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お化け屋敷に住んでみた [ホラー]

ここはとても居心地がいいです。
朝から夜まで暗くて、1日中ひんやりしています。
時おり不気味な風が吹いて、人間の悲鳴がたくさん聞けるんです。
どこだかわかりますか?
そう、遊園地のお化け屋敷です。

私たち幽霊にとって、この世はとかく住みにくいのです。
太陽はギラギラだし、人は多いし車も多い。
休める場所なんてないんです。
その点お化け屋敷は最高です。
万が一見えてしまう人がいても、大騒ぎにはなりません。

ある夜のことです。
閉園後のお化け屋敷に、数人の若者が入ってきました。
スマートフォンをかざしながら、ハイテンションで歩いてきます。
「ここは本物の幽霊が出るとウワサのお化け屋敷でーす。生ライブ中に幽霊が映るかもしれません。こうご期待!」
何でしょうか、この人たちは。遊園地の許可は取っているのでしょうか。
スマホの照明を照らしながら、ずんずん奥へ進んできます。
やめてください。私、そんなところに映りたくありません。
拡散されて「画像を見たら死ぬ」的な都市伝説になるのは嫌です。

しかし彼らは、私をスルーしました。
見えていないようです。何だ、見えない人たちでしたか。
よかった。
とホッとしたのもつかの間、奥の方で悲鳴が聞こえました。
「うわあー、マジで出た。ヤバいよ。本物だ」
男たちは撮影もそっちのけで、一目散に逃げていきました。
奥に幽霊がいたのでしょうか。
ここに住み着いて3か月、私以外の幽霊に会ったことはありません。

私は奥に進み、声をかけてみました。
「どなたかいらっしゃいますか? 私以外に幽霊のお仲間がいるのかしら」
生温かい風に乗って、微かに声が聞こえました。
やっと聞こえるような小さな声です。
「あんた、俺が見えないのか?」
「はい、見えません。声は何とか聞こえますが」
「ふうん。だからいつも無視してたのか。あんたさ、俺が見えないってことは、ひょっとして死んでないんじゃないの?」
「まさか。私は3か月前に交通事故で死んだんですよ。それなのにお迎えが来ないから、こうしてさまよっているんです」
「だから、死んだと思っているだけで生きてるんだよ。だから迎えが来ないんだ。その証拠に、あんた幽霊としてはちょっと弱いんだよな。怖くないし」
ああ、自分でも幽霊っぽくないことはわかっていました。
「私、どうすればいいでしょう」
「とりあえず、生きたいと強く念じてみれば? 戻れるかもよ。じゃあ俺、ちょっと寝るから。まったく迷惑ユーチューバーにも困ったもんだ」
それっきり声は聞こえなくなりました。

私は念じました。「生きたいです。生きたいです」

数日後、私は目を覚ましました。
3か月間眠り続けた私は、ようやく意識を取り戻したのです。
もうすぐ退院です。
「お姉ちゃん、これ見て」
妹がお見舞いに来ました。学校帰りに毎日来てくれます。
「これね、今話題になってる動画。お化け屋敷で本物の幽霊が映った画像なの。すごいよ、怖いよ」
妹が見せてくれた動画は、あの日のお化け屋敷の物でした。
若い男の幽霊がはっきり映っています。
「あら、あの人けっこうイケメンだったのね」
退院したら、行ってみようかしら。霊感ないから見えないけどね。
私は、画像の幽霊に「ありがとう」と微笑みました。


ホラーなのに怖くなくてすみません。
怖いのを期待した人、ごめんなさい。
あっ、でも、あなたの後ろに……


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