緊急家族会議

「お父さん！」
「おお、つとむ、部活の帰りか」
「うん。お父さん、今日早いね」
「お母さんから、緊急家族会議があるから早く帰れって連絡が来た」
「ああ、僕のところにも来たよ。でもさ、どうせ大したことないだろう」
「そうだな。前回はパートに出たいっていう議題だったもんな」
「そうそう、結局１カ月で辞めちゃったよね」
「お母さんは家のことだけしてればいいんだよ。女なんだからさ」
「ピピー、お父さん、それレッドカードね。女性蔑視で訴えられるよ」
「こりゃ参った。発言撤回だ」

「まあでも、お母さんはゴキブリが出ただけで大騒ぎだもんね」
「そうそう、守ってあげたくなるタイプなんだ。昔も今も」
「今日の議題、何だろうね」
「あれじゃないか、新しい洗濯機が欲しいとか」
「友達と旅行に行きたいっていう話かも。ほら、お母さん、たまに出掛けるだろ」
「ああそうか。女友達とのリフレッシュ旅行ってやつか」
「お母さんって、ストレス溜まらないだろうね」
「そうだよな。理解ある夫と優しい息子に囲まれて」
「可愛いもんね、お母さん。ちょっとおっちょこちょいでさ」
「お前も将来、お母さんみたいな嫁を貰えよ」
「僕はもうちょっと、自立した女性がいいな。篠原涼子みたいな」
「ははは、お父さんも篠原涼子がいいな」

「お父さん、早く帰ろう。空模様が怪しくなってきた」
「本当だ。何だか不気味な雲だな」
「お母さん、きっと怖がってるよ」
「そうだな。走って帰るか」
「陸上部の僕に勝てると思ってるの？」
「よーい、どん」


そのころ、お母さんは。。。

「はい、こちら地球防衛機密捜査隊第３９５地区のＸです。直ちに出動準備……ええ、わかっています。地球の危機が迫っているのは重々承知しています。これまで闘ってきた相手とは格がちがうということも。ですからせめて、家族にお別れを。いつもの一泊旅行というわけにはいきませんから。夫と息子がもうすぐ帰ってくるんです。緊急家族会議の招集をかけましたので。ですからあと少し待ってください。ああ、通信が……。本部まで敵が迫ってきたのね。仕方ない。もう行くわ。私は闘う。愛と地球を守るために！」


「ただいまー。あれ、お母さんいないよ」
「風呂でも入っているのかな」
「手紙があるよ。ちょっと出掛けてきますだって」
「なんだなんだ。醤油でも買い忘れたか？」
「しょうがないお母さんだね」
「それを言うならしょうゆがないお母さんだ」
「オヤジギャグかよ」
「でもまあ、ちょっと抜けてるところがお母さんのいいところだ」
「本当に、守ってあげたくなるよね」

「見て、お父さん。空が赤いよ」
「おお、宇宙戦争勃発か？トム・クルーズの出番だな」
「お父さん、映画の見過ぎ。それにしてもお母さん遅いね」
「道にでも迷っているのかな。お母さんは本当にドジっ子だな」
「守ってあげないとね、お父さん」

お母さんが、まさに愛と家族と地球を守るために闘っていることを、呑気な父子は知らない。