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雨とカエルとワイパーと

午後から降り出した雨は、時間を追うごとに強さを増した。
まるで暴力だ。「これでもか」と、フロントガラスを叩き続ける。

ふと見ると、ドアミラーにカエルがしがみついている。
必死だな。こんな暴風雨に耐えながら、踏ん張って生きている。
逆境に強いんだな。尊敬するよ。

ワイパーは忙しなく同じ動きを繰り返す。
働き者だ。僕の視界を確保するために、文句も言わずに動き続ける。
えらいな。不満だらけの僕とは大違いだ。

信号が赤になって、ワイパーを休ませた。
たちまち雨で視界が歪む。滝の中にいるみたいだ。
こんな雨の国で、カエルと暮らすのも悪くない。

クラクションを鳴らされた。
ああ、信号が青に変わったのか。
アクセルを踏んで、ワイパーを動かした。
その途端、ワイパーが何かを弾いた。
カエルだ。いつの間にか、カエルがドアミラーからワイパーの上に移動していた。
何てことだ。
忍耐強い頑張り屋のカエルを殺してしまった。
働き者のワイパーを殺人犯にしてしまった(人じゃないけど)。
ああ、なんて罪深い。

雨のせいだ。この忌々しい雨のせいだ。
このままアクセル全開で、ハイウエイをぶっ飛ばすぜ。

「ちょっと運転手さん、駅、通り過ぎてるけど」
「あああ、すみません」
「メーター止めてよね。戻った分、払わないからね」
「は、はい。もちろんです」

ああ、駅にはタクシー待ちの長い列が出来ている。
今日は忙しいな。
僕はワイパーみたいに働き者じゃないし、カエルのように忍耐強くない。
正直今すぐ帰って寝たい。

客を降ろして、ふと助手席側のドアミラーを見た。
カエルがいた。
おまえ、生きていたのか。
カエルは駅で降りた客のキャリーバッグに飛び移った。
きっと素敵な旅が待っているよ。頑張ったご褒美だね。

さあ、僕ももうひと稼ぎするか。
ワイパーくん、一緒に頑張ろう。

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