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ハロウィンの生贄

マリアちゃんから、ハロウィンパーティに誘われた。
マリアちゃんの家は高台の大きな洋館で、パパがイギリス人でママが日本人。
だからハロウィンの仮装も本格的なんだって。

「ゆりあちゃんも、仮装してきてね」
「どんな仮装がいいの? 魔女? ゾンビ?」
「ゆりあちゃん、可愛いからお姫様がいいと思う」
「じゃあ、ピアノの発表会で着た白いドレスを着ていくね」
「うん。楽しみ」

私は白いドレスとティアラ、そしてお気に入りのイヤリングを付けて、マリアちゃんの家に行った。
全身黒ずくめのマリアちゃんが出迎えてくれた。
「マリアちゃん、カッコいい。吸血鬼みたい」
「ゆりあちゃんも素敵。パパとママ、きっと気に入るわ」

「いらっしゃい、ゆりあちゃん」
マリアちゃんのママが黒い衣装でお茶とお菓子を運んできた。
「うわあ、おばさんもカッコいい。吸血鬼みたい」
さすが本格的だ。仮装も気合いが入っている。

「ゆりあちゃん、お菓子食べたら家の中を案内するね」
「うん。だけど、他の子は来ないの?」
「招待したのはゆりあちゃんだけ。ゆりあちゃんが選ばれたの」
「選ばれたって、何に?」
「毎年1人ずつ招待しているの。今年はゆりあちゃんが選ばれたのよ」
「ふうん。よくわからないけどラッキーなのかな」

お菓子を食べた後、マリアちゃんが家の中を案内してくれた。
「マリアちゃん、パパはどこにいるの?」
「地下室にいるわ」
「すごい。マリアちゃんの家、地下室があるの?」
「うん。行こう。パパを紹介するわ」
マリアちゃんは灯りを片手に階段を下りていく。
うす暗い地下室に、マリアちゃんのパパが立っていた。
黒いマントに青白い顔。2本の牙。
「すごい。おじさん、完璧な吸血鬼だね。うわあ、本物みたい」
マリアちゃんのパパは、ゆっくり私に近づいてきた。
「ゆりあちゃんのこと、気に入ったみたい。おいしそうって言ってる」
マリアちゃんが言った。パパは日本語が話せないらしい。
「おいしそう」じゃなくて「可愛い」だよって教えてあげたい。

マリアちゃんのパパが、私にハグをした。
驚いたけど、外国の人は、これが普通の挨拶。
だからちょっと身体が冷たくて気持ち悪くても、鼻息が首にかかっても我慢した。
こっちが我慢したのに、なぜかマリアちゃんのパパは急に悲鳴を上げて私を突き飛ばした。
「えっ、なに?」
マリアちゃんのパパは悲鳴を上げながら、棺桶みたいな箱に入ってしまった。
なになに? ウケる。これもハロウィンの演出?
「ごめん。パパ、調子悪いみたい」
「別にいいよ。あっ、そういえば私、おみやげにガーリックラスクを持ってきたの。ママの手作りだよ。ほら、いい匂いでしょ」
鞄からガーリックラスクを取り出すと、マリアちゃんは私の手を引いて、急いで地下室を離れた。
「うちではガーリックは食べないの」
ふうん。そうか。吸血鬼の設定、かなり本格的なのね。
その後のパーティはあまり盛り上がらなくて、夕方には家に帰った。
イギリスのハロウィンパーティ、大したことなかったな。

翌日、マリアちゃんがやって来た。
「おはよう、ゆりあちゃん」
「おはよう、マリアちゃん。きのうはありがとう」
「また遊びに来てくれる?」
「うん、いいよ」
「それでね、今度来るときは、十字架のイヤリング外してきてくれるかな。あと、ガーリックラスクも要らない」

その設定、いつまで続くの?
まあ、さほど楽しくなかったから、たぶん二度と行かないけどね。


……これ、ホラーなのかな?


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