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つるの恩返し 現代版    [名作パロディー]

「ごめんくださいまし」
「はい、どちら様?」
「先日、あなたさまに助けて頂いた鶴でございます」
「ああ、あのときの鶴か。ドローンにぶつかって怪我しちゃった鶴だろ。えーっ、マジで恩返しに来たの?」
「はい、先代の鶴が825歳で亡くなりまして、私は2代目でございます」
「へー、鶴ってやっぱ長生きなんだ」
「先代の教えに従って、こうして人間の女に姿を変えてやってまいりました」
「そっかあ、で、何してくれんの?」
「機織り機はございますか?」
「ねえよ。2DKのアパートだぜ」
「では、私は何をすれば」
「とりあえず上がったら。カップ麺食う?」
「お邪魔します。あら、何もない部屋ですね」
「引っ越して来たばっかりだからな。彼女と一緒に住むはずだったのに、寸前で逃げられた。他に好きな男が出来たってさ」
「それはお気の毒に。それで、私は何をすれば?」
「ああ、じゃあさ、布団作って。羽毛布団。買いに行こうと思ってたんだ」
「そういうのは、水鳥の羽毛だと思います。私の羽根はちょっと不向きかと」
「そうなんだ。じゃあさ、逆に訊くけど何が出来るの?」
「えーっと、虫を捕ったり、空を飛んだり、甲高い声で鳴いたり出来ます」
「どれも要らないなあ。鳴かれたら苦情が来るし」
「困りましたねえ」
「まあ、焦ることないよ。恩返しが見つかるまでここにいれば」

3年後

「鶴ちゃん、醬油とって」
「はい、どうぞ」
「おれ、今日残業になりそう」
「あらそうですか。じゃあご飯要らないときは電話してくださいね。あなたが食べないときは粗食で済ましているんですから」
「わかった」
「あら、またネクタイにシミ付けて。クリーニング代もバカにならないんですよ」
「ごめんごめん」
「あっ、そろそろ出ないと遅刻ですよ」
「ホントだ。ごちそう様でした。玉子焼き美味かった~」
「忘れ物しないでくださいね。いくら飛べるとはいえ、会社まで届けるのは大変ですから」
「うん。じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「あっ、ところでさ」
「何です?」
「見つかった? 恩返し」
「それがさっぱり思いつかないんです」
「まあいいよ。気長に探しなよ」

……もう充分していると思う。

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