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ノラ猫だけど何か? [ファンタジー]

おいらはノラ猫。
去年までは家ネコだった。
飼い主さんが突然死んじゃって、おいらノラになっちゃった。

飼い主さんが死んだあと、家族や親戚たちが集まって、遺産がどうとか揉めていた。
だけど、おいらのことを気にかけてくれる人間はひとりもいなかった。
おいらもあまり好きなタイプの人間じゃなかったから、そうっと家を出たのさ。
たまに家が恋しくなったけど、飼い主さんの家には息子や娘がいつもいた。
生きていたころは顔も見せなかったくせにさ。

あれから1年。
怖いノラ猫に追いかけられたり、車に轢かれそうになったりしながら何とか生きて来た。
ノラ猫にご飯をくれる人がいるという情報をキャッチすると、おこぼれをもらいに行った。
みんなに混ざって食べていると、必ず言われる。
「あんた、どこかの飼い猫だろう。おうちにお帰り」
おいらが首輪をしているから、どこに行っても飼い猫扱いだ。

首輪は重いし邪魔だけど、飼い主さんがくれた宝物だから外したくないんだ。
雨が降ってきた。
いつまで経っても雨には慣れないな。
ちょっとこの家の軒下を借りるか。

「ママ、ネコがいるよ」
しまった。子どもに見つかった。子どもは苦手だ。
走り出したら車が通り過ぎて、思い切り泥水を浴びてしまった。ツイてないぜ。
「あらあら大変。泥だらけね」
ママと呼ばれた女の人が、おいらをすっと抱き上げた。
「首輪をしているから、どこかのネコちゃんかな。おいで。洗ってあげる」
その人は、自分の服が汚れるのも構わずに、おいらを抱いて風呂場に行った。
えっ、風呂? シャワー? わあ、何だか懐かしいな。この感じ。
おいらは、久しぶりに首輪を外して体を洗ってもらった。
この人間、洗うの上手いな。飼い主さんより上手だ。

「うわあ、毛がぺったんこだね」
「そうだね。タオルでよく拭いてあげようね」
「ドライヤーで乾かしたら?」
「ネコはドライヤーの音が苦手なの。だからフカフカのタオルで拭いてあげよう」
「ママ、ネコ飼ってたの?」
「飼ったことはないけど、ペットショップで働いていたことがあるから慣れてるのよ」
「ふうん。ママ、この子の首輪、きれいだね」
「あら本当だ。裏側にキラキラがいっぱい付いてるね」
「ダイヤモンドみたいだね」
「そうだね。本物だったらすごいね」
「ママ、小さく電話番号が書いてあるよ」
「あら本当だ。きっとこの子の飼い主ね。電話してあげようか」

そうこうするうちに、おいらの毛はすっかり乾いて、かつお節と煮干しをご馳走になった。
ママさんは首輪に書いてあった番号に電話をかけた。
飼い主さんがいない家に連れ戻されるのはいやだ。
「電話しなくていいです。お構いなく」と言ってみたけど通じない。

「あっ、もしもし。あのですね、お宅のネコちゃんが迷子になっていたので保護しました。茶トラの成猫です。首輪に電話番号が……」
「昔ばあさんが飼ってたネコだ。もう死んじまったからいらねーよ。捨てるなり保健所に持っていくなり好きにしてくれ」
電話は乱暴に切られた。
「まあ、なんて人かしら。こんなに可愛いのに」

おいらは結局、この家にお世話になることになった。
フカフカのお布団と、キャットフード。ありがたいね。
新しい名前は「ダイヤ」
首輪の裏側のキラキラが、ダイヤモンドみたいだからだってさ。

あのさ、ひとつ報告がある。
そのダイヤは、本物だぜ。
きっと今でも、息子や娘が血眼になって探しているはずさ。
まさかおいらの首輪に隠したなんて、夢にも思ってないだろう。

「ダイヤ~、おやつだよ」
やった!
まあ、おいらにとっては、ダイヤモンドよりチュール
の方がありがたいけどね。



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