほうがいいですね。
どっちが勝ったんだろう?
誰の子供だろう?
無人島で、外でヤッちゃったんでしょうか?
などと、どうしようもない想像を繰り広げながら
by ヴァッキーノ (2012-07-08 07:42)
彼女の思惑はどこからどこまで?
女ってコワイ~。
by もぐら (2012-07-08 20:24)
女は弱し、されど母は強し。ですよね、りんさん。
by haru (2012-07-08 21:41)
サバイバルゲームの生き残りを採用する会社って何をやっている仕事なんだろう(笑)
女性はやっぱしたたかですかね。
知り合いは言います。
働かなくてお金が欲しいと・・・
by こっちゃん (2012-07-09 17:55)
<海野久実さん>
そうですね。
だって、いちばん好みの女の子と結婚したんですから。
でも、せっかく大きな会社に入ったのに、社内恋愛が出来ないのは可哀想かも。
まあ、自業自得ですね。
濡れ場ですか(笑)まあ、その辺はヴァッキーノさんあたりにお願いしましょう^^
by リンさん (2012-07-09 18:27)
<めりーさん>
コメントありがとうです^^
そうですね。まさに結果オーライ。
幸せになってくれればいいですけどね^^
by リンさん (2012-07-09 18:28)
<矢菱さん>
会社でもサバイバル。家でもサバイバル。
まあ、人生そんなものですよ。
なんてね。矢菱さんは大丈夫ですか(笑)
by リンさん (2012-07-09 18:36)
<ヴァッキーノさん>
あ、産休もらえるんですか。
じゃあ田中君に譲らないで就職すればよかったかしら。
でもいいや。永久就職のが楽だから。
ねっ^^
by リンさん (2012-07-09 19:04)
<もぐらさん>
怖いですね~^^
どっちに転んでもいいように、用意周到だったのかな。
さすが無人島で生き抜いた女ですね。
by リンさん (2012-07-09 19:06)
<haruさん>
母は強し。
まさにそうですね。
彼女の場合は、どっちにしても強いけどね^^
by リンさん (2012-07-09 19:07)
<こっちゃんさん>
こっちゃんさんの会社でもやってみませんか。サバイバル就職試験(笑)
働かなくてお金が欲しい…金持ちをつかまえるしかないですね。
それか、宝くじ!!
by リンさん (2012-07-09 19:09)
M社の給料はさぞかしイイのでしょうねぇ。したたかな夏海が平社員の田中くんの出世を期待しているくらいだから。そんな夏海と結婚できた(させられた)田中くんも、さぞかしイイ男なのでしょう。・・・羨ましい!
ところで、リタイアの人数が合わないと思うのですが・・・男の人がもう1人残っているような・・・え?まだ無人島にいるの?あまりに影が薄くて忘れられちゃったの?臼井くん。
by かよ湖 (2012-07-11 01:27)
<かよ湖さん>
M社は大手だけど、今の世の中ではどうなるかわかりませんよね。
突然リストラとかになったら、夏海ちゃん、どうするんだろう^^;
人数…ホントだ。ひとり足りないですね。
さすがかよ湖さん。気づきませんでした。
じゃあ、臼井さんは今でも無人島で頑張ってることにしましょう^^
by リンさん (2012-07-11 23:56)