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億万長者 [コメディー]

3年ぶりに故郷に帰ると、両親が億万長者になっていた。

「どうしたんだよ。この大豪邸!すきま風が吹いてた古い平屋はどこにいった?」
「あらタクヤ、おかえりなさい」
「やっと帰ってきたか、ドラ息子」
「それより何だよ、このダンスホールみたいなリビング。台所は最新のシステムキッチン、風呂は大理石じゃないか」
「ああ、去年建て替えたのよ」
「いいだろう」
「金は?金はどうしたんだよ」
「じつはね、宝くじが当たったのよ」
「そうそう、5億円」
「5億!!!」

「だけど、ひとり息子のあんたは3年前に家出したきり音信不通でしょ。お金残しても仕方ないから、使っちゃおうと思ってお父さんとふたりで競馬をやったの」
「そうなんだ。そうしたら、万馬券が当たってしまって、金が減るどころか増えちまってなあ」
「それならパチンコでもやりましょうって、連日通ったの」
「ところがこれが信じられない大フィーバー。ますます金が増えちまった」
「お母さんが趣味で書いてた小説を、自費出版したらベストセラーになっちゃうし」
「お父さんは友達と行ったカジノでまた儲けちゃったし」
「使っても使ってもお金がなくならないの」
「逆に増えちゃうんだ」
「それで、とりあえず家を建てたのよ」
「すげえ…」

「でもね、タクヤに面倒な財産管理や老後の世話をさせるつもりはないから安心してね」
「そうだ。自分たちの老人ホームの費用を残して、あとはどこかに寄付しようと思うんだ」
「だからタクヤは何の心配もいらないのよ。今まで通り自由に生きなさい」
「田舎暮らしが嫌だと言ってただろう。無理に帰ることはないさ」

「ま、待ってくれよ。親の面倒を見るのは子供の務めだよ。父さんと母さんの老後は俺に任せてくれよ。もちろん財産管理も」
「でも、あんたは3年前、田舎が嫌で家出したんでしょう?」
「そうだ。いつまたいなくなるかわからない」
「もうどこにも行かないよ。ずっと父さんと母さんのそばにいるよ」
「じゃあ、一筆書いてもらおうかな」
「書くよ、書くよ。一筆でも二筆でも書いてやるよ」

私は、今後両親を大切にして、老後の面倒を必ず見ることを約束します。

「ああ、これで安心ね。お父さん」
「そうだな。いい息子を持った」
「それで、金は何億残っているの?」
「ん?金なんかないよ」
「え?だって、宝くじが当たったって…」
「あははは、嘘に決まってるでしょう。宝くじなんて、そうそう当たるものじゃないわ」
「じゃあ、この家は?」
「お前が家出したあと、お父さんの会社がつぶれて、借金を返すために土地を売ったんだ」
「その買主の人がいい方でね、仕事も家もなくして気の毒だからって、住み込みの使用人として雇ってくれたのよ」
「使用人…」
「ほら、庭のはじに小さなプレハブがあるだろう。あそこが父さんたちの住処だ」
「ああ、でもよかった。タクヤが老後の面倒見てくれて」
「とりあえず、就職を探して、父さんと母さんを養っておくれ」
「逃げようったってだめよ。ちゃんと証文取ったんだから」

「あら、大変。奥様が帰ってきたわ。タクヤ、裏口から帰って。プレハブの鍵は開いてるから」
「盗られるものなんか、何もないしな」
「父さん、母さん、俺、とりあえず宝くじ買ってくる」

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SORI

リンさんさん こんばんは
今回はリアルな話に感銘いたしました。宝くじあたりた~~い。
by SORI (2014-10-14 19:38) 

雫石鉄也

面白かったですが、少々オチがもたついてましたね。
こんなオチはどうでしょう。

私は、今後両親を大切にして、老後の面倒を必ず見ることを約束します。

「ああ、これで安心ね。お父さん」
「そうだな。いい息子を持った」
「それで、金は何億残っているの?」
「ん?金なんかないよ」
 タクヤの背後の壁がパタンと倒れた。次の瞬間、四方の壁がパタパタと倒れた。スッコンーと屋根が飛んだ。屋根は発泡スチロールのようだ。
台所の壁がシステムキッチンの絵を描いたまま横に倒れた。
 タクヤと両親、3人は、地面に置かれた高級な畳の上に座っている。青空の下、豪邸の内装の絵のパネルはヒラヒラ風に舞っている。
「な、なんだセットか?」
「畳だけは本物だよ。約束守れよ」
父親はタクヤが書いた証文をヒラヒラさせながらいった。
by 雫石鉄也 (2014-10-15 13:32) 

さきしなのてるりん

コメディというにはちと世知辛い。億万長者になる術を息子に与えてやってください。
by さきしなのてるりん (2014-10-15 19:16) 

dan

タクヤやられたね。
こんな上手い話ないでしょう。心を入れ替えて精々
親孝行して下さい。
by dan (2014-10-16 17:48) 

秋浩輝

両親はなぜ、タクヤみたいなドラ息子を騙してまで、自分たちの老後の面倒をみてもらおうとしているのでしょうか。そんな証文は法律的には無効でしょうし、ドラ息子は金が入らない以上、すぐに出ていくに決まっているのに…。 

実は両親は、初めから面倒見てもらおうとか思ってなくて、家出したドラ息子とはいえ、心配で心配で仕方がない。一寸でもいいから帰ってきて欲しかった、会って話がしたかったという、子を思う親の切ない気持ちを表現した感動的な物語ではないでしょうか。

で、この話には続きがあるんですよね? 親の深い愛情を知ったタクヤは、ずっと親不孝していたことを反省、両親を助け、面倒をみながら一緒に暮らすことを決意、真面目に働き始めました。めでたし、めでたしっ! 

えっ、全然違うって? 
こりゃまた、失礼いたしましたぁ!

by 秋浩輝 (2014-10-17 17:51) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
私も宝くじ当たりたいです~^^
by リンさん (2014-10-17 23:08) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
面白い^^ コントみたいですね。
トリックアートみたいに描かれた絵だったんでしょうね。
畳だけが本物って…あんまり嬉しくない(笑)
by リンさん (2014-10-17 23:12) 

リンさん

<さぎしなのてるりんさん>
ありがとうございます。
息子さん、億万長者を夢見て、地道に働くしかないでしょう。
by リンさん (2014-10-17 23:14) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
そうそう。いつまでも親を頼ってはいけませんね。
それにしても、突然億万長者になったら、人が変わってしまいそうで怖いです。
by リンさん (2014-10-17 23:21) 

リンさん

<秋浩輝さん>
ありがとうございます。
わあ、そんなにいい人情話だったんだ(笑)
本当に「めでたしめでたし」だったらいいのですが^^

あ、今思いつきましたが、最後のセリフ
「父さん、母さん、俺、とりあえず宝くじ買ってくるからお金ちょうだい」
にしたら面白いかも。まさにドラ息子ですね(笑)
by リンさん (2014-10-17 23:26) 

海野久実

いつものりんさんの世界ですね。
とても面白く最後まで楽しんで読めました。

楽しんで読めたと言うことを報告しておいて、いくつか気になったことを書いてみますね。

雫石さんの言う落ちがもたついたというのもうなづけますが、雫石さんのこういう大きな落ちも面白いですが、はぐらかされたようななんとなくな落ちも結構好きなんですよね。
秋浩輝さんの意見は僕も同じことを感じていました。
どんなに証文をとってもまた家出してしまえば息子はまた自由の身ですからね。
ここは何か息子が絶対に両親の面倒を見なくてはいいけない絶対的な理由が必要だとおもいました。
それから息子はただ何となくこの日に偶然帰ってきたような感じですよね。
なのにたまたま豪邸の本当の持ち主が留守で、両親がその家の持ち主のようにふるまっているのは不自然だと思いました。
そこは何かもうちょっと状況設定が必要ですよね。
息子から今はここにいるよという連絡が少し前にあって、たまたま豪邸の持ち主の夫婦が海外旅行に出かけることになっている。
それで息子を呼び戻すことにする。
そんな感じでしょうか。

あ、落ちを思いつきました。
「母さんおれ、最後の持ち金でやけくそで買った宝くじが当たったんだ。5億円」
息子が連絡をしてきた理由にもなりそう。
by 海野久実 (2014-10-18 20:51) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
なるほど。みなさん鋭いところを突いてきますね^^

たしかに帰ってくることを事前に知っていないと成り立たないかも…とは思いました。
短くまとめようとすると、どうも説明不足になってしまいますね。
すみません^^;

タクヤが宝くじ当たった。それはまた新しいですね^^
親孝行も出来て一石二鳥。
でも、こいつにはまともに働いてほしいような気もします(笑)
by リンさん (2014-10-22 09:30) 

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