SSブログ

妄想ボーイカフェ [コメディー]

日曜日の午後3時、僕がバイトするカフェに、吉田さんが来た。
カフェは僕らの町から少し遠くて大人の雰囲気だから、同級生は滅多に来ない。
まさか学校一の美少女が来るなんて。今日シフト入れてよかった。
制服を着ていない彼女を見るのは初めてで、ドキドキした。

「あれ? E組の矢代君だよね。ここでバイトしてたんだ」
「吉田さん、俺のこと知ってるんだ」
「知ってるよ。同じ学校だもん。それに、矢代君、けっこう女子に人気あるよ」
「え、そんな、まさか~」

「おい、矢代、何ぼーっとしてるんだ。早く注文聞け」
店長に言われて正気に戻った。
いけない、いけない。つい、妄想しちゃった。
「カプチーノ」と吉田さんは、僕の顔も見ずに言った。
カプチーノ飲むんだ。可愛いな。
「450円です」
おつりを渡すとき、ちょっと手が触れた。またドキドキした。

「ねえ、矢代君、バイト何時まで?」
「4時までだけど」
「じゃあ、買い物つきあってくれないかな。私、テニスラケットが欲しいんだけど、ひとりで選べなくて。矢代君、中学の時テニス部だったんでしょう」
「あ、うん。俺でよければ」

「おい、矢代、カプチーノ早くしろ」
あっ、また妄想しちゃった。
吉田さんが、僕の中学時代を知るわけがない。
カプチーノを受け取ると、吉田さんは僕の顔を見ることなく奥の席に消えた。

「矢代君、お砂糖もうひとつもらっていい?」
「いいよ。吉田さん、意外と甘党だね」
「…白状するわ。矢代君と話したかったの。砂糖は口実」
「えっ?」
「太ったら、責任とってよ」

「おい、矢代、次の注文聞け」
また妄想しちゃった。
その後もそんなふうに妄想は続き、僕は5回くらい店長に怒られた。

バイトを終えて店から出ると、吉田さんが立っていた。
「ねえ、E組の矢代君だよね」
「あ…、うん」
「あたし、同じ高校なの」
「知ってるよ。A組の吉田さんでしょ」
吉田さんはにっこり笑った。ああ、これも妄想か。

「矢代君、うちの高校、バイト禁止だよね」
「あ、うん、でもさ、割とみんなやってるよ」
「ばれたらヤバいよね。下手すると停学だよ」
「それは、困るな」
「じゃあ、口止め料、ちょうだい」
「はっ?」
吉田さんが手を出した。ヘビーな妄想だ。

「買い物しすぎちゃったの。カプチーノ注文した後、財布に50円しか残ってなかったの。帰りの電車賃がないの。マジで焦ったとき、ぼーっとしたバイトに見覚えがあったの」
「あ…、お役に立ててよかったよ」

妄想だ。きっと妄想だ。
だけど僕の財布からは500円玉が消えていて、翌日吉田さんを見かけても、まったくときめかなかった。
あれって、恐喝だよな~。


にほんブログ村
nice!(9)  コメント(8)