冬のかくれんぼ [ミステリー?]
冷たい木の幹に手を当てる。
目を閉じて静かに手を合わせた。
「おじさん、何してるの?」
目を開けると、数人の子供が私を囲んでいた。
「木にお礼を言っていたんだよ」
「木にお礼?どうして?」
子供たちは、興味深く私を見ている。きれいな目だ。
私は、ぽつりぽつりと昔話を聞かせた。30年も昔の話だ。
あれは…、こんなふうに寒い日だったな。
おじさんは、神社で友達とかくれんぼをしていたんだ。
「子供は風の子」とか言われて、外に追いやられたんだよ。
昔はみんなそうさ。
おじさんはオニで、数を数えた後で「もういいかい」と言っても返事がないんだ。
「もういいかい」と再び言ったとき、強い木枯らしが吹いたんだ。
目も開けられないほどの強い風だ。
おじさんは思わず、この木につかまって風が過ぎるのを待ったんだ。
風がやんで、おじさんは友達を捜し始めた。
隠れている友達は3人。だけど、誰も見つからないんだ。
日が暮れてきて、大声で叫んでも誰も出てこない。
きっと先に帰っちゃったんだと思った。
おじさんは置いて行かれたと思って、泣きながら帰ったんだ。
だけどね、友達は帰っていなかった。
消えてしまったんだよ。
昭和の神隠しなんて言われて、テレビでも話題になったから、君たちの親御さんは知っているかもしれないな。
おじさんは、思ったんだ。
あの木枯らしが、みんなをどこか別の世界に連れ去ったのだと。
うまく説明できないけど、どこかにある別世界でかくれんぼを続けているような気がしたんだ。
あの木枯らしで、おじさんだけ連れて行かれなかったのは、この木につかまっていたからだ。
きっとそうに違いない。
だからね、お礼を言いに来たんだよ。
この木が老朽化で切られると聞いたからね。
最後に、お礼を言いに来たんだよ。
その時、あの日と同じような木枯らしが吹いた。
急な突風に思わず手を放して、私はよろけた。
風がやんで立ち上がると、周りを囲んでいた子供たちが消えていた。
また連れて行かれたのか…そう思って肩を落とした私の耳に
「もういいよ」
という子供の声が聞こえた。
「としく~ん、早く捜しに来てよ」
としくん…私は子供の頃、そう呼ばれていた。
おそるおそる声のする方へ行き、鳥居の裏側を覗いた。
子供たちがいた。肩を寄せ合って笑っている。
さっき私を囲んだ子供のようにも見え、30年前に消えた友達のようにも見えた。
「見~つけた」
と言ったとき、私は30年前の“としくん”に戻った。
これは夢なのか?
わからないまま、私は永遠にかくれんぼを続けるのだろうか。
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目を閉じて静かに手を合わせた。
「おじさん、何してるの?」
目を開けると、数人の子供が私を囲んでいた。
「木にお礼を言っていたんだよ」
「木にお礼?どうして?」
子供たちは、興味深く私を見ている。きれいな目だ。
私は、ぽつりぽつりと昔話を聞かせた。30年も昔の話だ。
あれは…、こんなふうに寒い日だったな。
おじさんは、神社で友達とかくれんぼをしていたんだ。
「子供は風の子」とか言われて、外に追いやられたんだよ。
昔はみんなそうさ。
おじさんはオニで、数を数えた後で「もういいかい」と言っても返事がないんだ。
「もういいかい」と再び言ったとき、強い木枯らしが吹いたんだ。
目も開けられないほどの強い風だ。
おじさんは思わず、この木につかまって風が過ぎるのを待ったんだ。
風がやんで、おじさんは友達を捜し始めた。
隠れている友達は3人。だけど、誰も見つからないんだ。
日が暮れてきて、大声で叫んでも誰も出てこない。
きっと先に帰っちゃったんだと思った。
おじさんは置いて行かれたと思って、泣きながら帰ったんだ。
だけどね、友達は帰っていなかった。
消えてしまったんだよ。
昭和の神隠しなんて言われて、テレビでも話題になったから、君たちの親御さんは知っているかもしれないな。
おじさんは、思ったんだ。
あの木枯らしが、みんなをどこか別の世界に連れ去ったのだと。
うまく説明できないけど、どこかにある別世界でかくれんぼを続けているような気がしたんだ。
あの木枯らしで、おじさんだけ連れて行かれなかったのは、この木につかまっていたからだ。
きっとそうに違いない。
だからね、お礼を言いに来たんだよ。
この木が老朽化で切られると聞いたからね。
最後に、お礼を言いに来たんだよ。
その時、あの日と同じような木枯らしが吹いた。
急な突風に思わず手を放して、私はよろけた。
風がやんで立ち上がると、周りを囲んでいた子供たちが消えていた。
また連れて行かれたのか…そう思って肩を落とした私の耳に
「もういいよ」
という子供の声が聞こえた。
「としく~ん、早く捜しに来てよ」
としくん…私は子供の頃、そう呼ばれていた。
おそるおそる声のする方へ行き、鳥居の裏側を覗いた。
子供たちがいた。肩を寄せ合って笑っている。
さっき私を囲んだ子供のようにも見え、30年前に消えた友達のようにも見えた。
「見~つけた」
と言ったとき、私は30年前の“としくん”に戻った。
これは夢なのか?
わからないまま、私は永遠にかくれんぼを続けるのだろうか。
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2012-11-29 18:22
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コメント(4)
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かくれんぼって遊びは一種のトラウマになりますよねぇ。
がんばって隠れれば隠れるほど見つからなくて、
見つからなければ見つからないで不安になって、
どんなタイミングで出たらわかんなくてひたすら待って、
どんどん心細くなって、孤独ってのをひしひし感じちゃって。
あのときの心細さや心寒さを思い出しちゃいました。
by 矢菱虎犇 (2012-11-30 08:43)
幼い頃のかくれんぼで行方不明になっていた友達が若いまま現れたりすると、これはもうSFですね。
未知との遭遇の冒頭シーンみたいな。
全体的なテイストはファンタジーですよね。
でもすっきりと解決して終わるのではなく、いくつかの謎を残したままのこの結末があるからミステリーと銘打たれたのでしょう。
かくれんぼ物、一つ書きたくなっちゃいました。
by 海野久実 (2012-12-01 18:47)
<矢菱さん>
わかります。かくれんぼって、見つからないと不安になりますよね。
私は缶けりの方が好きでした。
オニがいない隙をねらって缶を蹴って、仲間を助ける。
そっちの方が面白いですよね。
by リンさん (2012-12-02 21:38)
<海野久実さん>
そうそう。ちょっとSFチックなんですよね。
カテゴリーってホントに難しいです。
いつも悩むんですよ。
海野さんのかくれんぼ話、早く読みた~い^^
by リンさん (2012-12-02 21:40)