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お盆の珍客 [ファンタジー]

今年のお盆は家にいた。
去年亡くなったおばあちゃんの新盆だからだ。
13日と14日は、信じられないほどたくさんの客が来た。
お菓子に果物、たまにはお小遣いをくれる人もいる。
ラッキーだけど何だか落ち着かない。

15日の夕方、もう客も来ないだろうとパパは仕事に行った。
ママとお姉ちゃんは買い物に行き、ボクはひとりで留守番することになった。
「いい?誰か来たらすぐにママに電話してね。ちゃんと名前聞くのよ。寝ちゃだめよ」
と何度も念を押されたけれど、ちょっと横になったらウトウトして寝てしまった。

ガタンと音がしてふすまを開けたら、知らないおじさんが祭壇の前に座っていた。
しまった。寝ている間に客が来ていた。ボクは慌てて飛び出した。
「どちらさまですか?」

急に声をかけたから、おじさんは驚いてボクをじっと見た。
「どちらさま、ですか?」
「あ…ああ…。キミには…、私が見えるのか…ね?」
「うん。見えるよ」
「ほう。霊感の強い子供だな」
「え?…っていうことは、おじさんは幽霊なの?」
「まあ…、そうだ」
「幽霊がここで何をしてるの?」
「うん。実はおばあちゃんに頼まれたんだよ。あのね、何人くらいの人がお香典を持ってくるか見てきてほしいってさ」
「お香典?おばあちゃんがそんなこと言ったの?」
「ああ。キミも死ねばわかるけど、そういうことって意外と気になるんだよ」
「ふうん。じゃあ、おばあちゃんが自分で来ればいいのに」
「そりゃ無理だ。修行を積まないと、幽霊にはなれん」
「そうなんだ」

「ところでぼうや、お香典は、これだけかな?」
「それは今日の分。昨日とおとといのはママが仕舞った」
「そうかい。じゃあ、今日の分だけでも、ちょっと預からせてもらえるかな。あの世に行っておばあちゃんに見せてくるから」
「ええ?ママに聞かないとダメだよ」
「すぐに帰ってくるさ。あの世なんてあっという間さ。それに、ママはきっと信じてくれないよ。何と言っても私は幽霊だからね」
「でも…」
「ね、頼むよ。本当にすぐに返すからさ」
おじさんは、手を合わせて必死で頼んだ。

「いいよ…と、言いたいところだけど、やっぱりダメだよ。それに、もうあの世に持っていく必要がないんだ」
「…どういうことだい?」
「だって、おばあちゃんがそこにいるんだもん」
「え?」
「ほら、おじさんのうしろ」
おじさんは驚いて振り向いた。
「だ…誰もいないぞ」
「いるよ。きっとまだ修行中だからかな?足がないや」

おじさんは、青い顔でオロオロしている。
「ほら、おじさんのすぐ後ろに来たよ。何だか怖い顔だな」
おじさんは、「ひー」と叫んで慌てて縁側から出て行った。
幽霊なのに、縁側から出て行った。しかもサンダルまで履いて。

最近、新盆の家を狙った香典泥棒が多発していると、近所のおばさんが言っていた。
ボクはとっくに気づいていた。幽霊なんて一度も見たことないボクに、霊感があるはずないじゃないか。
だいたい、人のいいおばあちゃんが香典を気にするなんて思えない。
ね、そうでしょう、おばあちゃん。
…え?おばあちゃん?どうしてそこにいるの?お香典が気になって来たわけじゃないよね?

おばあちゃんは、ニコニコしながら座っていた。
ずっとそこにいたんだね。
初めて見た幽霊は、ちっとも怖くなかった。

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コメント 14

あきば

北海道は今月がお盆なのでばぁちゃん子だった私、
幽霊でも会いたいなと思っちゃった。。
by あきば (2012-08-08 11:30) 

dan

リンさん得意のタイムリーなお話ですね。
賢いボクの微笑ましい健闘。目に見えるようです。
でも最後に出て来たおばあちゃんの存在感には負けるかなあ。
by dan (2012-08-09 15:15) 

こっちゃん

タイムリーなお話です。
香典詐欺もある昨今ありえるな。
by こっちゃん (2012-08-09 15:29) 

haru

初めて見た幽霊でも、大好きなおばあちゃんなら怖くないですよね。
それにしても、賢い「ボク」ですよね。
あ、本当に賢いのは「ボク」ではなくて、りんさんかな?(笑)
by haru (2012-08-09 21:10) 

矢菱虎犇

りんさん、お盆ネタ、いいですねぇ!
あざやかな展開、暑さボケのボクに一服の清涼剤になりました。
中学生の頃、ボクのおばあちゃんがガンで死んじゃったんですけど、ボクはおばあちゃんに幽霊になって出てきてほしいとお願いしたんです。あの頃からボクはバカヤロです。おばあちゃんは一度も出てきてくれません。
にしても、お葬式の香典泥棒なんつうのは聞いたことありますけど、新盆を狙った香典泥棒なんつうのもあるんすか?世も末だなぁ。
by 矢菱虎犇 (2012-08-10 11:07) 

リンさん

<あきばさん>
おばあさまはきっと帰ってきますよ。
だってお盆ですもの^^
by リンさん (2012-08-10 21:36) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
タイムリーな話を書くように心がけています^^
子供って、いざとなると意外としっかりしているものかもしれませんね。
それとも、おばあちゃんのお導きだったのかな^^
by リンさん (2012-08-10 21:39) 

リンさん

<こっちゃんさん>
新盆の家って、玄関開けっ放しだったりするから、もしかしたらありえますよね。まあ、この泥棒さんは、気の弱そうなコソ泥なので助かりましたね。
by リンさん (2012-08-10 21:45) 

リンさん

<haruさん>
私は祖父母との思い出がほとんどないので、出てきたら怖いかもしれません^^;
賢い子ですね。
私だったら信じて香典あげちゃうかも。。
by リンさん (2012-08-10 21:48) 

リンさん

<矢菱さん>
そういえば毎年お盆ネタを書いていますね。
お墓にお迎えに行って、また送りに行くというのがいいですよね。
日本っていいなあ。
幽霊になって出てきてほしいと願えるような、すてきなおばあちゃんだったんですね。
私のおばあちゃんは物心つく前に亡くなっているので羨ましいです。
by リンさん (2012-08-10 21:52) 

津々井茜

ちょっとお久し振りでーす。

幽霊は香典袋なんて手に持てないんじゃ? と思っていましたら、こういうオチだったのですね。

おばあちゃんがにこにこ見守ってくれている、オチのあとシーンもよかったです。

by 津々井茜 (2012-08-13 10:33) 

かよ湖

自分を「幽霊」だと設定づける香典泥棒のおじさんも考えましたね。
ボクが引っかかっちゃうのかと思って、ヒヤヒヤしながら読んでいました。が、ボクの方が1枚上手でしたね。
ラストの本当のおばあちゃんの登場はあたたかくていいですね。
お盆にぴったりのお話をありがとうございました。
by かよ湖 (2012-08-14 00:57) 

リンさん

<津々井茜さん>
お久しぶりです^^
そうですよね。幽霊が香典袋を持てないですよね。
よっぽど修行を積まないと…あ、違うか(笑)

結局おばあちゃんは、お見通しだったんですね。
by リンさん (2012-08-14 18:23) 

リンさん

<かよ湖さん>
この泥棒さんも、根っから悪い人ではないので、苦し紛れの言い訳だったんでしょうね。
そんなふうに、一生懸命なのに笑っちゃうことって面白いですよね。
お盆の話は、何気に毎年書いています。
だけどわが家では、ちゃんとお盆をやってるわけじゃないんです。
いつも適当で、仏様に怒られそうです^^;
by リンさん (2012-08-14 18:28) 

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