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ちょうどいいサイズの世界 [ファンタジー]

昔々、北のはずれに小人の国がありました。
何もかもが小さくて、住んでいる人たちも、5センチから10センチくらいの大きさでした。
そんな小人の国に、ひとりだけ、大きな小人の男がいました。
たくさんの兄弟の中で同じように育ったのに、その男だけずんずんずんずん成長しました。
家や木までも追い越して、天に届きそうな大きさです。
「いったい何を食べたらそんなに大きくなるんだい」
「すみません、お母さん」
声も大きいので、お母さんは吹き飛ばされそうになりました。
そんな大きな服はないので、たくさんの布を繋ぎ合わせて腰に巻き、のっしのっしと歩きました。
男が歩くと地震が起きて、小人たちは木の幹にしがみつきました。
「僕がいると、みんなに迷惑がかかるんだね」
男は、ある夜明け前、村を出ました。
誰もいない国を目指して、西へ西へと向かいました。

昔々、南のはずれに巨人の国がありました。
何もかもが大きくて、5メートルを超える人たちが暮らしていました。
そんな巨人の国に、小さな女の子が生まれました。
あまりに小さいのでミルクをたくさん与え、たくさんの食事を与えました。
それでも大きくならず、年頃の娘になっても、巨人の膝くらいしかありません。
「こんなチビでは、嫁の貰い手もないし仕事にも行けないよ」
「ごめんなさい、お母さん」
「あん? 聞こえないよ」
娘の声は小さくて、誰にも届かないのです。
素敵な服が欲しくても、お裁縫道具は大きすぎて娘には使えません。
お母さんの白いハンカチをドレスのように巻き付けて、娘はいつも泣いていました。
「どこかに、私が生きる場所があるかもしれない」
娘は、ある夜明け前、村を出ました。
エメラルド色の瞳を輝かせ、東へ東へと向かいました。

虹のような美しい世界で、男と娘は出逢いました。
「同じサイズの人だ」
ふたりは駆け寄って、思わず手を取り合いました。
優しい風が吹き、鳥たちがさえずり、美しい湖がキラキラ光っています。
「ここは天国かしら」
ふたりは、手をつないで歩きました。
「見てごらん。ちょうどいいサイズの木があるよ」
「まあ本当。ちょうどいいサイズのリンゴがなっているわ」
ふたりは、木の下に座ってリンゴを食べました。
「僕はアダム。君は?」
「私はイブよ」
「ねえ、ふたりで新しい世界を作ろうよ」
「そうね。ちょうどいいサイズの世界を作りましょう」

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