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次の恋 [男と女ストーリー]

Aと別れた1か月後にBとつき合って、Bと別れた2週間後にCとつき合って、Cと別れた1週間後にDとつき合って……。
恋が終わって次の恋が始まるスパンが、年々短くなっている。

「あんたさあ、よくそんなに次から次へと彼氏が出来るよね」
親友のレイコは、呆れ顔でウーロン茶を飲み干した。
「久々に飲もうって誘っておきながら、ウーロン茶って何?舐めてんの?」
「車で来ちゃったんだもん。しょうがないでしょ」

レイコには、付き合って12年の腐れ縁彼氏がいる。
同級生のタカシくんだ。高3で付き合い始めて今に至る。
干支が一周してもまだ同じ男って、そっちの方がよっぽど異常だよ。

「今度の彼はイケメンだよ。学生の時、モデルのバイトしてたんだって」
「えー、なんかチャラそう。あのさ、あんたが恋に本気になれないのは、最初の恋が忘れられないんじゃないの? ほら、大学のとき、初めて彼氏に会わせてくれたじゃない」
「はあ? あんなのとっくに記憶から抹消されてるよ。データ上書きし過ぎて顔も思い出せない」
「ふうん」
「今の彼とは結構いい感じなんだ。趣味も合うし、もしかしたらレイコより先に結婚しちゃうかも」
「ああ、それはないわ。私たち、入籍したから」

「えっ、入籍? い、いつ?」
「おととい。ほら、私来月30歳の誕生日だから、20代のうちに籍入れようか、みたいな話になって、じゃあ今日行く? 大安だしってことになって入籍したの」
「なんじゃ、それ。軽すぎ。結婚式は? 披露宴は?」
「このご時世だし、そういうのはいいかな。ほら、12年も一緒にいると、もう家族みたいなものなのよ。お互いの親も公認だしね。あとはタイミングだけだったからね」

なにそれ、なにそれ。なぜ事後報告? 親友なのに。
ちょっとコンビニ行くみたいに入籍したって? なにそれ。

「来月新居に引っ越すからさ、そしたら遊びに来てね。くれぐれも手ぶらで来るなよ」
笑うところなのに、動揺してうまく返せない。
レイコと別れて家に帰っても、気持ちの整理がなかなかつかない。
式も披露宴もやらないなんて。
私、レイコの披露宴でスピーチやるって決めてたのに。
だって、二人をいちばん近くで見て来た親友だもん。

そのとき、Dから電話が来た。
「もしもし、あのさ、次のデート、キャンセルでいい? やっぱ俺ら、ちょっと違うかも」
「えっ、なんで?」
「だってさ、君、俺のこと好きじゃないでしょ。他にいるよね、好きな奴。そういうのってわかるからさ、気を付けた方がいいよ。次の恋をするときはね」

Dとの恋が終わった。何だよ、偉そうに。
だけど、本当のことだ。

高3の春、初めて本気で恋したタカシをレイコに取られた。
忘れるためにつき合った大学生も、その後の人も、本気で好きになれなかった。
タカシをまだ好きなわけじゃない。
ふたりの結婚も心から望んでいた。
ふたりが結婚すれば吹っ切れるって、勝手に思っていた。
結婚式のスピーチで「昔、新郎のタカシさんに恋してました」って、笑い話みたいに告白して、ピリオドって思っていた。
それなのに、ATMでお金降ろすみたいなテンションで入籍って……。
ああ、もう、消化不良。お祝いに、離婚届の紙を持って行ってやる。

翌日、レイコからスマホに写真が送られてきた。
なに、この黒い写真? 嫌がらせ?
『私の赤ちゃん。お腹の中にいる、小さな命』
えっ、これ、赤ちゃんなの?
『12年も付き合って、出来ちゃった結婚って、恥ずかしくて言えなかった。ごめん』
なんだ。そういうことか。早く言えよ。
『おめでとう』って返しながら、私泣いてた。
最高のピリオドだよ。
次は私、ちゃんと本気で恋するから。いつかママ友になろうぜ、レイコ。

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