猫の恋 [コメディー]
「ねえ、パルくん。猫の恋って春の季語なんだって」
菫ちゃんが僕の背中を撫でながら言った。
この前まで漫画しか読まなかったのに、歳時記なんか買って来た。
「パルくんは去勢しているから、恋はしないよね。なんか可哀想だな。恋を知らずに一生を終えるなんて。あっ、一句浮かんだ」
― 縁側に 並んだ二匹 猫の恋 ―
なんじゃそりゃあ。小学生か。
僕を膝に乗せて、作った俳句を読んで聞かせるんだけど、これがまあ、交通安全の標語みたいな迷句ばかり。聞く方の身にもなってよ。
きっかけは、アパートの隣に越してきて大学院生だ。
大学で俳句の研究をしている彼に、菫ちゃんはひとめぼれ。
すっかりのぼせているというわけだ。
「ねえ、パルくん。今度彼を夕食に誘おうと思うの。恋は胃袋からって言うじゃない」
菫ちゃんは、こう見えて料理はかなりの腕前だ。
今はカフェで働いているけれど、いつか自分の店を出すのが夢なんだって。
「こんにちは」
あっ、隣の大学院生が来た。
「歳時記を買ったとおっしゃっていたので、今日は僕が尊敬する高浜虚子の句集を持ってきました。ぜひ読んでみてください」
「キョ、キョンシー?」
｢きょしです｣
「ありがとうございます。あの、お礼に明日、夕飯を食べに来ませんか。いつも作り過ぎちゃうんです」
「いいんですか。助かります。コンビニ弁当に飽きていたので」
菫ちゃん、ガッツポーズ。
「やったわ、パルくん。明日はご馳走よ」
そう言いながら、高浜虚子をパラパラめくった。
「へえ、いいじゃん。キョンシー」
きょし、だけどね。
そして翌日、菫ちゃんは張り切っていた。
テーブルクロスに可愛いエプロン。僕までが、蝶ネクタイの首輪を付けられた。
スープにサラダ。メインはローストビーフとポテトのグラタン。
チャイムが鳴って彼が来た。
「わあ、美味しそうな匂いだな」
いらっしゃい、と、僕も挨拶代わりに足にすりすり。
するとその途端、彼が悲鳴を上げた。
「ね、猫を飼っているんですか？ 無理です。僕、ネコアレルギーです。あれ、このアパート、ペットOKでしたっけ？ ああ、ダメだ。かゆくなってきた。ごめん。帰ります」
呆然と、彼を見送る菫ちゃん。僕、余計なことしちゃったかな。
菫ちゃん、おたまを持ったまま膝から崩れ落ちた。
「猫がダメな人なんて、こっちから願い下げ」って言いながら、僕の頭を撫でて一句。
― この次は 猫好きな人 猫の恋 ―
だから～、なんじゃそりゃ。
残念だったね、菫ちゃん。でもさ、僕がいるじゃないか。
知ってる？ 去勢した猫は、人間に恋をするんだよ。
実らないけどさ。
― 鳴かずとも ひそかに想う 猫の恋 ―
あれ、僕の方が「才能あり」じゃない？
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パソコンに乗るネコ
邪魔です。
菫ちゃんが僕の背中を撫でながら言った。
この前まで漫画しか読まなかったのに、歳時記なんか買って来た。
「パルくんは去勢しているから、恋はしないよね。なんか可哀想だな。恋を知らずに一生を終えるなんて。あっ、一句浮かんだ」
― 縁側に 並んだ二匹 猫の恋 ―
なんじゃそりゃあ。小学生か。
僕を膝に乗せて、作った俳句を読んで聞かせるんだけど、これがまあ、交通安全の標語みたいな迷句ばかり。聞く方の身にもなってよ。
きっかけは、アパートの隣に越してきて大学院生だ。
大学で俳句の研究をしている彼に、菫ちゃんはひとめぼれ。
すっかりのぼせているというわけだ。
「ねえ、パルくん。今度彼を夕食に誘おうと思うの。恋は胃袋からって言うじゃない」
菫ちゃんは、こう見えて料理はかなりの腕前だ。
今はカフェで働いているけれど、いつか自分の店を出すのが夢なんだって。
「こんにちは」
あっ、隣の大学院生が来た。
「歳時記を買ったとおっしゃっていたので、今日は僕が尊敬する高浜虚子の句集を持ってきました。ぜひ読んでみてください」
「キョ、キョンシー?」
｢きょしです｣
「ありがとうございます。あの、お礼に明日、夕飯を食べに来ませんか。いつも作り過ぎちゃうんです」
「いいんですか。助かります。コンビニ弁当に飽きていたので」
菫ちゃん、ガッツポーズ。
「やったわ、パルくん。明日はご馳走よ」
そう言いながら、高浜虚子をパラパラめくった。
「へえ、いいじゃん。キョンシー」
きょし、だけどね。
そして翌日、菫ちゃんは張り切っていた。
テーブルクロスに可愛いエプロン。僕までが、蝶ネクタイの首輪を付けられた。
スープにサラダ。メインはローストビーフとポテトのグラタン。
チャイムが鳴って彼が来た。
「わあ、美味しそうな匂いだな」
いらっしゃい、と、僕も挨拶代わりに足にすりすり。
するとその途端、彼が悲鳴を上げた。
「ね、猫を飼っているんですか？ 無理です。僕、ネコアレルギーです。あれ、このアパート、ペットOKでしたっけ？ ああ、ダメだ。かゆくなってきた。ごめん。帰ります」
呆然と、彼を見送る菫ちゃん。僕、余計なことしちゃったかな。
菫ちゃん、おたまを持ったまま膝から崩れ落ちた。
「猫がダメな人なんて、こっちから願い下げ」って言いながら、僕の頭を撫でて一句。
― この次は 猫好きな人 猫の恋 ―
だから～、なんじゃそりゃ。
残念だったね、菫ちゃん。でもさ、僕がいるじゃないか。
知ってる？ 去勢した猫は、人間に恋をするんだよ。
実らないけどさ。
― 鳴かずとも ひそかに想う 猫の恋 ―
あれ、僕の方が「才能あり」じゃない？
パソコンに乗るネコ
邪魔です。
2022-03-29 17:43
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コメント(8)
![[わーい（嬉しい顔）]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/140.gif){kind=small}
![[本]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/70.gif){kind=small}
そっか〜、虚勢された猫は人間に恋をする、、、思い当たりやす〜
by ぼんぼちぼちぼち (2022-03-29 19:46)
たま(茶とらで19年半生きました。)もよくこんな表情と視線で
パソコンに乗ってました。
ありがとうございます。～
by たまきち (2022-03-30 07:26)
へー、りんさん俳句も作られるんですね。長年、ご厚誼をいただいてた眉村卓さん
https://blog.goo.ne.jp/ebisu0014/e/18a24a80d43968ab9264d75909cd3310
も、SFと並行して句作を続けておられました。この「眉村卓の異世界通信」が自主出版の優秀賞
https://6823.teacup.com/kumagoro/bbs/11245
を受賞しました。
高浜虚子にご興味がおありですか。ウチのすぐ近くに高浜虚子記念館
https://www.hyogo-tourism.jp/spot/result/147
があります。
by 雫石鉄也 (2022-03-30 13:54)
リンさんさん おはようございます。
楽しい物語です。彼が猫アレルギーと知って、猫ちゃんが捨てられてしまうのかと心配しましたが、やっぱり猫は大切だったのですね。安心しました。
by SORI (2022-03-31 09:59)
＜ぼんぼちぼちぼちさん＞
ありがとうございます。
ふふふ、そうですか。思い当たりますか＾＾
相思相愛だったんですね。
by リンさん (2022-04-02 14:08)
＜たまきちさん＞
ありがとうございます。
ネコがパソコンに乗る理由って何でしょうね。
やっぱり遊んでほしくて邪魔をしているんですかね。
by リンさん (2022-04-02 14:10)
＜雫石鉄也さん＞
ありがとうございます。
俳句は昔から好きですが、なかなか難しいですよね。
前に松山に行ったとき、正岡子規の資料館で高浜虚子のすごさを知って興味を持ちました。
文学館がお近くにあるんですね。お孫さんが芦屋の方なんですね。
近くだったら明日にでも行きたいところです。
by リンさん (2022-04-02 14:26)
＜SORIさん＞
ありがとうございます。
彼よりネコとの付き合いの方が長いですものね。
私もきっとネコを選びます(笑)
by リンさん (2022-04-02 14:28)