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ピース [短編]

クリスマスイブの夜、いつものように宅配便が届いた。
「ごくろうさま。イブなのに大変ね」
私が言うと、配達員は「仕事ですから」と、いい笑顔を見せた。
「メリークリスマス」
そう言って車に乗り込んだ青年は、どことなく若い頃のあなたに似ていた。

荷物は、遠くのあなたからのクリスマスプレゼント。
開けると、きれいなグリーンのマフラーだった。
「まあ、ステキ」
添えられているのは、筆ペンで書かれた縦書きのカード。あなたらしい。
『メリークリスマス
 寒がりの君にマフラーを贈ります。
 いつかふたりで歩いた早春の散歩道。
 あの若草色を思い出して選んだマフラーです。
 君の温かい未来を祈ります』
封筒を逆さにすると、ジグゾーパズルのピースがひとつ、手のひらに舞い降りた。

あなたは寒い冬の夜、眠るように静かに天国へ旅立った。
作りかけのジグゾーパズル、あと少しで完成だったのに入院してしまった。
「早く退院してパズルを完成しようね」
私が言うと、あなたは首を振った。
「もう家へは帰れないだろう。君が完成させてくれ。そこで考えたんだが、来年から毎年ひとつずつ、ピースを君に送ろう。天国から、クリスマスプレゼントといっしょにね。残りのピースは7つ。君は7年かけてパズルを完成させるんだよ」
「もう、冗談ばっかり…」

その時わたしは、無理して明るく笑った。
まさか本当にピースが届くなんて思っていなかった。
あれから5年目のクリスマス。5回目のプレゼント。
5つめのピースを埋め込むと、残りは2つだ。
全てのピースが埋まって完成したら、奇跡が起こるかも…。

もちろんわたしは知っていた。
天国へ行ったあなたの代わりに、息子がプレゼントを送っていること。
病室で、こっそり交わした約束。
あなたがカードに書いたプレゼントを、あの子が買って送ってくれる。

そんなとき、電話が鳴った。離れて暮らす息子からだ。
「母さん、父さんからのプレゼントなんだけど…」
「ええ、届いたわ。たった今、ピースを埋めたところよ」
「それで、あの…」
「なあに?どうしたの?」
「プレゼント、今年が最後なんだ。来年はないんだよ」
「どうして?ピースはあと2つ残っているわよ」
「うん、そうなんだけどね…、その…」
困ったように口ごもる息子。きっと優しすぎて本当の事が言えない。

「お父さん、5枚のカードしか書けなかったのね。そこまでが限界だったのね」
わたしが言うと、息子は「うん」と小さく言った。
「俺がカードを書こうかと思ったけど、父さんみたいに達筆じゃないし。ごめん、なんか上手く出来なくて…」
「いいのよ。謝らないで。5年間とても楽しかったわ」
「残りのピースは、ツリーの星の中に隠したんだ」
「まあ、どうりでカタカタ音がすると思ったわ」
わたしは笑顔で電話を切った。本当に優しい子ね、と写真のあなたに笑いかけた。

ツリーの星には、不自然なボンドの跡があった。開けると、2つのピースがわたしを待っていたように並んでいる。
パズルにピースを埋め込むと、ステキな雪の街が動き出した。
大きなクリスマスツリーを囲むたくさんの人たち。
「楽しそうな絵」
笑顔をたどると、鮮やかなグリーンのマフラーを見つけた。
あら、これはわたし?
となりには、穏やかな茶色のコートのあなた。
少し離れた所にいるのは、息子夫婦。小さな女の子を抱いている。
そのうしろには、さっきの宅配便の青年。可愛い恋人といっしょだ。

みんな、みんな、メリークリスマス。
わたしは飽きることなく、賑やかな、優しい街を見ていた。

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さきしなのてるりん

あったかい!りんさんの人柄がしのばれる。
by さきしなのてるりん (2013-12-14 09:26) 

ぼんぼちぼちぼち

悲しくてあったかでいい話でやすなぁ(◎o◎)
by ぼんぼちぼちぼち (2013-12-14 18:45) 

かよ湖

素敵なお話ですね。
悲しさと温かさが同居し、現実とファンタジーが交錯していて、不思議なぬくもりを感じます。
クリスマスもの、まだまだ楽しみにしています。
by かよ湖 (2013-12-15 01:47) 

dan

悲しい切ないクリスマスですね。
お話は素敵でグリーンのマフラーがとてもいいです。

でも私は明るく楽しいクリスマスがいいなあ。
by dan (2013-12-15 15:32) 

みかん

じーんときました。
こういう息子さん すてきだなぁ。
いつもいいお話をありがとう リンさん♪
by みかん (2013-12-15 17:59) 

四草めぐる

【 寒い中の温かいお話 】

|電柱|・ω・`)ノ ヤァ

りんさん、お久しぶりです。
心温まる作品に思わずコメントな四草めぐるです。

こういった綺麗な作品は、一つのキーワードで壊れたりします。

上手くまとめていると思います!
あ。あと。

りんさん、遅ればせながら受賞おめでとうございます!

では、では。
草々。
by 四草めぐる (2013-12-15 22:53) 

雫石鉄也

いいお話です。
感動しました。
でも、ひとつだけ。
主人公は初老の婦人なわけですね。冒頭、若い、女性という先入観で読み始めました。亡くなった「あなた」も若い「彼」だと思いました。
それが、唐突に息子が出てきて、アレッと思いました。
最初に、主人公の年齢を暗示させるような工夫があると、いっそう良かったのですが。
by 雫石鉄也 (2013-12-16 13:38) 

はる

りんさん、クリスマスのお話を沢山書いてくれてありがとです。
明日から、くりすますまで、毎日クリスマス企画作品で埋まりました。
やっぱりんさんだなあ~!
ステキな作品で感謝、感謝です。
by はる (2013-12-16 16:17) 

リンさん

<さぎしなのてるりんさん>
ありがとうございます。
寒くなってきましたね。ちょっとでもほっこりしてもらえたらよかったです^^
by リンさん (2013-12-16 17:44) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
悲しくならないように、なるべくさらっと書きました。
褒めてもらえて嬉しいです^^ペコリ
by リンさん (2013-12-16 17:45) 

リンさん

<かよ湖さん>
ありがとうございます。
クリスマスには、きっと奇蹟が起こるんでしょうね^^

何だかお話だけクリスマス気分で、私の方は、ようやくツリーを出したところです。何の予定もな~い^^
by リンさん (2013-12-16 17:54) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
どこからでも、プレゼントが届くのは嬉しいものですね。
この人も、きっとそんなに悲しくないかもしれませんよ^^
by リンさん (2013-12-16 17:57) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
こういう親子関係だと、娘より息子なのかなと思いました。
うちには娘しかいないけど、こんな息子、いいですね。
by リンさん (2013-12-16 18:00) 

リンさん

<四草めぐるさん>
お久しぶりです。
コメント嬉しいです^^

そうなんです。ジグゾーパズルのピース・星・宅配便の青年など、どうやって活かすか、けっこう考えました。
なんとかまとまってよかったです。

受賞^^えへへ、ありがとうございます。
by リンさん (2013-12-16 18:04) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
そうですね。
私の中では最初から初老の女性だったんですけど、読む方は解らないですよね。
確かにそうです。

それで、5行目の「青年の目はあなたに似ていた」を「青年は若い頃のあなたに似ていた」に直してみました。
by リンさん (2013-12-16 18:10) 

リンさん

<はるさん>
ありがとうございます。
すごくたくさんの作品が集まりましたね。
毎日配信なんてすご~い。
楽しみです。
すぐに聴けない日もあるけど、必ず聴きますね~^^
by リンさん (2013-12-16 18:12) 

海野久実

ああ、なんかいいですね。
宝石のひとかけらみたいな美しいお話でした。
現実と空想が、ないまぜになった感じ。

そうですねやっぱり主人公はまだ新婚さんかなと思って読んで行くと、息子が出て来て、高校生ぐらいかなと思っていると、結局結婚していて子供までいる(笑)
まあ、こう言うことはプロの作品でもよくあることですね。
かなりのページ数を読むまで主人公が男か女か解らなかったことがありました。
その、プロの作品でですが。
それより気になったのは、ジグソーパズルのピースをどうしてたんだろ?
と思った事かな。
たぶん入院することになった時には作りかけのパズルのそばに置いたままだったんでしょうね。
それを、父に言われた息子が自分で保管していた。
>もう家へは帰れないだろう。君が完成させてくれ。
のセリフの後に奥さんはピースが何処にあるか家に帰って気にならなかったのかなとか、そんな細かいところが気になっていました。

PS
僕はアップ後すぐに読んでいたので修正前でした(笑)
by 海野久実 (2013-12-18 12:52) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
ジグゾーパズルは、書斎にあったんでしょうね。
きっと奥さんは触らずにそっとしておいたのでしょう。
きっと息子がピースを持って行ったのもお見通しだったんですね。

PS…ご指摘いただいて直しました。
by リンさん (2013-12-20 19:17) 

海野久実

はるさんともぐらさんの朗読作品を聞いて、再び気になった所を書きますね(笑)
「クリスマスイブの夜」は意味が二重になってしまいます。
クリスマスの前夜と言う事で、12月24日の夜がクリスマスイブですからね。
12月24日の昼間はクリスマスイブではないんです。
合ってるのかな?(少々自信なさげ)

それからやはり
>もう家へは帰れないだろう。君が完成させてくれ。
と聞いた奥さんは家に帰ってピースの事が気になって探してみると思うんだけどな。
>きっと息子がピースを持って行ったのもお見通しだったんですね。
とはいうもののその事が書かれてないので、その辺の不透明感が気になってしまうんです。
>毎年ひとつずつ、ピースを君に送ろう。
と言うのは、僕なら、死ぬ前にご主人が書いた手紙の中の言葉だと言うことにするでしょうか?
死後、その手紙を読んで作りかけのパズルのところに行ってみると、残っていたピースがなくなっている。
興味を引く謎が出来ますね。
まだご主人が生きているのにピースがなくなっていると、「はは~ん。息子が頼まれてやったんだな」と、奥さんもすぐに気が付きそう。
どんなものでしょう?
> きっと息子がピースを持って行ったのもお見通しだったんですね。
それだとちょっと夢がないような気が。
天国からの最初の手紙ぐらいは一瞬でも奥さんに信じてもらいたいと思うんです。
by 海野久実 (2013-12-25 09:28) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
ドラマを作るのが上手ですね。さすがです。
たしかに、海野さんの言うように、手紙の言葉の方がいいですね。
>一瞬でも奥さんに信じてもらいたい…そうですね。その方がグッとよくなりますね。
by リンさん (2013-12-25 23:27) 

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