SSブログ

サバイバル家庭訪問 [ミステリー?]

『目的地周辺です。案内を終了します』
ナビが案内をやめた。ええ?こんな山の中で?
これだから田舎の家庭訪問はいやなんだ。
生徒が書いた地図によると、この森の向こうだ。
車を置いて歩き出すと、思ったよりもずっと深い森だった。

方向がわからない。どうしよう。
電話は…圏外だ。とりあえず進んでみよう。あれ?ここさっき通ったか?
戻りたくても戻れない。完全に迷った。
しばらく歩くと人影が見えた。僕はすかさず声をかけた。
振り向いた中年の男は僕を見て、人懐っこい笑顔を見せた。
「もしかして先生?ひろし君の担任の?」
「そうです。あ、ひろし君のお父さんですか?」
「違うよ。俺は去年の担任。去年の家庭訪問の日から、ずっと森で迷ってるんだ」
「はあ?嘘でしょう?」
「ホントだよ。あっちに仲間もいるよ。2年前の担任と3年前の担任。みんなで共同生活してるの」
「そんなバカな。だいたい行方不明になった先生がいるなんて、聞いたことないですよ」
「たぶん俺たちの存在そのものが消えちまったんだろうな。心配するな。そのうち慣れるさ」

やけに呑気な男を残して歩き出した。
冗談じゃない。早く森を抜けなければ。
そうだ。木に印をつけよう。同じところを通ったらわかるように。
鞄からマジックを取り出して木に向かうと、そこにはすでに数本の印があった。
「それね、みんなやってるの。みんな最初は抗うんだよ。何とか森から出ようとするんだ。でもね、出られないんだよ。あきらめなよ。住めば都だよ」
中年男が僕の肩をぽんと叩いた。
「いやだ!」
僕は走り出した。誰があきらめるか。
川の音がする。川を下れば町に出られるはずだ。

川沿いをがむしゃらに走った。ジャングルみたいな草をかき分けて進むと、美味しそうな食べ物の匂いと人の声がした。
よかった。民家がある。
藪を抜けて声のするところに出ると、3人の男が焚き木を囲んでいた。
息を弾ませて声をかけると、振り向いたのはさっきの中年男だった。
「戻って来ちゃったね。今年の担任さん。ほら、言ったでしょう。ここからは出られないんだよ」
「あきらめなよ。今年の担任さん」
中年男の後ろで、ふたりの男が手を振った。
「こちらはね、ひろし君の、1年の時の担任と2年の時の担任だよ。それで俺が3年の時の担任、君が4年の担任。仲よくやろうね」
3人は楽しそうに川魚を食べている。
「ここの暮らしはそんなに悪くないよ。寒くもないし暑くもないし、食べ物も豊富なんだ。ほら、君の分もあるから食べな。頑張ってサバイバルするとね、ご褒美にお酒とか飲めるんだよ。」
「ご褒美?」

「いやあ、今年は若い女の先生がよかったけど、君のような若い男も刺激的だね」
「さあ、たくさん食べなさい。若いんだから」
「でも…家庭訪問が…」
「そんなの、他の誰かが君に代わって行ってるよ。この森に入った時から、君の存在が消えて、新しい誰かが存在しているさ」
僕はぐったりと疲れて、よく焼けた川魚をほおばる。
「来年は若い女の先生がいいな」という男たちの声に、心の底から頷いていた。

**
「ひろしちゃん、先生が見えたわよ。あら、またゲーム?まったく。先生、この子ったらずっとゲームばかりしてるんですよ」
「まあ、ひろし君、どんなゲームなの?」
「サバイバルゲームだよ、先生。普通の人が森で迷ってサバイバルするんだ。今、新キャラが来たところなんだ。魚釣ったり、火を熾したり、サバイバルが上達するとご褒美にフライドチキンやビールを差し入れするんだ」
「へえ、面白そう」
「じゃあ先生も仲間に入れてあげるよ。若い女性の仲間をみんな欲しがってる」

**
1年後、すっかりこの生活に慣れた僕は、うろうろと森をさまよう若い女性を発見する。
「もしかして先生?ひろしくんの今年の担任ですか?」

k.jpg

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村
nice!(6)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 6

コメント 8

SORI

リンさんさん こんにちは
最初のでだし千と千尋の雰囲気に似ていると思ったら、驚きの展開でした。ひろし君の特殊能力? 不思議な物語です。
by SORI (2015-05-02 14:23) 

海野久実


何と言う展開!
よくこんなシチュエーションを思いつくものですね。
不条理ものかと思いきや、ちゃんとオチが付いていました。
でも、毎年ひろし君の担任が行方不明でしょ。
最初からいないことになってしまうのだったら、また違う人が担任になってその人がまたいないことになって、また違う担任が……
と言う感じで際限がなくなりますね。
学校に、ひろし君のクラスの担任がいないと言う事は考えられませんからね。
いなくなったら次の年まで待てるはずもなく、いなくなった瞬間に次の担任が選ばれ、またすぐに次の担任が選ばれる。
先生が、またたく間に足りなくなってしまいますね。
その辺は超常現象を扱っているとは言え、ちゃんと理屈を通してほしいと思いました。
いやしかしこのお話は面白いですね。
面白いだけにそこがちょっと引っ掛りました。



by 海野久実 (2015-05-02 17:29) 

みかん

さすがリンさん♪
家庭訪問からまさかのサバイバルとは
お話の展開が変わっておもしろかったです(#^.^#)
by みかん (2015-05-03 11:48) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
不思議な世界に迷い込むのは、千と千尋みたいですね。
千尋は帰れたけど、この先生は帰れなくて可哀想…だったかな^^
by リンさん (2015-05-04 07:22) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
そうですね。先生足りなくなりますね。
不思議な世界なので、消えた存在の代わりに現れた存在もある…ということでしょうか。
あまり深く考えていなかったので…すみません^^;

by リンさん (2015-05-04 07:27) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
季節感のあるお話をと考えて、家庭訪問にしました。
こんなサバイバルになるとは、書いてる私も予想外^^
by リンさん (2015-05-04 07:30) 

海野久実

>消えた存在の代わりに現れた存在もある

そうそうそんな感じの理屈付けが必要かなと思いました。

僕はひろしくんが毎年一人、新しい先生を閉じ込めてそれで満足しているのかなと思いました。
当然違う先生が何事もなかったようにひろしくんの家に家庭訪問に来ていることでしょうね
by 海野久実 (2015-05-05 21:15) 

リンさん

<海野久実さん>
たしかに、この言葉があった方がわかりやすいですね。
「でも…家庭訪問が」の後にひと言付け加えました。
いつもありがとうございます^^
by リンさん (2015-05-06 10:10) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0