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元妻1号 [男と女ストーリー]

元夫が、4度目の結婚をしたらしい。
懲りない男だ。どうせまた別れるに決まっている。

私は最初の妻だ。浮気を繰り返す夫に辟易して3年で別れた。
2番目の妻と、3番目の妻とは、たまに連絡を取り合っている。
同じ男と離婚した者同士。友達とは違う、不思議な関係だ。

私たちは、1号・2号・3号と呼び合っている。
2号は離婚しても、彼と仕事上のつながりがある。
3号は離婚しても、彼と同じ町内に住んでいる。
4度目の結婚の情報も、彼女たちから教えられた。

「で、今度はどんな女なの?」
居酒屋で、ビール片手に二人に訊いた。
「24歳らしいですよ。4号さん」
3号が言った。
「彼の秘書をしていたらしいわ。割と優秀みたい」
2号が言った。
「そんな若い女と? まるで親子じゃないの」
「でも、彼は若く見えるから大丈夫よ」
「そうですよ。一度見たけど、お似合いでしたよ」
「どうせすぐに飽きるわ。何年持つかしらね」
「そうですね。だいたい3年のスパンですよね」
「そうしたらまた仲間が増えるわね。5号、6号、7号くらいは増えるかも」
「その前に死ぬわよ、あいつ。女たちの怨念にうなされてね」
「1号さん、言い過ぎですよ~」
「彼は健康に気を遣っているから長生きするわ」
「ふん、どうかしら。ところで4号、美人なの?」
「はい、美人でした。近所のスーパーで会ったんですよ。高いお肉買ってたなあ。たぶんすき焼きですよ。彼の好物ですもんね」
「すき焼き、いいわね。私もよく作ってあげたな」
「私もです。すき焼きの日は早く帰ってきましたよね」
「最初だけよ。そのうち家にも帰ってこなくなるわ」

2号と3号が、顔を見合わせた。
「あの、1号さん、やっかんでます?」
「はあ?なんで私が?あんな男、未練のかけらもないわ」
「だって、さっきから悪口ばかり」
「離婚した男を褒めてどうすんのよ。けなすために集まってるんでしょ」
2号と3号は、揃って首をひねった。
「私たち、彼と結婚したことを後悔してないし、今でも好きよ」
「はあ?浮気されて別れたんでしょ?」
「そうですけど、もともと彼は素敵すぎるんです。イケメンでお金持ちで優しくて。私一人の物になるなんて最初から思っていませんよ」
「そうそう。彼を独占しようとしたら罰が当たるわ」
「なにそれ。だからあんたたち、別れても彼の近くにいるわけ?」
「そうです。顔が見れたらラッキーって感じです」
「中学生か」
「でも、1号さんもそうじゃないんですか。だって、1号、2号、3号っていう呼び方、ファンクラブの会員番号みたいじゃないですか」
「ファンクアラブ? 違うわよ。冗談じゃないわ」

私は、ウンザリして店を出た。前から微妙に感じていた温度差。
こいつらと飲むのはもうやめよう。
裏通りのバーで飲みなおそう。ずいぶん前に何度か行ったことがある。

ドアを開けると、薄暗いカウンターの端で、男が手を振った。
「やあ、久しぶり」
あいつだ。
「どうしているのよ」
「俺の行きつけの店だもん。それを知ってて来たんじゃないの?」
「ふん、偶然よ。あーそういえば、4度目の結婚おめでとう」
「ありがとう。そのぶっきらぼうな言い方、嫌いじゃないな」
「ひとりで飲んでていいの?早く帰ったら」
「帰ろうと思ったところに君が来た。よかったよ、帰らなくて。やっぱりさ、最初の女って忘れられないよな」
なに、こいつ。調子いいんだけど。笑顔がヤバい。なんかいい匂いするし。
やだ、酔ったのかな。顔が真っ赤だ。

やっぱり、やっぱり、好きかも! ファンクラブ、継続しよ。(ファンクラブとか言ってるし)

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