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あした、雨になれ [ファンタジー]

明日は運動会。
だけどわたし、運動会は大嫌い。
かけっこビリだし、ダンスも下手くそ。
いいことなんて何もない。
そうだ。テルテル坊主を逆さに吊るそう。
「あーした雨になあれ~♪」
ふふふ。これでよし。明日は土砂降りだ。

翌朝、本当に雨が降った。
やった。運動会中止だ。
スキップしながらリビングに行ったら、パパとママがガッカリしていた。
「お弁当の用意してたのに」
「せっかく有給取ったのに」
ふたりともがっくり肩を落としている。
予想以上にしょげている。
「天気予報は晴れだったわよねえ」
ママがそう言いながらテレビをつけた。

『今入ったニュースです。○○町の○○小学校の運動会が、雨で中止になりました』
えっ?? うちの学校?
『運動会中止により、全児童623名及びその保護者、そして数日前から準備していた教員25名に影響が出ています。3年2組の担任S先生に今の心境を伺いました』
『3年2組担任の鈴木です。悔しいです。何日も前から競技やダンスの練習をしてきた生徒たちが可哀想です。そして私も可哀想です。教師になって初めての運動会を、母が見に来るはずだったのに』
先生、泣いてる。。。

『いやあ、これはひどい事態ですね。まさか雨が降るとは。これはね、気象予報士も責任を免れませんよ。そのあたり、どう思っているんですか? お天気キャスターの石原さん』
『昨日の予報は間違いなく晴れだったんですよ。これは私たちには予想できない何らかの力が加わったものだと思われます』
『何らかの力とは?』
『例えばおまじないです。テルテル坊主を逆さに吊るした悪魔のような子どもがいたかもしれません』
『ひどいことをしますね。では、次のニュースです。○○中学で飼っていたウサギが逃げました』

「おいママ、テルテル坊主を逆さに吊るした子がいたらしいぞ」
「まあ、そうなの? 誰かしら。PTAで問題にしようかしら」
えっ、ヤバい。わたし、逮捕される?

わたしは急いで部屋に戻って、逆さのテルテル坊主を外した。
ごめんなさい。テルテル坊主さん。許してください。もうしません。
途端に雨がやんで、眩しいくらいのお日様が出て来た。

「エリカちゃん、起きて……。あら、早起きねえ。もう起きてたの?」
ママが来た。
「ママ、雨がやんでよかったね。運動会できるね」
「何言ってるの? 雨なんか降ってないわよ。きのうからずっといいお天気。お天気キャスターの石原さんの言う通り。あの人の予報、当たるんだから」
「えっ?」
見ると、水たまりも何もない。あれ、わたし、夢見てた?
机の上に置いたテルテル坊主が、にっこり笑ってる。

「さあ、張り切ってお弁当作りましょう」
「わたしも張り切って走るね」
「あまり張り切っちゃダメよ。転んでけがしたら大変」
「どうせビリだしね」
「ビリでもいいじゃない。運動会の一番の楽しみは、何と言ってもお弁当なんだから。ママが学校一のお弁当を作ってあげる」
ふう。ママって、ちょっとズレてるんだよね。
でも不思議。運動会が、ちょっと楽しみになってきた。

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