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誓約書 [男と女ストーリー]

ユウコがめそめそ泣いている。
梅雨の雨みたいに鬱陶しい。
「ごめんね、キミちゃん。私、泣き上戸なの」
どうやら彼氏が浮気をしたらしい。

「別れなさいよ。そんな男」
ユウコは首を横に振った。
「彼、すごく反省してるの。二度としないって約束してくれたの。だからね、今回は許すことにしたの」
「えー、そういうやつに限ってまたやるんだよ」
「私は彼を信じるわ」
きっと、30歳手前で別れるのが嫌なんだろうな。
そういう男は、結婚してからも浮気するに決まってる。

「ねえユウコ。誓約書を書かせなさいよ」
「誓約書?」
「そう。今度浮気したら、罰金50万円」
「50万?」
「そう。慰謝料よ。二度としないと誓うなら、そのくらいの覚悟がないと」
「そうか。慰謝料なら、500万くらい欲しいけど」
「ダメダメ、無理のない金額の方がリアルでいいわ」

そうしてユウコは、彼に誓約書を書かせた。
自筆のサインと拇印まで押させた。
ここまですれば大丈夫、とユウコは自信満々。
しかし彼は、数か月後、やはり浮気した。

「あーあ、キミちゃんの言う通りだったね」
温泉につかりながら、ユウコがため息をついた。
「まあ、別れて正解だよ。あんな男」
「相手は行きずりの女って言ったけど、ワイシャツにまっ赤な口紅つけたり、車のシートの隙間に安っぽいイアリング落としたり、かなりの性悪女だわ」
「どんな女でも、浮気は浮気よ」
「信じた私がバカだった」
「ねえユウコ、このあとエステ行こうよ。それからバーでカクテル飲もう」
「そうだね。豪遊しよう。50万もあるんだから」

あー、極楽、極楽。
罰金の50万円で、女二人の温泉旅行。
ユウコは傷心旅行、私は慰安旅行ってところかな。
費用はすべてユウコ持ち。
性悪女なんて言われちゃったけど、あの浮気男からユウコを守れたし、全て計画通りだ。

「ねえ、キミちゃん、彼からもう一度やり直したいってメールが来た」
「はあ?しつこい奴だな。まさか応じるわけじゃないよね」
「でも、彼、私じゃなきゃダメだって」
「じゃあ誓約書を書かせよう。今度は罰金100万円」

ああ、また計画立てなきゃ。
100万だったら、海外行けるな。


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