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六番目の娘 [公募]

「パパ、パパ、やったわ。女の子だって」
「おいおい、妊婦が走るなよ」
「だって、一郎から五郎まで、五人続けて男の子だったのよ。待望の女の子よ」
「だから、飛び跳ねるなって」

わたしは、ママのお腹の中でふたりの会話を聞いていた。
どうやらわたしには、五人のお兄ちゃんがいるらしい。
それにしても、一郎から五郎って、ネーミングセンスなさすぎでしょ。
まるで昭和だわ。なんだか不安。
パパとママ、わたしにどんな名前を付けてくれるのかしら。
六番目だから「六子」なんて名付けられたらどうしよう。
ねえ、パパママ、きらきらネームじゃなくていいからさ、今風の可愛らしい名前を付けてちょうだいよ。

「あら、この子、お腹を蹴ったわ」
「元気がいいな。元気なゲンコちゃんだな」
「あはは、じゃあ、生まれるまでゲンコって呼ぼうか。おーいゲンコ、早く出てこい」

ゲンコだなんて信じられない。仮の名前にしても、もうちょっと何とかならない? 
やっぱりこの夫婦、センスゼロだわ。

「ただいま。ママ、お腹さわっていい?」
「いいわよ。たくさん話しかけてあげて」
「おーい、ゲンコ、お兄ちゃんだよ」
「おーい、早く会いたいな」
「生まれたらいっぱい遊ぼうね」

五人のお兄ちゃんは、一郎と二郎が小学生、三郎と四郎が幼稚園、五郎はまだおしめの取れない2歳児らしい。
代わる代わる話しかけてくれる。
たぶんすごく素直でいいお兄ちゃんたちだろうな。早く会いたい。

「ママ、この子の名前はゲンコじゃないよね。生まれたらちゃんと名前を付けるよね」
「もちろんよ。元気に生まれるように、ゲンコって呼んでるだけよ」
「ねえママ、僕たちの名前は、どうやって決めたの?」
「それはもちろん、順番よ」
「えっ? それだけ?」
「結婚した時にね、パパと話し合ったの。子供は、野球チームが出来るくらいたくさん欲しいねって」
「そうか。野球は九人でやるから、一から九まで順番に名前を付けるんだね」
「そのとおりよ」
「ふうん。そうしたらこの子は六番目だから六郎だ」
「バカだな。女の子だから六子だろ」

ああ、やっぱり六子に決定っぽい。令和のこの時代に、なんて古臭い。
せっかく春に生まれるんだから「菜乃香」とか「さくら」とか「桃子」とか、可愛い名前を付けて欲しいのに。

「ママ見て、雪だよ」
「本当だ。ねえママ、雪の結晶って六角形なんだよ。僕、顕微鏡で見たんだ」
「へえ、一郎は物知りなのね。あっ、痛い。イタタタ……」
「ママ、どうしたの?」
「生まれるかも。二郎、ちょっと背中さすって。三郎、ママのスマホを持ってきて。一郎、パパを呼んできて。四郎、五郎、心配しなくて大丈夫よ」

きれいな雪が降った午後、わたしは予定日よりもひと月ほど早く生まれた。
たくましいママと、温和なパパと、元気で優しい五人のお兄ちゃん。
「ちっちゃいね」
「可愛いね」
「美人になるぞ」
「早く一緒に遊ぼうね」

代わる代わる、わたしを覗き込む。
まだぼんやりしか見えないけど、みんなとても優しそう。
もう、名前なんて何でもいいや。わたし、この家に生まれて幸せだ。

ママがわたしの名前を呼ぶ。パパが呼ぶ。お兄ちゃんたちが呼ぶ。
春の光が差し込む部屋で、わたしはお兄ちゃんたちが順番に使った籐のゆりかごで眠っている。

雪の日に生まれたわたしは、六花(りっか)という名前を付けてもらった。
雪の別名なんだって。とても気に入ったわ。
パパ、ママ、お兄ちゃん。そして、あの日降ってくれた雪に、心からお礼を言うわ。
素敵な名前をありがとう。

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公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
テーマは「名前」でした。
落選だったけど、私は好きです。こういう明るくて、のほほんとした話は書いていても心が和みます。特に今のような不安だらけの毎日にはね^^

余談ですが、今日公募ガイドからメールが来ていて
「ポイント追加のお知らせ」で200ポイントと書かれていました。
TO-BEは、落選だと10ポイント、佳作は60ポイントだったかな。
で、200だったら最優秀じゃん! って一瞬舞い上がり、雑誌をみたら最優秀どころか佳作にも入っていない。
メールをよく見たら、「定期購読継続ポイント」だった^^;
はずかし~。。。

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