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夢のティーパーティ

海が見える別荘で、ティーパーティを開くのが夢だった。
いろんな種類のお茶と、手作りのスコーン。
ティーカップは、お客様に合わせたものを私が選ぶ。
楽しいおしゃべりと、子供たちの笑い声。
芝生に寝そべるのは、大きなオスのゴールデンレトリバー。
優しい風に、揺れる木々。
私の隣には、背が高い素敵な夫が微笑んでいる。

そんな夢みたいことを考えていたのは、20代後半まで。
「お母さん、お腹すいた」
「めし、まだ?」
パートから疲れて帰ると、食べ盛りの二人の息子がひな鳥のように口を開けて待っている。
息子たちの関心は、私より、私が作る料理にある。
たまにスコーンを焼いても、まるでハンバーガーを頬張るようにバクバク食べる。
むせてはコーラで流し込む。
ティーパーティどころか、リビングでゆっくりお茶すら飲めない。

夫は関西に単身赴任中で、もう半年間会っていない。
仕事が忙しくて、全然帰って来ない。
夫は、背が高くもないし素敵でもないけれど、いないと不安な夜もある。

テーブルに並べた大皿のホイコーローを食べながら、息子たちが言った。
「お母さんの料理ってさ、大雑把だよね」
「そうそう。質より量って感じだよね。いつも大皿だし」
「キャベツの千切り、うどんみたいに太いし」
「弁当もさ、大盛りご飯に肉がドドーンって乗っかてるし」
「うん。彩りってものは皆無だね」
「ペットボトルの紅茶、がぶ飲みするしな」
「あとさ、あの岩みたいなゴツゴツしたスコーン」
「ああ、コーラなしでは食えないやつね」
息子たちは、ケラケラと笑っている。
笑いながらも、ホイコーローはすごい勢いで減っていく。

「な、なによ。お母さんだってね、最初からそうだったわけじゃないのよ。こうなったのは、あんたたちのせいでしょ」
「あっ、けなしてるわけじゃないからね。ごはんおかわり!」
「そうだよ。俺たちお母さんのガサツ…いや、大らかなところが好きなんだから。オレもごはんおかわり」

頭に来たから弁当作るのやめようと思ったけど、結局早起きして作った。
習慣って恐ろしい。
パートが休みでも、家事は山ほどある。
ブツブツ言いながら掃除をしていたら、宅配便が来た。
それは夫からで、開けたら高そうな神戸牛が入っていた。
『なかなか帰れなくてごめん。これでバーベキューでもして下さい』
あら、ステキ。

私は物置から、長いこと仕舞い込んでいたバーベキューセットを出して庭に並べた。
ザクザク切った野菜と神戸牛。
ビールとコーラと炊きたてのご飯。
夜空に舞い上がるバーベキューの煙と、よく食べる息子二人の笑い声。
これって、ティーパーティより良くない?

海も見えない住宅街の一角だけど、ステキな夫もいないし、犬もいないけど。
だけど私、けっこう幸せかも。


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