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同窓会の夜 [コメディー]

中学校の同窓会は、あくびの数を数えたくなるほど退屈だった。
30代も半ばになると、みんなダンナの話と子どもの話ばかり。
独身であることを告げると、返ってくる反応は金太郎飴みたいに同じ。
「自由でいいね~」「羨ましい」

うんざりしていたところに現れたのは、学年一のモテ男、田所君だ。
「遅れてごめん」と入ってきた田所君は、36歳とは思えないほど若くてイケメンでスラっとして爽やかだった。
ダンナの話や子供の話で盛り上がっていた女子たちは、たちまち田所君を囲んだ。
「田所君、変わらないわ」
「何飲む?」
「お仕事は? 結婚は? うそ、独身なの!」
田所君は、目がハートの女子たちをやんわりかわして、私の方へ歩いてきた。
「久しぶり、香川さん」
田所君が私の隣に落ち着いてしまったので、女子たちは再びダンナや子供の話に戻った。

「香川さん、マキちゃん元気?」
開口一番、田所君が言った。マキは私の妹だ。
ひとつ下のマキと田所君は、中学から高校まで付き合っていた。
「俺、何人かの女性と付き合ったけど、一番はマキちゃんなんだ。青春だったからな」
「まさかマキが忘れなくて独身ってわけじゃないよね。それだったらご愁傷様。マキは結婚して3人の子持ちよ。ちなみに私は独身だけど」
「えっ、3人も。ダンナさんはどんな人?」
「IT企業のエリートよ。ちなみに私は独身よ」
「そうか。幸せなんだな。優しいお母さんなんだろうな」
「毎日怒鳴ってばかりよ。だって3人もいるんだもん。ちなみに私は独身で子どももいないけど」
「写真ないの?」
田所君は、私の独身アピールをことごとく無視した挙句、マキの写真を見せろという。

私はスマホの写真をスクロールして、田所君に見せた。
「ほら、これがマキよ」
「えっ…変わったね」
3倍ほどに増えた体重。ぼさぼさの髪。子供を抱く太い腕。
「マキ、子供産むたびに太ってね。すごい貫禄よ」
「へ、へえ…」
田所君は「じゃあ」と立ち上がり、他のグループのところへ行った。
急に興味を失くしたようだ。もっとも最初から、私に興味があったわけではない。

2次会を辞退して家に帰ると、風呂上がりのマキが私を出迎えた。
「おかえり、お姉さん。同窓会どうだった?」
スッピンなのに、35歳とは思えないほど若くてきれいでスリムなマキは、本当は独身で実家暮らしだ。
さっき田所君に見せた写真は、先日遊びに来た従妹の写真。
3人の子持ちで、子供を産むたびに太った従妹の写真だ。

「ねえ、お姉さん、同窓会に田所さん来てた?」
「うん。来てたよ」
「彼、結婚してるの?」
「うん。3人の子持ちだって。髪の毛も薄くてさ、おまけに太って太鼓腹よ。昔の面影はないわね」
「そうなの?」
「うん。子供産むたびに太ったんだって」
「まあ…。思い出は、きれいなまま取っておいた方がいいってことね」
「そうだね」
「あれ、お姉さん、田所さんは子供産まないでしょう?」
あ……やべえ。


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