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願いが叶いますように [ファンタジー]

地球の人たちが、短冊にたくさんの願い事を書いているわ。
世界平和や合格祈願、恋愛成就、宝くじ当選。
いろんな願い事に混ざって、毎年必ずあるの。

『織姫と彦星が逢えますように』

私たちのことを願ってくれてありがとう。
だけど心配無用よ。そちらは雨でも、こちらは大丈夫。
私たち、雲よりずっとずっと上にいるんだもの。

私たち、仕事をしないでいちゃついていたから引き離されちゃったんだけどね、幸か不幸か、一年に一度の距離感って、案外いいのよ。
自由な時間はたくさんあるし、何より新鮮でしょ。
一緒にいるより、彼のことを考える時間が増えて、ずっと恋愛中の気分なの。

一年って長いと思うでしょ。
それがね、そうでもないの。
次に会うまでにダイエットしようと思っても、いつも間に合わないのよ。
あっという間に七月七日(笑)

さて、そろそろ行こうかしら。
今日のために織った着物よ。彦星さん、気に入ってくれるかしら。
いそいそと出かけたけれど、天の川に橋が架かっていない。
川岸で、怖そうな番人が睨んでいるわ。
「あの、川を渡りたいんだけど。向こう岸の彼と待ち合わせなの」
「向こう岸には行けない。知らないのか。向こうの村で恐ろしい流行り病が発生した。村は封鎖された。ネズミ一匹通すことは出来ん」
「流行り病?彦星さんは大丈夫なの?」
「そういった問い合わせには一切答えられん。さあ、帰りなさい」

ひどいわ。流行り病で村が封鎖だなんて。
あと一年待つなんて最悪だわ。

となり村で流行した病は、一向に収まらない。
次の七夕も逢えなかった。怖い番人に村の様子を訊ねても「帰れ」のひと言。ムカつく。
こんな時は神だのみ。地球の皆さんを見習って、短冊に書いたわ。
『彦星さんに逢えますように』

願い事のほとんどが叶わないことは知っている。
それでも書いたの。笹が見えなくなるくらいに。
そしてようやく逢えたのは、三年後の七月七日。流行り病がようやく終息したの。

「彦星さん、ずいぶん痩せたわね」
「一歩も外に出られなくて、僅かばかりの配給で暮らしていたからね」
「可哀想に。ねえ、うちで一緒に暮らしましょう。もう1秒も離れたくないわ。お父さまもきっと許してくれる」

というわけで、一緒に暮らし始めた私たち。
ずっと逢っていなかったから、24時間ひと時も離れたくなくて、仕事なんかそっちのけ。
毎日べたべたしていたら、やっぱりお父さまに叱られた。
彦星さんを、再び向こう岸の村へ追いやろうとしたの。
だけどもう言いなりにはならないわ。
私たち、駆け落ちします。
行き先は地球。ずっと憧れていたの。
決行は、2022年7月7日よ。
えっ、コロナ? 感染症? まだ収まっていない?
嘘でしょう。あと一年待てば大丈夫かしら。分からないって、どういうこと?
こうなったら短冊に書くわ。

『地球のコロナが終息しますように 織姫・彦星』
どうか願いが叶いますように。

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コメント 6

SORI

リンさんさん おはようございます。
七夕の楽しいファンタジーに読み入ってしまいました。流石です。
by SORI (2022-07-06 11:16) 

雫石鉄也

新型コロナ、まだまだ収束しませんね。実質第7波がはじまっているといっていいでしょう。こまったもんです。
by 雫石鉄也 (2022-07-06 13:36) 

ぼんぼちぼちぼち

リンさんならではの時事ネタを盛り込んだお話しで、楽しく一気呵成に読ませていただきやした!
面白かったでやす!
by ぼんぼちぼちぼち (2022-07-07 13:39) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
今は雨よりコロナが怖いかもしれませんね。
by リンさん (2022-07-15 17:58) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
第7波、来てしまいましたね。
またお出掛けできなくなってしまいますね。
by リンさん (2022-07-15 18:00) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
織姫と彦星が早く地球に来られる日がくるといいですね。
by リンさん (2022-07-15 18:05) 

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