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お年玉強盗 [ミステリー?]

1月3日のことである。
おばあさんの家に、4人の孫がやってきた。孫は男ばかりである。
毎年揃って顔を出し、お年玉をもらうのだ。
孫といっても20歳を過ぎた大人だが、もらえるものはもらいたい。
しかしおばあさんは、正月早々浮かない顔をしている。
「実は、昨日空き巣に入られて、お前たちのために用意したお年玉を盗まれたんだ」
「何だって?」
「警察には行ったの?」
「行ってないよ。だってさ、お前たちの中に犯人がいるかもしれないから」
孫たちは思わず顔を見合わせた。
「何言ってるの?俺たちを疑ってるの?」
「昨日防犯カメラに映っていたんだよ。1月2日の13時20分に、合鍵を使って家に入る誰かがね」

おばあさんは、昨日老人会の仲間と初詣に行った。
それを知っているのは、近所に住む二人の娘夫婦と孫たちだけ。
娘たちの家には、おばあさんの家の合鍵がある。
防犯カメラに映ったのは、若い男だ。
黒い帽子を目深に被り、黒いコートに黒いマスク姿で顔はさっぱりわからない。
「断定はできないよ。だけど合鍵でここに入れるのは、お前たちしかいないだろう」

A男「僕は昨日バイトだったよ。10時から17時まで。犯行は無理だ」
B男「僕は大学のレポートをやってた。駅前のドトールに、10時から15時までいたな。さすがに長居しすぎたから、店員が覚えてると思うよ」
C男「俺は恋人と買い物に行ったよ。家に帰ったのは18時頃かな」
D男「俺は家で寝てた。前の日に高校の同級生と飲み明かして、15時におふくろに叩き起こされた」

それぞれにアリバイがある。ちなみに、A男とB男が兄弟。C男とD男が兄弟である。
B男「兄ちゃんのバイトはピザの配達だ。ちょっと寄れる時間はあるよね」
A男「バカ言え。真っ赤なジャンパー着てるんだぞ。黒いコートなんか持ってない」
C男「おいD男、アリバイがないのはお前だけだ。こっそり布団を抜け出してまた戻れば、母さんにはバレないだろう」
D男「兄さんこそ。恋人の家って、この近くじゃなかった?」
B男「しかしそもそも、黒いコートが気にかかる。ねえおばあちゃん、死んだおじいちゃんの教えで、正月に黒い服を着るなっていう家訓があるよね。僕たち、今でもそれを守ってるんだ」
「そうかい、そうかい。そりゃあ、じいさんも喜んでるね」

A男「ちょっと待て。そもそもこの家の合鍵を持ち出すのは不可能だ。うちでは母親が管理していて、どこにあるのかもわからない」
D男「うちもそうだよ。母さんが持ち歩いてる。車の鍵と家の鍵と、この家の鍵をキーボルダーでひとまとめにして、いつもカバンに入れてる。母さんの許可がないと借りられないよ」
「あっ」と、D男がC男を見た。
「兄さん、昨日母さんの車で出かけたね。キーホルダーに、この家の鍵もついていたはずだ」
C男の顔が青ざめて、膝から崩れ落ちた。
「お、俺がやった」

     *
「ちょっとお待ち。C男は犯人じゃないよ」
名探偵のごとく腕組みをしたおばあさんが、きっぱりと言った。
「C男はじいさんの家訓を破って黒い服を着たりしないよ」
「たった今認めたじゃないか。C男じゃなかったら、誰なんだよ」
「犯人は、C男の恋人だ」
「ええ、だって、若い男だって言ったじゃないか」
「C男の恋人は女とは限らない。前になかなかのイケメンと仲良く歩いているのを見かけたよ。あんたの恋人は、あのイケメンだね」
C男はこくりと頷いた。

昨日、C男は恋人におばあちゃんの話をした。
「毎年元旦から、4人分のお年玉をコタツの上に並べているんだ。1人3万円として12万。不用心だよね。今日おばあちゃん出かけてるんだ。この合鍵で忍び込めば、4人分のお年玉を独り占めできるよね」
「12万あったら旅行に行けるね」
「行ける行ける。って、あはは。冗談だよ」
本当に冗談のつもりだったが、彼は本気にした。C男がうたた寝をした隙に鍵を持ち出しておばあちゃんの家に行った。
そして、コタツに並んだ4つの封筒を残らず持ち帰ったのである。

C男「取り返してくる」
A男・B男・D男「俺たちも行く」
恋人は、すっかり罪悪感に苛まれていると思いきや、C男の顔を見るなり封筒を突きつけて言った。
「何が旅行だよ。4千円でどこに行くのさ」
A男・B男・C男・D男「4千円? ひとり千円ってこと?」

介護保険、後期高齢医療保険、年金暮らしのおばあちゃんは、大変なのであった。
「今年はちょっとケチりすぎたかね~」

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