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消滅 [ミステリー?]

久しぶり。20年ぶりくらいかな。
まさか淳史くんが同窓会に来てくれるなんて思わなかった。
ほら、淳史くん卒業前に東京に行っちゃったでしょう。
だから名簿に載っていないのよ。フェイスブックで見つけたときは飛び上がったわ。
ねえ、ちょっと太った? 貫禄あるよ。
やめてよ。淳史くんがおじさんなら、私だっておばさんだよ。
結婚は? へえ、子どもが二人。私はね、バツイチ。
淳史くんと別れた……っていうか、自然消滅した後、親が決めた人と結婚したの。
うまくいかなかったな。そりゃそうだよ。好きじゃなかったもん。
あの頃はね、自暴自棄になってたな。
もう遠い昔の話だけどね。
ねえ、淳史くん、同窓会の後、時間ある?
違う、違う。そういうんじゃないよ。
ほら、神社の桜の木、憶えてる?
あの下に、埋めたじゃないの。何をって、お金よ。
ふたりで貯めて、お地蔵さんの下に隠していたじゃないの。
いつか絶対一緒になろうって。
お金が貯まったら東京に行って淳史くんと暮らすって、本気で思ってたんだよね。
ねえ、掘りに行ってみようよ。今もあのままだよ。
ふたりで貯めたお金なんだからさ、ふたりで分けよう。


この町で暮らしたのは、高校の3年間だけだ。
親の都合で卒業前に東京に帰ることになったけど。
明日香とは2年間付き合った。すごくピュアな恋をしていた。
本気で将来を考えたりもしたけど、明日香の親が東京行きを許さなかった。
それで、自然消滅。まあ、初恋なんてそんなもんだろう。
明日香はすっかり田舎のおばさんだ。太ったのはお互い様だな。
ふたりで貯めたお金のことなんて、今の今まで忘れていた。
でもまあ、金はあっても困らないし、話のタネに行ってみることにした。
暗いな。田舎の夜ってこんなに暗いんだ。
神社の桜の木、懐かしいな。
お堂の軒先で、明日香と飽きるまで話した日を、なぜか鮮明に思い出す。
そうだ。桜の木の後ろに、小さな地蔵が5つ並んでいて、右から2番目の地蔵の下に金が入った缶を埋めたんだ。ずいぶん可愛いことをしていたんだな。

明日香が、草むらからスコップを持ってきた。そんな大きなスコップ必要か?
地蔵をずらして掘る。掘る。掘る。あれ、何もない。
おい、明日香、何もないぞ。
あれ? 明日香が、はるか上から俺を見下ろしている。
そんなバカな。いつの間にこんなに深く掘ったのだろう。
やけに青い月が、冷たい顔を照らした。
「ごめん、淳史くん。ふたりで貯めたお金、使っちゃった。そのお金で私、東京に行ったんだよ。すべて捨てる覚悟で行ったのに、淳史くん、別の女と暮らしてたよね」
えっ、連絡途絶えてただろ。俺たち、自然消滅だっただろ。
「さよなら」って、待ってくれ。足が埋まって出られないんだ。
助けてくれ。明日香、おい、明日香。


淳史くん、私の恋は、消滅してないよ。
明日の朝、また会いに来るね。飽きるまで話そうよ。あの頃みたいにね。

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