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ライバル [コメディー]

正蔵さんと大助さんは、隣同士の幼なじみ。
同じ日に生まれ、生まれたときからのライバル関係だ。
どちらが先に歩くか、どちらが先にしゃべるか。
学校へ上がれば成績、スポーツ、ラブレターの数さえも競い合うようになった。
同じころに結婚して息子が生まれると、今度は息子同士を競わせた。
そして月日は流れ、今度は孫の番だ。

「おおい、香里、香里はどこだ」
「どうしたの、おじいちゃん。ここにいるよ」
「香里、隣の沙恵が梅むすめに選ばれたぞ」
「梅むすめ? ああ、梅まつりのキャンペーンガールね」
「どうして正蔵の孫が梅むすめなんだ。香里の方がずっと可愛いじゃないか」
「おじいちゃん、私は応募してないよ。興味ないし、やりたくないよ」
「いや、今からでも遅くない。市長に掛け合ってやるから、梅むすめやりなさい」
「やだよ。別にいいじゃん。やりたい人がやれば」
「それじゃあ隣に負けちゃうじゃないか」
「おじいちゃん、そういう時代じゃないよ。私と沙恵は、何も競い合ったりしないよ。ずっと仲良しだもん。まあ、確かに沙恵より私の方が可愛いのは事実だけどね」

沙恵と香里は19歳。同じ大学に通っている。
「そんなわけでさ、おじいちゃんがうるさくて」
「ごめん香里。うちのじいちゃんが自慢したんだ。梅むすめなんて、ちょっと愛想がよければ誰でもなれるのにさ」
「ああ、沙恵は愛想だけはいいからね。私はダメだわ。知らないおじさんと写真とか撮りたくないし」
「そうだね。香里はすぐ顔に出るからね」
「ところでさ、おじいちゃんたちの競い合い、いつまで続くんだろうね」
「本当だね。つまらないことに神経使わずに、もっと世の中の役に立つことすればいいのにね」
「あっ、それだ」

香里が家に帰ると、大助さんは全国のキャンペーンガールの情報を集めていた。
「香里、これはどうだ。納豆むすめ」
「だからそういうのはいいってば。それよりおじいちゃん、隣の正蔵さん、被災地に寄付したんだって」
「なに?」
「えらいよね。1万円ぐらい寄付したって言ってたかな」
「こうしちゃおれん。2万円寄付する」
正蔵さんと大助さんは、競い合うように被災地に寄付をした。

「おじいちゃんたち、本当に負けず嫌いだね」
「うん。でもこれで、被災地の人が少しでも助かればいいでしょ」
「さすが、香里は頭いいね」
「英語は沙恵とビリ争いしてたけどね」
「そうだった。あたしたち、ビリを競い合ってたね」
「でもさ、沙恵はどうして梅むすめに応募したの?英語しゃべれないのに。外人に話しかけられたらどうするの?」
「えへへ。それは大丈夫。今、彼にマンツーマンで教えてもらってるの」
「彼って?」
「留学生のマイクよ」
「うそ、あのイケメンのアメリカ人?まさか、沙恵……」
「実は付き合ってるの。黙っててごめんね。彼氏いない歴19年の香里には、なかなか言いづらくて」
「何それ。私がその気になれば、いくらでも彼氏できるから。すっごいイケメン見つけるから。ああ、そうだ。納豆むすめ、応募しよう。私、納豆むすめのセンター目指すから。じゃあね、おやすみ」

香里を見送って、沙恵は肩をすくめた。
「ふう。相変わらず負けず嫌いだな、香里は。おじいちゃんにそっくり。納豆むすめのセンター? 無理じゃん、愛想ないし。それよりあたしも募金しよう。お年玉いっぱいもらったから」

「おい香里、隣の沙恵が被災地に募金したらしいぞ」
「えっ、じゃあ私もする。負けてられないわ」
こういう競い合いならいいかも……。




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