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二階の女 [男と女ストーリー]

二階の部屋の女が、コンビニ弁当を持ってやってきた。
「温めさせてくれる? 電子レンジが壊れちゃったの」
彼女は唐揚げ弁当をチンして帰った。

彼女は、翌日も来た。
「チンさせて」
「コンビニで温めてもらわなかったの?」
「アツアツが食べたいのよ、あたし」
「レンジ壊れてるのに?」
彼女はその日も、唐揚げ弁当をチンして帰った。

毎日来た。
一週間後には、チンした後ソファーに座って食べ始めた。
「ちょっと、自分の部屋で食べてくれよ」
「だって、プレゼンの資料でテーブルが埋まってるんだもん」
「早く新しい電子レンジ買いなよ」
「忙しくて電気屋行けないんだもん。いいじゃないの。食べたらさっさと帰るから」

彼女はだんだん図々しくなる。
ソファーで弁当を食べながら、ビールまで飲む。
「最近面白い番組ないわねえ」と言いながら、テレビを見る。
寝そべって、スマホゲームをする。

一か月後、さすがに我慢の限界だ。
「ねえ、いい加減、レンジ買いなよ」
「うーん、徒歩0分のところにレンジがあると思うと、買う必要ないかな~って思ってきたのよね」
「このレンジは僕のだ」
「ケチねえ」
「君が飲んでるビールも僕のだ」
「いいじゃん。細かいなあ」
彼女はそう言って、冷蔵庫から2本目のビールを出した。
「だから、それは僕の……」

彼女が振り向いて言った。
「ねえ、そろそろやめない? 家庭内別居」
「えっ、君が言い出したのに?」

お互いリモートで顔を合わせることが多くなり、小さなケンカが絶えなかった。
いっそ別々に暮らそうと言い出したのは君だ。
君が二階、僕が一階。
料理をしない君は、電子レンジと小さな冷蔵庫があれば充分だった。
快適快適、って言っていたじゃないか。

「なんかさあ、やっぱり不便だし、コンビニ弁当にも飽きちゃった。コロナも5類になったしさ」
「なんだよ、それ」
「それにさ、最近無性にあなたの煮込みハンバーグが食べたいの。あなたもそろそろ作りたくなったんじゃない?」
「勝手だな」
そう言いながら僕は、頭の中でハンバーグの具材を考えていた。

ナツメグ、あったかな?

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