のっぺらぼう

その夜、あたしはひとりで歩いていたの。
生温かい風が吹く、川沿いの道よ。
柳の木の下に、小さな女の子がうずくまっていたから、声をかけたの。
「どうしたの？」

女の子は立ち上がってゆっくり振り向いたわ。
その顔には、目も鼻も口もなかったの。のっぺらぼうよ。

「あら大変。どこかへ落としちゃったのね。それで落ち込んでいたのね。いいわ。一緒に探してあげる。川に落ちたら大変だわ。魚に食べられちゃう」
そう言って振り向いたら、女の子はどこかへ消えていたの。
な～んだ…って思って、歩いていたらラーメン屋があったの。
そういえばお腹がすいたな。

ラーメンを食べることにしたの。
「おじさん、ラーメンちょうだい。あのね、さっき柳の下に女の子がいたの。声をかけたら振り向いたんだけど、その顔がね…」
と言いかけたら、おじさんが、
「それは、こんな顔ですか？」と言って振り向いたの。
なんとラーメン屋のおじさんにも、目と鼻と口がなかったの。

「あ、そうそう。そんな顔。だけどもう少し顔が丸かったわ。色も白かったし、微妙に違うわね。それよりおじさん、落とした目や鼻をラーメンの中に入れないでね。食べられなくなっちゃう。いやだ、想像したら食べたくなくなっちゃった。ごめんなさいね。あたし、帰るわ」
あたしは、ラーメンをやめて家に帰った。

「ただいま」
「おかえり。あら、あんた、口が耳のところまで裂けてるよ。誰かに見られなかったかい？」
「見られたけど平気よ。相手はのっぺらぼうだから見えてなかったみたい」
「そう。よかったね」
「よくないわよ。ちっとも驚かないんだもん。張り合いないわ」

（それは、お互い様である）


写真は、水木しげるの「妖怪道五十三次」です。
画集持ってます。大好きなんです。


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コメント 8

のっぺらぼうのお話のパロディですね！
そば屋がラーメン屋になっているあたりが現代っぽいなぁ。確かに夜鳴きのラーメン屋はあるけど蕎麦屋は見たことないです。
口裂け女は自由に裂け具合を調節できるんですネ･･･じゃあマスク必要じゃないじゃん･･･あ、あれは怖がらせる小道具か～！
それにしても、水木しげるの妖怪ファンって女性が多いなぁ。
by 矢菱虎犇 (2012-07-31 21:39) 

これは、あれですね
実写版だと、ローラがやりそうな
女性ですね。
だって、とぼけまくってるんですもん。
口が裂けても言えない秘密ってあるじゃないですか。
だけど、裂けたら言えないですよね。
by ヴァッキーノ (2012-07-31 22:38) 

水木先生の画集を持っているとは凄いっすね。
時節柄、妖怪、おばけの登場を期待しております。（笑）
絵を見て思ったのですが、のっぺらぼうも空を飛ぶんですね。
知らなかった。

先日のコメントで間違ったことを書いてしまったようです。
「人見知り」だって。
人前で前へ、前へと出て行って喋りたがる人は「人見知り」とは言わないそうです。（笑）
若い友人から怒られました（爆笑）



by こっちゃん (2012-08-01 00:47) 

のっぺらぼう対口裂け女でしたか。
そりゃあ、お互い驚かないでしょうね。そこが面白いオチになって、
コメディみたいで楽しかったです。
by haru (2012-08-02 19:41) 

＜矢菱さん＞
江戸時代の蕎麦屋は屋台だったようですね。
今はすっかり見かけませんが＾＾
水木しげるファンって女性が多いんですか？
私は昔から大好きです。ゲゲゲが好きだったから。
by リンさん (2012-08-04 16:48) 

＜ヴァッキーノさん＞
ああ、ローラが言いそう。
とぼけまくっているのに憎めない。得な人ですよね。
口が裂けても言えないこと、私にもあります。
口裂け女じゃないから黙っていま～す＾＾
by リンさん (2012-08-04 16:50) 

＜こっちゃんさん＞
これは数年前に銀座で展覧会があって、その時に買いました。
子供のころから大好きだったんです。
空を飛んでるのっぺらぼうは、白坊主っていう妖怪らしいです。

こっちゃんさん、人見知りじゃなかったんですね。
人見知りという感じがしなかったので、意外だなと思っていたんです（笑）
by リンさん (2012-08-04 16:54) 

＜haruさん＞
妖怪なんて、驚いてもらえてナンボなのにね（笑）
お互い様だったわけです。
いつもありがとうございます＾＾
by リンさん (2012-08-04 16:57)