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面会日(空見の日) [競作]

もぐらさんの呼びかけで、今日(3月19日)は空見の日です。
みんなで空を見上げて、色んな想いを空に放つのです。
色んな災害があったり、恐ろしいウイルスが蔓延したり、経済が心配だったり。
落ち着かない時だからこそ、空を見上げましょう。

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朝7時の空。7時からこんなに青い!

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さて、いつものように、空に因んだお話です。

「面会の日」

高台の公園を通り抜けようとしたら、老人が空を見ていた。
やけに真剣に見ている。
「何かあるんですか? 何か飛んでます? 飛行機、飛行船、アドバルーン、風船、珍しい鳥?」
「うるさい。少し黙ってくれ。空と話をしてるんだ」
「空と話? 空が喋るんですか。ああ、もしかして宇宙人と交信してるとか? おじいさん、頭大丈夫?」
「うるさい。せっかくの面会日が台無しだ」
老人は、怒って帰ってしまった。おかしな人がいるものだ。
それより急いで仕事に戻ろう。
母さんが入院したって聞いて慌てて来たけど、大したことないじゃないか。

その年の暮れ、大したことないと笑っていた母が亡くなった。
本当は重い病気だったのに、最後まで笑っていた。
もっと優しくしてあげたかった。いつも生返事でろくに会話もしなかった。
仕事にかまけて、お見舞いだってあまり行かなかった。
後悔ばかりの毎日だ。

そんな時、一通の手紙が届いた。どこから来たのか、切手も貼っていない。
『面会日のお知らせ』と書かれていた。
面会人に、母の名前が書いてある。
『日時:3月19日 午後3時  場所:○○町高台の公園』
高台の公園は、ちょうど去年の今頃、おかしな老人を見た場所だ。

半信半疑だったけど、3月19日の午後3時、僕は仕事を休み、高台の公園に行った。
空を見上げた。青くて吸い込まれそうなほど澄んだ空だ。
「ひろし、来てくれたのね」
母の声だ。はっきり聞こえた。
「母さん、ごめんよ。親孝行のひとつも出来なくて」
「何言ってるの。あなたの存在そのものが、私の宝よ」
「病気のこと、もっと早く教えてほしかったよ」
「いやよ。あんた泣き虫だもん。ほら、カマキリが怖くて泣いていたじゃないの」
「いつの話だよ」
僕たちは、笑いながら話した。
時間が来て、母の声が聞こえなくなっても、ずっと空を見ていた。

振り返ると、去年空を見ていた老人がいた。
「面会は年に一度、10分だけ。なっ、邪魔されたくないだろう」
老人は、次は俺の番だと空を見た。
「ごゆっくり」と声をかけて、公園を後にした。
母さんが好きな桜の花が、もうすぐ咲くよ。空の上から見えるといいね。

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近所の桜の木です。つぼみが膨らんでいます。もうすぐ咲くね。
見上げないと気付かなかったよ。
今年の空見は暖かかったですね。

もぐらさんのブログはこちらです。
http://koedasu.cocolog-nifty.com/blog/2020/03/post-e67133.html

みなさんも、空見しようね。


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