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ねごと [コメディー]

松下君が居眠りしてる。授業中なのに、教科書を立ててずっと寝てる。
よりによって英語のノーメン先生だ。
能面みたいに無表情で、出来の悪い生徒を容赦なく切り捨てる。
「松下、これ以上内申下がったらヤバいよ」
腕をつんつんしてあげたけど、起きる気配は全くない。
それどころか小さな声で寝言まで言っている。
「大丈夫。俺が地球を守る」
どんな夢を見てるんだか。

休み時間になったら、松下はようやく起きて大きな伸びをした。
「松下、あんたどんな夢見てたの?」
「えっ、寝言言ってた?」
「言ってたよ。地球は俺が守るって。あんたに守られる地球ってどんだけだよ」
「いや実はさ、夢の中にノーメン先生が出てきた。ノーメンのやつ、実は侵略を企む宇宙人でさ、生徒を全員仲間に引き込もうとしているのさ。授業中に目が合った生徒はみんな支配されちゃう。支配された奴は窓から飛び降りるんだよ。そこには宇宙船があって、みんな吸い込まれていくんだ」
「ひええ、怖いね。あたしも支配された?」
「浅井さん、真っ先に支配されてたよ。単純だからね」
「なにそれ、ムカつく」
「そんでね、賢い俺だけマインドコントロールが効かなくて助かるの」
「それであんたが地球を守るんだ。笑える。授業中の居眠りで、よくそんなにスケールのデカい夢見るね」
「本当だな。俺、映画監督にでもなろうかな。もしくはSF作家」
「まずは高校行くこと考えなよ。あんた内申かなりヤバいからね」

チャイムが鳴って前を向くと、クラスメートが一人もいない。
「あれ、次、体育だった?」
時間割は国語だ。じゃあ、みんなどこに行った?
「浅井さん、あれ見て」
松下君が指さす先に、ゆらゆらと歩くクラスメートたちがいた。
先導しているのはノーメン先生だ。
「宇宙船に乗せられるのかも。そうしたら脳を改造されて、戦闘隊員として地球人を攻撃するんだ」
「助けなきゃ」
私たちは外に飛び出した。
「ノーメンを倒せば大丈夫」
松下君の手には、いつの間にか野球のバットが握られていて、鬼滅の刃さながらの素早い動きで高く飛んだかと思ったら、「とりゃー」とノーメン先生の頭めがけてバットを振り下ろした。
ノーメン先生の顔が二つに割れて地面に落ちた。
能面の下から出てきた顔は、オドオドとした普通のおじさんだった。
「あれ? 私は何をしていたんだ?」
どうやら、彼も支配されていたようだ。

そんなわけで、クラスメートも全員無事だった。
松下君、俺が守るっていう夢、本当だったね。
「松下カッコいい。好きかも……」

「浅井さん、浅井さん、起きなさい。重要なところですよ。テストに出ますよ」
コンコンと頭を小突かれて顔を上げたら、ノーメン先生が無表情で見下ろしている。
あれ? 私、授業中に寝てた?
隣の席の松下君は、なぜかまっ赤な顔をしている。
「あのさ、浅井さん、俺も……好きかも」
「はい?」
いきなりの告白? なぜこのタイミングで?
はっ、私もしかして、寝言言ってた?

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