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真夜中の仁義なき闘い? [コメディー]

おじゃましま~す。
入るなと言われても入りますよ~。
何しろこっちも命がかかっていますからね。

わあ、この人間、丸々太っておいしそう。
足もお腹もぷにぷにだ。
いただきま~す。
ブチ、チュー
あんまり健康的な血液じゃないな。
でもまあ、腹は満たされた。

「カール、助けて」
「レベッカ!フラフラじゃないか。どうしたんだ」
「人間にやられたわ。隣の部屋の女よ。いきなり両手でバチンですもの。身も蓋もないわ。まあ、すんでのところで逃げたけど」
「ひどいな。俺たち、人間よりずっと短い命なのに」
「本当よ。ワクチン注射は進んでするくせに」
「とりあえず栄養補給だ。この男の血を吸え。腕なんかどうだ?」
「ありがとうカール。やさしいのね」
「ボーフラの頃からの付き合いじゃないか」
「じゃあ遠慮なくいただきます」
「うわ、まぶた。そこ行く? 人間が一番嫌がるところだ。さすがレベッカ、エグイな」
「性格の悪さはボーフラ時代からお墨付きよ」

レベッカ、両手で叩かれても死なないとか、まるでゾンビだな。
さて、腹も満たされたし、おいとまするか。
「カール、大変よ。女が蚊取り線香を持って来たわ」
「さすがのレベッカも蚊取り線香には勝てないな。早く出ようぜ」

「ゴホ、ゴホ」
あっ、男が起きた。あんなに爆睡してたのに。
「煙いな。嫌いなんだよ、蚊取り線香。消してくれよ」
「だって蚊がいるのよ。電気付けるわよ」
パチ
「まぶしいよ~」
「キャー!化け物! あっちに行って!」
「なんだよ~。枕投げるなよ~」
レベッカに刺されたまぶたが腫れて、男の顔がお岩さんみたいだ。
ふたりが揉めているうちに、外に出よう。

「レベッカ、栄養もたくさん取ったし、丈夫な子を産んでくれよ」
「ええ、カール。今日もステキな熱帯夜ね」

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廃墟潜入リポート [ホラー]

ハルタが真夜中の廃墟に潜入して、戻らかった。電話も繋がらない。
昔病院だったというその廃墟は、近所では有名な心霊スポットだ。
「本当に出るから、1人で行ってはいけない」と言われていた。
彼はユーチューバーだ。
「無謀なことに挑戦しなきゃ意味ないっしょ」と言いながら、スマホひとつ持って出かけて行った。
登録者数を増やして、就職を迫る父親に認めて欲しかったのだ。

翌日心配になって友達数人と廃墟に行った。昼間でも気味が悪い。
名前を呼びながら捜し歩いたけれど、どこにもいない。
「ハルタ、他に女がいるんじゃない?」
「そうそう、いいのが撮れてテンション上がって、女でもひっかけたか?」
「やめてよ。ハルタはそんな人じゃないわ。せっかく撮った動画をアップしてないのも変だし、絶対何かあったのよ」
「じゃあ逆に、何にも撮れなくて落ち込んで」
「飲み屋の女と……?」
「だからやめてってば」

私は、面白半分でついてきた友達を帰して、ひとりで捜すことにした。
蜘蛛の巣だらけの廊下の先に、手術室があった。見ていないのはこの部屋だけだ。
「ハルタ、いないの?」
部屋に足を踏み入れたとき、スマホのお知らせ音が鳴った。
『ハルゾウチャンネル』の配信を知らせるものだった。
それはハルタのユーチューブチャンネルだ。
なんだ。ハルタ帰ってるんだ。よかった。
それならどうして電話に出ないのかと、少しムカついたけど無事が分かってホッとした。
私はその場にしゃがみこんで、ハルタの動画を見た。

『ハルゾウでーす。今日はなんと、地元で有名な心霊スポットに来ています。この場所ね、1人で来ちゃいけないって言われてるんですよ。今どき1人で行けない場所なんてあります? キャンプもひとりでする時代ですよ』
軽快なトークと共に、部屋を映して行く。
『なんか、何もないですね。人体模型とかあると盛り上がるんだけどな。あっ、あれは学校か。学校の理科室だな。ここは病院だから霊安室とかヤバそうだな。真っ暗で、どこがどの部屋かわかんないけど』
突然、カメラが切り替わった。ハルタを背後から撮影している。

どういうこと? カメラマンがもうひとりいたの?
ハルタは、自分が撮られていることにまるで気づいていない様子で、自分のスマホに向かってリポートを続けている。
次の瞬間、壁から無数の手が伸びて、ハルタに絡みついた。
無数の手は、ハルタの足を、腕を、髪を容赦なく掴んで闇に引きずり込んだ。
「わあ、なんだこれ。わあ、た、たすけて」
悲鳴を上げて引きずられるハルタのアップで動画が終わった。

なにこれ? 演出? 本格的だ。こんなすごい動画が撮れる人だったの?
再生数がぐんぐん上がる。コメント欄も大変なことになっている。
ハルタ、すごいね。登録者数も一気に増えるね。

帰ろうと立ち上がって、ふと気づいた。
この部屋、ハルタが最後に撮った部屋だ。
どこからか伸びてきた手が足に絡みついて、私はそのまま動けなくなった。


「ハルゾウチャンネル見た?」
「見た見た。めっちゃ怖いよね」
「次の配信楽しみだな~」
「さっきアップされてたよ。今度は女の人だった」
「ハルゾウの彼女なんでしょ。叫び声、めっちゃリアルだったよ」
「噂なんだけど、あの動画の後、ふたりとも行方不明なんだって」
「ありがち!都市伝説かよ」

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玄関先をお借りします [公募]

夏の午後、ちょうど簡単な昼食を済ませたところに、チャイムが鳴った。
いつものようにインターフォンで応答すると、画面に一人の老婆が映った。
「ちょっとの間、玄関先をお借りしたいのですが。ひどく疲れてしまってね、休みたいけど日陰が全然ないものだから」
背中に大きな荷物を背負って、肩で息をしている。
気の毒になって「どうぞ」と言った。
うちの玄関先は低いブロック塀で囲まれていて、いい具合に腰かけられるようになっている。
その周りにはたくさんの樹木があり、ちょうどいい日陰になる。
「よいしょ」と腰を下ろす老婆は、しきりに汗を拭っている。

私は冷蔵庫からペットボトルの水を出して、老婆のところに持って行った。
「あらまあ、これはどうもご親切に。玄関先を借りた上に、お水まで頂けるなんて」
老婆は喉を鳴らして水を飲んだ。よほど美味しかったのか、何度も礼を言った。
「どちらまで行かれるんですか?」と尋ねると「アンジョウ村まで」と答えた。
聞いたことのない地名だ。昔の呼び名だろうか。
この家に嫁いで八年になるが、初めて聞いた地名だ。気になったが深くは訊かなかった。
話が長くなると面倒だし、一刻も早くクーラーの効いた部屋に戻りたかった。
「ごゆっくり」と言い残して家の中に入った。
少し外に出ただけで暑いのに、あんな荷物を背負って歩くなんて、何かよほどの事情があるのだろうか。

午後三時、幼稚園に息子を迎えに行く時間になったので、車の鍵を持って外に出た。
まさかいないと思ったのに、老婆はまだ玄関先に座っていた。
かれこれ二時間は経っている。
「ごめんなさいね。長居してしまって」
「いえ、あの、私今から子供を迎えに行くんです。よかったらこの先まで乗せていきましょうか?」
親切心が三割、居座られたくないのが七割で、そんな提案をした。しかし老婆は首を横に振った。
「車は苦手でねえ。歩いてなんぼの商売だから。ありがとね」
幼稚園から帰ると、老婆はいなくなっていた。
ホッとしたが、よろよろ歩く姿を想像したら、少し胸が痛かった。

夜になって帰ってきた夫に、昼間の老婆の話をした。
「アンジョウ村は、合併前の名前だ。俺も生まれる前の話だけどね。そういえば、ばあちゃんは隣町のことを、死ぬまでアンジョウ村って呼んでたな」
「そうなの。大きな荷物を背負って、隣町まで歩くのね。私には無理だわ」
「この辺りは相当な田舎だったからね、昔は行商人が来たら、家に泊めていたらしいよ。この家、村はずれの一軒家だったから」
「知らない人を家に泊めるの?」
「うん。夜になったら真っ暗だし、宿屋もないしね。最初にそういう施しをしたから、その後もずっとやるようになったんだって。これもばあちゃんから聞いた話だ」
「ふうん」
行商人か。言われてみたらそんな感じだった。
大きな荷物を背負って、何かを売り歩く人みたいだった。
昔ならともかく、令和の時代に何を売り歩くというのだろう。

数日後の昼下がり、チャイムが鳴った。
「玄関先をお借りしたいのですが」
今度は、初老の男だ。浅黒い顔で、やはり背中に大きな荷物を背負っている。
「すまんけど、ちょっと休ませてくれんかね。ここに日陰があると聞いたもんでね」
人のよさそうな顔で汗を拭く男に、インターフォン越しに「どうぞ」と言った。
すると数分後、再びチャイムが鳴った。
「はい」
「あのなあ、ここでおいしい水がもらえると聞いたんだが、お願いできますかな」
はい? 水?
夫の言葉を思い出す。

「最初にそういう施しをしたから、その後もずっとやるようになったんだって」

ああ、そういうことか。

行商人たちは、数日置きにやってくる。
おじいさん、おばあさん、中年の男女など、さまざまな人がやってくる。
背負った荷物の中に何が入っているかはわからない。
どこから来て、どこへ行くのか、彼らの言うアンジョウ村が今でもどこかに存在しているのか、そんなことはわからない。
だけど私は、毎回玄関先を貸し、冷蔵庫から水を出して与える。
きっとこの家の玄関が、そういった役割を担っているのでしょう。

ほら、また誰かがチャイムを押した。
「玄関先をお借りします」

*****
公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「玄関」でした。
「TO-BE小説工房」次の公募で終了だそうです。
終わっちゃうのか。寂しいな。
有終の美を飾りたいな~。課題は「骨」です。難しい~
最後なので、気合い入れて頑張ります!

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ワイシャツになった朝 [ミステリー?]

「何日目ですか?」
ふいに尋ねられて横を向くと、話しかけているのはフード付きのパーカーだ。
「よく降る雨ですね。私はもう3日もこうして干されているんですよ。フードの部分がね、乾かなくてね」
「はあ」と俺は生返事をした。

ここは軒下だ。雨がしとしと降っている。
窓ガラスに映る自分の姿を見て驚いた。
ワイシャツだ。俺はワイシャツになっている。
「ワイシャツさんはいいですねえ。乾きが早いから。ジーンズさんなんか、かれこれ4日もあのままですよ。おっと、バスタオルが来ましたよ。ちょっと端に避けましょう」
僕とフード付きパーカーは端っこに追いやられ、真ん中に大きなバスタオルがやってきた。
「すみませんね、お邪魔します」

バスタオルを干しに来たのは妻だ。
ため息を吐きながら、恨めしそうに雨を見ている。
はて、どうして俺はワイシャツなのだろう。
昨日の出来事を、順を追って思い出してみた。

朝、妻と言い争いをした。
「ワイシャツはクリーニングに出してくれって言ってるだろ」
「忙しくて行くひまがないのよ。アイロンかけてあるからいいでしょ」
「袖の辺りがヨレヨレなんだよ。手抜きじゃないのか?」
「だったら自分でやってよ。家事にパートに塾の送迎。手一杯なのよ」
苛つきながら会社に行って、帰りに後輩と一杯やって、馴染みの女のところで飲んでフラフラになって家に帰り、脱いだワイシャツを洗濯かごに放り投げた。
そして目覚めたらワイシャツになっていた。

「ワイシャツさんはいいですね。乾かなくてもアイロンがけしてもらえるから」
「ほんと、ほんと。羨ましいですよ。せめてコインランドリーに連れて行って欲しいですね。乾燥機、目が回るけどあったかいからな」
「ああ、でもここの奥さん忙しいからな、コインランドリーに行くのも大変ですよね」
「ここのダンナ、まったく協力しないからね」
耳が痛い。いや、痛いのは肩だ。針金のハンガーがチクチクする。

妻が来た。俺をハンガーごとひょいとつかんでリビングへ運んだ。
「いいですね。ワイシャツさん、アイロンかけてもらえるんですね」
フード付きパーカーとバスタオルが羨ましそうに見送った。
アイロン台には、子供の制服のブラウスとハンカチ。
キャッキャとはしゃぎながら、アイロンをかけられている。
俺の番だ。アイロンをかけられるって、どんな気分だ?
妻は俺を掴むと、裁縫箱からハサミを取り出した。
えっ?なぜハサミ?

「ワイシャツさんが悪いんだ。襟に口紅なんか付けて帰るから」
子供のブラウスが、気の毒そうに言った。
嘘だろう?
ハサミがゆっくり近づいてくる。
やめてくれ、俺なんだ。ワイシャツは俺なんだ!助けてくれ!わあ!!


「バスタオルさん、何日目ですか?」
「かれこれ一週間です」
「私はもう10日目です。ジーンズさんは11日もあのままですよ」
「まさかこの家で殺人事件が起きるなんてね」
「もうすっかり乾いているのに、私たち、いつまでこのままなんでしょうね」
「しかし暑いな。もう夏ですね」


乾かない洗濯物を見ていたら、ふと殺意が。
うそです^^ フィクションです^^

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七夕に会いたくて

「おばあちゃん、今年はケンちゃん来ないの?」
奈々子は、お隣の縁側で日向ぼっこをするおばあさんの顔を覗き込んだ。
「ああ、そうだねえ。塾と野球で忙しいから来ないだろうね」
おばあさんは寂しそうに言った。

毎年七夕祭りの日に、隣の家に泊まりに来る健太は、奈々子と同じ10歳だ。
少し離れた大きな街に住んでいる。
おばあさんの家は大人ばかりでつまらないから、奈々子の家に遊びに来る。
お祭りも一緒に行く。
幼いころは別れるのが嫌で「帰らないで」と泣いたりした。
年に一度の楽しみなのに、健太が急に遠くなったみたいだ。

「ケンちゃん来ないのか。つまらないな」
奈々子は小石を蹴りながらとぼとぼ帰った。
家ではお母さんが笹飾りの用意をしていた。
奈々子は短冊に『ケンちゃんにあえますように』と書いて吊るした。

奈々子の願いが通じたのか、七夕の夜、健太は来た。
その日、隣のおばあさんが突然亡くなったのだ。
倒れて病院に運ばれて、そのまま帰らぬ人になった。
お通夜にお葬式、奈々子もお母さんと一緒に参列した。
健太は泣いていた。
「おばあちゃん」って何度も呼び掛けていた。
奈々子は胸が痛くなった。

お葬式が終わった夜、お母さんが花火を持ってきた。
「奈々子、ケンちゃんは学校があるから明日帰るんだって。ちっともお話しできなかったから、せめて一緒に花火をしたら」
奈々子は、花火を持って健太を誘った。
並んで線香花火をしながら、健太はまた泣いた。
「おばあちゃんから、会いたいって言われてた。なのにいつも忙しくて電話にも出なかった」
「ケンちゃんは悪くないよ。悪いのはわたしだよ。七夕の短冊に、ケンちゃんにあえますようにって書いたんだ。だから会えたけど、代わりにおばあちゃんが……」
線香花火がポトリと落ちた。
ふたりはおばあちゃんの縁側で、わんわん泣いた。

おばあさんの家は、数年後に取り壊された。
並んで花火をした庭には『売地』の看板が立っている。

七夕の日、健太は必ずやってくる。
どんなに忙しくても、おばあさんの墓参りを欠かさない。
「ケンちゃん、高校決めた?」
「S高目指してる。奈々ちゃんは?」
「私もS高。うちからは遠いけど、制服が可愛いから」
「制服で高校選ぶ人、初めて見た」
「あっ、バカにしたな」
「してねーよ。理由はどうあれ、まずは合格しなきゃ」
「お祭り行ったら短冊に書こうよ。一緒に合格できますようにって」
「めんどくせー」
「そういうこと言わないの」
奈々子と健太は、並んでおばあさんのお墓に手を合わせた。

『私の可愛い彦星と織姫が、いつか結ばれますように』
空の上から、おばあさんの願い事が聞こえてきた。

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