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美しい姉

同じ親から生まれたのに、姉はとても美しい。
透き通るような肌、吸い込まれそうな瞳、天使のような微笑み。
姉ほど美しい人はどこにもいない。

会う人はみんな同じことを言う。
「姉妹なのに、お姉さんはすごい美人ね。可哀想に…」
私、可哀想なの?

学校へ行くようになると、姉はますます美しくなり、友達も先生も同じことを言った。
「姉妹なのに、お姉さんはすごい美人ね。可哀想に…」
もう慣れた。

成長した姉は、スタイル抜群の完璧な女性になった。
それなのになぜかモテない。姉に告白する男がひとりもいないのだ。
平凡な顔立ちの私でさえ、それなりの恋愛を経験しているのに、姉には恋人が出来なかった。
私は恋人を家に連れてくるたび不安になった。
「こんにちは」と、美しい顔で微笑む姉に、彼が恋をしてしまうのではないかと。
だけどそんなことは一度もなく、私は姉より先に結婚をした。

30歳を過ぎた今、私は二人の子供に恵まれたが、姉には相変わらず恋人もいなかった。
あんなに美人なのに、どうしてだろう。

私はある日、夫に言ってみた。
「ねえ、お姉さんは美人なのに、どうして恋人が出来ないのかしら」
夫は首を傾げた。
「君、知らないの? お姉さんは観賞用でしょ」
「観賞用? なによ、それ」
「植物だって、食用と観賞用があるだろ」
「姉は人間よ」
「観賞用の人間だ。生殖機能は付いていない。だから恋も結婚もしないんだよ」

いつの時代からか、人間は平均的な容姿だけになった。
差別や争いを防ぐために、自然に進化したのだという。
しかし、ごくまれに遺伝子の突然変異で、飛び抜けた美貌の持ち主が生まれるという。
飛び抜けた美貌の男女には、生殖機能がないため、子孫は残せない。
生態系が崩れるからだ。

「天文的レベルの確率だよ。君のお姉さんは、それだけレアな存在なんだ」
「知らなかった」
「きっとご両親が、分け隔てなく育てたかったから、観賞用であることを教えなかったんだ。周りの人は、みんな知っていると思うけどね」

ああ、そうか。
みんなに言われた「可哀想」は、私ではなく姉のことだったのだ。
姉は、子孫も残せず、死ぬまで観賞用として生きるのだ。

私は、自分そっくりの丸い鼻をした我が子を抱きしめてつぶやいた。
「お姉さん、美人で可哀想……」


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