エンジェル [競作]
ークリスマスの夜に、天使が舞い降りてきたー
何もないイヴだった。
バイト先からもらってきたケーキだけが、ポツンとテーブルの上に載っていた。
ホールのケーキを丸ごと食べるなんて、子供の頃は憧れたけど、今となっては虚しいだけだ。
窓辺に置いてあるオルゴールを手に取る。
たしか、小学校のときに女の子からもらった。
考えてみれば、あの頃が最大のモテ期だったかもしれない。
オルゴールをゆっくり回すと、やけに寂しい音を奏でた。
その時、窓の外に白いものが舞い降りるのが見えた。
ふわふわの長い髪、白いドレス、まるで天使のようだった。
彼女は僕と目が合うと、すがるように「開けて」と言った。
冷たい空気と共に舞い込んできた彼女は、氷のように冷え切っていた。
ストーブに手をかざすと、少し落ち着いた様子で「あったかい」と言った。
赤く燃える横顔が、とてもきれいだった。
「ねえ、それ何?オルゴール?」
「あ、ああ…古いけどね。ここを回すと音が出るよ」
「ふーん」と彼女は白い指でつまみを回した。
「あ、この曲知ってる。何だっけ?」
「“翼を下さい”だよ」
「ああ、そうだわ。翼を下さい…。いいわね。翼か…私も翼が欲しいわ。翼があれば飛べるのにね」
彼女はそう言って、夜空を見上げた。
―翼を失くした天使―
きっと飛べなくなって、僕の部屋に来たんだろう。
「ねえ、ケーキ、食べないの?」
「うん、ケーキ屋でバイトしててさ、実は見るのもウンザリなんだ」
「そう、じゃあ私が食べてあげようか。あ、そうだ!パーティしようよ。ワインとかビールとかガンガン飲んで騒ぐの。近所に聞こえるくらいにね」
「あ…お酒は…」
「ないの?」
「うん。あ、じゃあ買ってくるよ。コンビニすぐそこなんだ」
僕は上着を羽織って外へ出た。
彼女のためだと思えば、ちっとも寒くなかった。
コンビニでワインとチキンとサラダを買った。顔がゆるんでいるのが自分でもわかる。
部屋で待っている人がいる。そう思うと、帰りの足取りも軽くスキップしたい気分だった。
勢いよくドアを開けた。
「ただい…ま…」
彼女はいなかった。
テーブルの上に、オルゴールとケーキ。
ケーキのイチゴが3つなくなっていた。オルゴールが、忘れた頃に間抜けな音でピンッと鳴った。
イチゴが好きな天使は、翼をもらって飛んでいってしまった。
僕はその時、本当にそう思ったんだ。
***
数日後、賑わう街中で彼女を見た。
僕の天使は、男を腕を組んで歩いていた。
見覚えがある。あの男は、同じアパートの、僕の真上の住人だ。
確か、単身赴任の中年男。
なんだ、そういうことか…
彼女はあの男と不倫している。ふたりでイヴを過ごしていたら、突然奥さんが訪ねてきて、彼女はベランダに追い出された。
そして寒さに耐え切れず、手摺りを伝って僕の部屋のベランダに舞い降りた。
そんなところだろう。
まったく…。何が天使だ。
彼女の背中には、翼のかけらも見えなかった。
このお話は、矢菱虎犇さんからのお誘いを受けて書きました。
クリスマス競作企画です。
ちょっとしたお約束があって、クリスマスにちなんだ話であること・他のブロガーさんの話に出てくる登場人物やアイテムを話に入れること。
すごく楽しいですね♪
皆さん、力作ぞろいです。
宝箱のようなお話は、こちらからどうぞ。
http://blog.goo.ne.jp/kyosaku1224
ちなみに私がコラボしたのは、矢菱虎犇さんの『ホーリーナイト』とヴァッキーノさんの『プレゼント』です。
どんなお話かな~。
気になる方はチェックして!!
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何もないイヴだった。
バイト先からもらってきたケーキだけが、ポツンとテーブルの上に載っていた。
ホールのケーキを丸ごと食べるなんて、子供の頃は憧れたけど、今となっては虚しいだけだ。
窓辺に置いてあるオルゴールを手に取る。
たしか、小学校のときに女の子からもらった。
考えてみれば、あの頃が最大のモテ期だったかもしれない。
オルゴールをゆっくり回すと、やけに寂しい音を奏でた。
その時、窓の外に白いものが舞い降りるのが見えた。
ふわふわの長い髪、白いドレス、まるで天使のようだった。
彼女は僕と目が合うと、すがるように「開けて」と言った。
冷たい空気と共に舞い込んできた彼女は、氷のように冷え切っていた。
ストーブに手をかざすと、少し落ち着いた様子で「あったかい」と言った。
赤く燃える横顔が、とてもきれいだった。
「ねえ、それ何?オルゴール?」
「あ、ああ…古いけどね。ここを回すと音が出るよ」
「ふーん」と彼女は白い指でつまみを回した。
「あ、この曲知ってる。何だっけ?」
「“翼を下さい”だよ」
「ああ、そうだわ。翼を下さい…。いいわね。翼か…私も翼が欲しいわ。翼があれば飛べるのにね」
彼女はそう言って、夜空を見上げた。
―翼を失くした天使―
きっと飛べなくなって、僕の部屋に来たんだろう。
「ねえ、ケーキ、食べないの?」
「うん、ケーキ屋でバイトしててさ、実は見るのもウンザリなんだ」
「そう、じゃあ私が食べてあげようか。あ、そうだ!パーティしようよ。ワインとかビールとかガンガン飲んで騒ぐの。近所に聞こえるくらいにね」
「あ…お酒は…」
「ないの?」
「うん。あ、じゃあ買ってくるよ。コンビニすぐそこなんだ」
僕は上着を羽織って外へ出た。
彼女のためだと思えば、ちっとも寒くなかった。
コンビニでワインとチキンとサラダを買った。顔がゆるんでいるのが自分でもわかる。
部屋で待っている人がいる。そう思うと、帰りの足取りも軽くスキップしたい気分だった。
勢いよくドアを開けた。
「ただい…ま…」
彼女はいなかった。
テーブルの上に、オルゴールとケーキ。
ケーキのイチゴが3つなくなっていた。オルゴールが、忘れた頃に間抜けな音でピンッと鳴った。
イチゴが好きな天使は、翼をもらって飛んでいってしまった。
僕はその時、本当にそう思ったんだ。
***
数日後、賑わう街中で彼女を見た。
僕の天使は、男を腕を組んで歩いていた。
見覚えがある。あの男は、同じアパートの、僕の真上の住人だ。
確か、単身赴任の中年男。
なんだ、そういうことか…
彼女はあの男と不倫している。ふたりでイヴを過ごしていたら、突然奥さんが訪ねてきて、彼女はベランダに追い出された。
そして寒さに耐え切れず、手摺りを伝って僕の部屋のベランダに舞い降りた。
そんなところだろう。
まったく…。何が天使だ。
彼女の背中には、翼のかけらも見えなかった。
このお話は、矢菱虎犇さんからのお誘いを受けて書きました。
クリスマス競作企画です。
ちょっとしたお約束があって、クリスマスにちなんだ話であること・他のブロガーさんの話に出てくる登場人物やアイテムを話に入れること。
すごく楽しいですね♪
皆さん、力作ぞろいです。
宝箱のようなお話は、こちらからどうぞ。
http://blog.goo.ne.jp/kyosaku1224
ちなみに私がコラボしたのは、矢菱虎犇さんの『ホーリーナイト』とヴァッキーノさんの『プレゼント』です。
どんなお話かな~。
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薔薇の蕾に乾杯 [競作]
―え?母親の顔?そんなの全然憶えてないよ。
憶えていることといえば、胸元に真っ赤な薔薇の刺青があったことくらいだね。
あれは見事な刺青だったよ。
逢いたいかって?まさか!
あの女はあたしを捨てたんだよ。
そのおかげで、あたしがどれだけ苦労したか。
飲んだくれの父親の顔色うかがってさ、いつ殴られるかビクビクしながら暮らしてたんだ。
あんたに想像できるかい?
どれだけ金を積まれたって、あの女には逢いたくないね。―
女は、いかにも不味そうに煙草を吸って、苦い顔で煙を吐いた。
間違いない。私が探しているのはこの女だ。
私は探偵だ。
依頼人は、余命わずかな老婦人。昔捨てた娘を探してくれと言った。
痩せ細った胸元からは、真っ赤な薔薇の刺青が覗いていた。
たどりついたのは、町外れのスナック。
女はここの経営者だった。
賑やかな団体客が帰ると、店の客は私だけになった。
「本当に逢いたくないんですか?」
「しつこいね。逢いたくないって言ってるだろう」
女はガチャガチャと音を立ててグラスを片付けた。
「お母さんは逢いたがっていますよ」
「うるさいね。それ以上言ったら出て行ってもらうよ」
女はカウンターの中でくるりと背を向けた。
「お母さんの命が、あと僅かでも逢いたくないですか?」
女の肩が小刻みに震えた。
「逢いたくないよ…」
「じゃあ、お聞きしますが、この店の名前は何故「ローズ」なんですか?
カウンターの花は、何故いつも赤い薔薇なのですか?
コースターは、何故どれも薔薇の形をしているのですか?」
「そんなの偶然だよ。母親とは関係ない」
「じゃあ、さっきからチラリと見える、あなたの胸元の刺青は、何故 赤い薔薇の蕾なのですか?」
女は慌ててショールで胸元を隠した。
表情が歪んだ。うつむいた女の顔は、驚くほど老婦人に似ていた。
私がもう一度「逢ってくれますね」と聞くと、女はようやくコクリと頷いた。
やれやれ…
私はすっかり薄くなった水割りを飲み干した。
スナックローズを出ると、秋の風が心地よく吹き抜けた。
「しまった!領収証をもらい忘れた」
私は頭を掻きながら、駅への道を急いだ。
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***
ヴァッキーノさんからの指令を受けて書きました(笑)
あまりハードボイルドじゃなかったけど、これでよかったかしら?
楽しいお誘い、ありがとうございました
憶えていることといえば、胸元に真っ赤な薔薇の刺青があったことくらいだね。
あれは見事な刺青だったよ。
逢いたいかって?まさか!
あの女はあたしを捨てたんだよ。
そのおかげで、あたしがどれだけ苦労したか。
飲んだくれの父親の顔色うかがってさ、いつ殴られるかビクビクしながら暮らしてたんだ。
あんたに想像できるかい?
どれだけ金を積まれたって、あの女には逢いたくないね。―
女は、いかにも不味そうに煙草を吸って、苦い顔で煙を吐いた。
間違いない。私が探しているのはこの女だ。
私は探偵だ。
依頼人は、余命わずかな老婦人。昔捨てた娘を探してくれと言った。
痩せ細った胸元からは、真っ赤な薔薇の刺青が覗いていた。
たどりついたのは、町外れのスナック。
女はここの経営者だった。
賑やかな団体客が帰ると、店の客は私だけになった。
「本当に逢いたくないんですか?」
「しつこいね。逢いたくないって言ってるだろう」
女はガチャガチャと音を立ててグラスを片付けた。
「お母さんは逢いたがっていますよ」
「うるさいね。それ以上言ったら出て行ってもらうよ」
女はカウンターの中でくるりと背を向けた。
「お母さんの命が、あと僅かでも逢いたくないですか?」
女の肩が小刻みに震えた。
「逢いたくないよ…」
「じゃあ、お聞きしますが、この店の名前は何故「ローズ」なんですか?
カウンターの花は、何故いつも赤い薔薇なのですか?
コースターは、何故どれも薔薇の形をしているのですか?」
「そんなの偶然だよ。母親とは関係ない」
「じゃあ、さっきからチラリと見える、あなたの胸元の刺青は、何故 赤い薔薇の蕾なのですか?」
女は慌ててショールで胸元を隠した。
表情が歪んだ。うつむいた女の顔は、驚くほど老婦人に似ていた。
私がもう一度「逢ってくれますね」と聞くと、女はようやくコクリと頷いた。
やれやれ…
私はすっかり薄くなった水割りを飲み干した。
スナックローズを出ると、秋の風が心地よく吹き抜けた。
「しまった!領収証をもらい忘れた」
私は頭を掻きながら、駅への道を急いだ。
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***
ヴァッキーノさんからの指令を受けて書きました(笑)
あまりハードボイルドじゃなかったけど、これでよかったかしら?
楽しいお誘い、ありがとうございました
肝試し(怪談) [競作]
夏祭りが近付くと、わたしは嫌でもあの日を思い出す。
足元にまとわりつく生温かい風と、冷たい墓石の感触を忘れたことはなかった。
小学5年の夏休み。
夏祭りの日だけは、子供だけで夜まで遊べる。
わたしたち近所の6人組は、祭りが終わる時間まで遊び、テンションが高いまま夜道を歩いていた。
「肝試しをやろうよ」
と誰かが言い出した。
2人1組になって、お墓を一周しようというのだ。
「いちばん奥の墓石を触って帰ってくるんだ」
怖がりのわたしは反対したけれど、他の子はみんな乗り気で結局押し切られてしまった。
わたしは、いちばん小さな3年生のショウタと組むことになった。
最初に行った2人が、奇声を上げながら帰ってきて、次のふたりも「全然平気さ」と言いながら帰ってきた。
そして、わたしたちの番。
ショウタは、「怖いよ~」と言いながら、ずっとわたしのTシャツの裾を摑んでいた。
「大丈夫だよ。幽霊なんていないから」
とわたしは無理して強がり、先へ進んだ。
お墓の中央まで来て、私とショウタはいちばん奥の墓石に触れた。
冷たい感触が手のひらに残った。
あとは引き返すだけだった。
ところが歩いても歩いても、出口がなかった。
ショウタは「おねえちゃん、怖いよ」と繰り返し、さらに強くわたしのTシャツの裾を摑んだ。
生温かい風が足元を吹きぬけ、カラスが不気味な声で鳴いた。
「おねえちゃん、今 あのお墓が動いたよ」
ショウタが古い墓石を指さした。
「ショウタ、変なこと言わないで」
「本当だもん。動いたもん。ゾンビだ、ゾンビが出てくるんだ」
「やめてよ!」
わたしは思わずショウタの手を振りほどいた。
ショウタは「わーっ」と叫びながら、ひとりで暗闇を走って行ってしまった。
「ショウタ、待ってよ!」
置いていかないで…今までの強がっていた気持ちが一気に崩れた。
わたしは泣きながら無我夢中で走り、ようやく出口にたどりついた。
「遅かったな」
「大丈夫か?」
泣きじゃくるわたしに、みんなが次々声をかけた。
そして後ろからショウタがおずおずと顔を出し
「そんなに怖かったの?」と聞いた。
「怖いに決まってるじゃん!
あんたが変なこと言い出して、おまけにひとりで先に行っちゃうなんてひどいよ。
ばかショウタ!」
わたしは泣きながらショウタの肩を叩いた。
ショウタはキョトンとして言った。
「ぼく行ってないよ」
「え?」
「ショウタは間際になって、やっぱり怖いからやめるって、肝試しには行かなかったんだよ」
「そうだよ。お前はひとりで行ったんだよ」
「女なのに度胸があるなって、みんなで言ってたんだ」
ウソを言ってるようには見えなかった。
背筋がゾクッとした。
わたしといっしょに歩いていたのは、いったい誰だったの?
わたしのTシャツには、小さな手が握りしめた跡が、はっきり残っていた。
あの時、手をふりほどかなければ、わたしは永遠に墓場から出られなかったかもしれない。
******
舞さんからお題を頂いた競作です。
今回のテーマは怪談。
ヴァッキーノさん、矢菱虎犇さんも参加されています。
今から肝試しを計画しているあなた、この話を思い出せば涼が増すと思いますよ。
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足元にまとわりつく生温かい風と、冷たい墓石の感触を忘れたことはなかった。
小学5年の夏休み。
夏祭りの日だけは、子供だけで夜まで遊べる。
わたしたち近所の6人組は、祭りが終わる時間まで遊び、テンションが高いまま夜道を歩いていた。
「肝試しをやろうよ」
と誰かが言い出した。
2人1組になって、お墓を一周しようというのだ。
「いちばん奥の墓石を触って帰ってくるんだ」
怖がりのわたしは反対したけれど、他の子はみんな乗り気で結局押し切られてしまった。
わたしは、いちばん小さな3年生のショウタと組むことになった。
最初に行った2人が、奇声を上げながら帰ってきて、次のふたりも「全然平気さ」と言いながら帰ってきた。
そして、わたしたちの番。
ショウタは、「怖いよ~」と言いながら、ずっとわたしのTシャツの裾を摑んでいた。
「大丈夫だよ。幽霊なんていないから」
とわたしは無理して強がり、先へ進んだ。
お墓の中央まで来て、私とショウタはいちばん奥の墓石に触れた。
冷たい感触が手のひらに残った。
あとは引き返すだけだった。
ところが歩いても歩いても、出口がなかった。
ショウタは「おねえちゃん、怖いよ」と繰り返し、さらに強くわたしのTシャツの裾を摑んだ。
生温かい風が足元を吹きぬけ、カラスが不気味な声で鳴いた。
「おねえちゃん、今 あのお墓が動いたよ」
ショウタが古い墓石を指さした。
「ショウタ、変なこと言わないで」
「本当だもん。動いたもん。ゾンビだ、ゾンビが出てくるんだ」
「やめてよ!」
わたしは思わずショウタの手を振りほどいた。
ショウタは「わーっ」と叫びながら、ひとりで暗闇を走って行ってしまった。
「ショウタ、待ってよ!」
置いていかないで…今までの強がっていた気持ちが一気に崩れた。
わたしは泣きながら無我夢中で走り、ようやく出口にたどりついた。
「遅かったな」
「大丈夫か?」
泣きじゃくるわたしに、みんなが次々声をかけた。
そして後ろからショウタがおずおずと顔を出し
「そんなに怖かったの?」と聞いた。
「怖いに決まってるじゃん!
あんたが変なこと言い出して、おまけにひとりで先に行っちゃうなんてひどいよ。
ばかショウタ!」
わたしは泣きながらショウタの肩を叩いた。
ショウタはキョトンとして言った。
「ぼく行ってないよ」
「え?」
「ショウタは間際になって、やっぱり怖いからやめるって、肝試しには行かなかったんだよ」
「そうだよ。お前はひとりで行ったんだよ」
「女なのに度胸があるなって、みんなで言ってたんだ」
ウソを言ってるようには見えなかった。
背筋がゾクッとした。
わたしといっしょに歩いていたのは、いったい誰だったの?
わたしのTシャツには、小さな手が握りしめた跡が、はっきり残っていた。
あの時、手をふりほどかなければ、わたしは永遠に墓場から出られなかったかもしれない。
******
舞さんからお題を頂いた競作です。
今回のテーマは怪談。
ヴァッキーノさん、矢菱虎犇さんも参加されています。
今から肝試しを計画しているあなた、この話を思い出せば涼が増すと思いますよ。
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穴(サラリーマンの憂鬱) [競作]
その穴は、日に日に大きくなった。
そしてついに、家の前の道路いっぱいに広がった。
「家の前に大きな穴があいていて、仕事に行けません」
「何をふざけたこと言ってるんだ。今日は大事な会議だぞ」
そんなこと言っても、行けないんだから仕方ない。
そうだ、写真を撮って送れば、上司も納得するだろう。
そう思ってシャッターを切ってみたけれど、いくら撮ってもカメラに穴は写らなかった。
幻を見ているのか? しかし、確かに穴はある。
行けないものは仕方ない。
私はじっくり時間をかけてコーヒーを淹れた。
ゆったりとした時間が流れた。
オーディオのスイッチを入れると、懐かしいジャズが部屋を包んだ。
ソファーに体を沈めて目を閉じた。様々な想いがよみがえる。
今は亡き両親を思った。
大した親孝行もできなかったな。
離婚した妻を思った。
仕事ばかりで忙しく、淋しい思いをさせたな。
疎遠になった友人を思った。
忙しいといつも断っているうちに、まるで誘いがなくなってしまったな。
何だか、後悔ばかりの人生だ。
あの穴は、私の心にあいた穴なのかもしれない。
「それは違うよ」
不意に背後で声がした。
見知らぬ男が、窓の外に立っていた。男は、穴の淵ギリギリのところに立ち、手招きをしていた。
「あなたと私は同志です。いっしょに世界を征服しましょう」
「はっ?何ですか、あなたは」
「あの穴は、秘密組織のアジトにつながっています。さあ、いっしょに行きましょう」
「何を言ってるんですか?バカバカしい」
「信じられませんか?それでは自分の手を見てください。
十字の痣があるでしょう。ほら、私といっしょです。これこそ、秘密組織のマークです」
見ると、いつの間にか十字の痣が、私の手にあった。
世界制服…そういえば、そんな事を夢見ていた気もする。
私は窓をこじ開け、穴に向かって飛ぼうとした。
すると、たちまち数人の男に取り押さえられ、訳のわからない薬を飲まされた。
気が付くと、殺風景な部屋に転がっていた。
窓には鉄格子。ここはいったいどこだ?
「ここは精神病院ですよ」
さっきの男が鉄格子から覗いていた。
「手に刻まれた十字の刻印が、患者の証拠です。
なに、あとひと月もすれば、うすくなって消えますよ。その刻印が消えたら、退院です。
退院したら、また社会という組織に身をゆだねることになります。
あなたにとって、どちらがいいのか、ここでゆっくり考えると良いでしょう。
そしてまた嫌になったらいつでも言って下さい。大きな穴をご用意しますよ」
男は、不気味な笑いを残して消えた。
まるで死神のような顔をしていた。
窓の外に、もう穴はなかった。
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ヴァッキーノさんからお題を頂いた「穴」です。
楽しい競作が増えたので、カテゴリーも「競作」にしました。
楽しい企画に参加できて嬉しいです(^0^)v
そしてついに、家の前の道路いっぱいに広がった。
「家の前に大きな穴があいていて、仕事に行けません」
「何をふざけたこと言ってるんだ。今日は大事な会議だぞ」
そんなこと言っても、行けないんだから仕方ない。
そうだ、写真を撮って送れば、上司も納得するだろう。
そう思ってシャッターを切ってみたけれど、いくら撮ってもカメラに穴は写らなかった。
幻を見ているのか? しかし、確かに穴はある。
行けないものは仕方ない。
私はじっくり時間をかけてコーヒーを淹れた。
ゆったりとした時間が流れた。
オーディオのスイッチを入れると、懐かしいジャズが部屋を包んだ。
ソファーに体を沈めて目を閉じた。様々な想いがよみがえる。
今は亡き両親を思った。
大した親孝行もできなかったな。
離婚した妻を思った。
仕事ばかりで忙しく、淋しい思いをさせたな。
疎遠になった友人を思った。
忙しいといつも断っているうちに、まるで誘いがなくなってしまったな。
何だか、後悔ばかりの人生だ。
あの穴は、私の心にあいた穴なのかもしれない。
「それは違うよ」
不意に背後で声がした。
見知らぬ男が、窓の外に立っていた。男は、穴の淵ギリギリのところに立ち、手招きをしていた。
「あなたと私は同志です。いっしょに世界を征服しましょう」
「はっ?何ですか、あなたは」
「あの穴は、秘密組織のアジトにつながっています。さあ、いっしょに行きましょう」
「何を言ってるんですか?バカバカしい」
「信じられませんか?それでは自分の手を見てください。
十字の痣があるでしょう。ほら、私といっしょです。これこそ、秘密組織のマークです」
見ると、いつの間にか十字の痣が、私の手にあった。
世界制服…そういえば、そんな事を夢見ていた気もする。
私は窓をこじ開け、穴に向かって飛ぼうとした。
すると、たちまち数人の男に取り押さえられ、訳のわからない薬を飲まされた。
気が付くと、殺風景な部屋に転がっていた。
窓には鉄格子。ここはいったいどこだ?
「ここは精神病院ですよ」
さっきの男が鉄格子から覗いていた。
「手に刻まれた十字の刻印が、患者の証拠です。
なに、あとひと月もすれば、うすくなって消えますよ。その刻印が消えたら、退院です。
退院したら、また社会という組織に身をゆだねることになります。
あなたにとって、どちらがいいのか、ここでゆっくり考えると良いでしょう。
そしてまた嫌になったらいつでも言って下さい。大きな穴をご用意しますよ」
男は、不気味な笑いを残して消えた。
まるで死神のような顔をしていた。
窓の外に、もう穴はなかった。
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ヴァッキーノさんからお題を頂いた「穴」です。
楽しい競作が増えたので、カテゴリーも「競作」にしました。
楽しい企画に参加できて嬉しいです(^0^)v
永遠の同級生 [競作]
タクヤさん、マキさん、本日はおめでとうございます。
堅苦しいスピーチは苦手なので、いつもの通り「タクヤ」「マキちゃん」と呼ばせていただきます。
マキちゃんは、私の職場の後輩です。
つまり私は、後輩に先を越されたあわれな先輩、というわけです。(笑い)
タクヤとは、中学・高校と同じクラスの同級生です。
もう、くされ縁です。
タクヤのことは何だって知っています。
計算には強いけど、漢字にはめっぽう弱いこと。
好きになるアイドルは、全部巨乳だってこと。
ゲームで徹夜した朝は、声が枯れて不機嫌になること。
先生の名前は覚えないくせに、コンビニの新商品はすぐに覚えること。
同級生ですから、マキちゃんが知らないことも知っているんです。
弱みも握っているから、あとでこっそり教えてあげる。(笑い)
ところで先ほど司会の方が、私がふたりを結びつけたキューピットだと言いましたが、それは違います。
たまたま私の会社に来たタクヤに、マキちゃんが一目ぼれしたのです。
マキちゃんは、ぼーっとしているようだけど、けっこうなやり手なんですよ。
狙った獲物は逃がさない、女豹みたいなところがあるんですよ。
その証拠に、こうして結婚までこぎつけたわけですから。
それに、ご存知の方もいるかもしれませんが、マキちゃんは妊娠中です。
来年早々に、お母さんになります。
順番が違うなんて、堅いこと言わないでください。おめでたいことなんですから。
ついでに白状すると、私のお腹にも、小さな命が宿っています。
結婚していないのにふしだら、などと言わないで下さい。
私はどうしても子供が欲しかったのです。
マキちゃんと同じ時期に妊娠すれば、私の子供とマキちゃんの子供は同級生です。
同級生はいいです。
だって一生、いいえ永遠に同級生です。ある意味、夫婦よりも絆が強いかもしれません。
マキちゃんの子と私の子が、ふたりとも女の子なら、親友になるかもしてません。
マキちゃんの子が男の子で、私の子が女の子なら、恋人になるかもしれません。
結婚するかも?
いいえ、それはありません。結婚は不可能です。
だって、マキちゃんの子供と私の子供の父親は、同じ人ですから。
あ…それじゃあ、同級生じゃなくて異母兄弟ですね。
とにかく、おふたりとは長い付き合いになりそうです。
マキちゃん、タクヤ、どうか末永くお幸せに。
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舞さん、iaさん、ヴァッキーノさん、矢菱虎犇さん が競作している『同窓会』シリーズ。
第2弾を書いてみました。
こんな話でごめんなさい
一度書いてみたかったんです。どろどろ系…
堅苦しいスピーチは苦手なので、いつもの通り「タクヤ」「マキちゃん」と呼ばせていただきます。
マキちゃんは、私の職場の後輩です。
つまり私は、後輩に先を越されたあわれな先輩、というわけです。(笑い)
タクヤとは、中学・高校と同じクラスの同級生です。
もう、くされ縁です。
タクヤのことは何だって知っています。
計算には強いけど、漢字にはめっぽう弱いこと。
好きになるアイドルは、全部巨乳だってこと。
ゲームで徹夜した朝は、声が枯れて不機嫌になること。
先生の名前は覚えないくせに、コンビニの新商品はすぐに覚えること。
同級生ですから、マキちゃんが知らないことも知っているんです。
弱みも握っているから、あとでこっそり教えてあげる。(笑い)
ところで先ほど司会の方が、私がふたりを結びつけたキューピットだと言いましたが、それは違います。
たまたま私の会社に来たタクヤに、マキちゃんが一目ぼれしたのです。
マキちゃんは、ぼーっとしているようだけど、けっこうなやり手なんですよ。
狙った獲物は逃がさない、女豹みたいなところがあるんですよ。
その証拠に、こうして結婚までこぎつけたわけですから。
それに、ご存知の方もいるかもしれませんが、マキちゃんは妊娠中です。
来年早々に、お母さんになります。
順番が違うなんて、堅いこと言わないでください。おめでたいことなんですから。
ついでに白状すると、私のお腹にも、小さな命が宿っています。
結婚していないのにふしだら、などと言わないで下さい。
私はどうしても子供が欲しかったのです。
マキちゃんと同じ時期に妊娠すれば、私の子供とマキちゃんの子供は同級生です。
同級生はいいです。
だって一生、いいえ永遠に同級生です。ある意味、夫婦よりも絆が強いかもしれません。
マキちゃんの子と私の子が、ふたりとも女の子なら、親友になるかもしてません。
マキちゃんの子が男の子で、私の子が女の子なら、恋人になるかもしれません。
結婚するかも?
いいえ、それはありません。結婚は不可能です。
だって、マキちゃんの子供と私の子供の父親は、同じ人ですから。
あ…それじゃあ、同級生じゃなくて異母兄弟ですね。
とにかく、おふたりとは長い付き合いになりそうです。
マキちゃん、タクヤ、どうか末永くお幸せに。
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舞さん、iaさん、ヴァッキーノさん、矢菱虎犇さん が競作している『同窓会』シリーズ。
第2弾を書いてみました。
こんな話でごめんなさい
一度書いてみたかったんです。どろどろ系…
ヨーコちゃん…(同窓会) [競作]
舞さんからお題を頂きました。今回は「同窓会」「同級生」「クラスメート」がテーマです。
また楽しい競作に参加できて嬉しいです。
私は「同窓会」で、こんな話を書いてみました。感想などいただけたら嬉しいです。
同窓会を数日後に控えたある日、友人から電話がきた。
「お前同窓会行くんだろう。楽しみだよな。何といっても今年はヨーコちゃんが参加するから」
「ヨーコちゃん?だれだっけ?」
「またまた~、何とぼけてるんだよ。われらがマドンナ・ヨーコちゃんだよ。
知的で美人のヨーコちゃんだよ。お前も夢中だっただろ」
ヨーコちゃん…まるで思い出せなかったが、適当に相槌を打って電話を切った。
しばらくして、別の友人からメールが来た。
“同窓会行くだろう。楽しみだな。ヨーコちゃんが来るらしいから。
ヨーコちゃん、今も独身で相変わらず美しいらしいぞ。
中学時代に結んだ『抜け駆け禁止条例』 まだ有効だからな(笑)“
またヨーコちゃんか…さっぱり思い出せないけど、適当に返事を打って送った。
夜、恋人と会った。彼女とは秋に結婚することになっている。
「ねえ、もうすぐ同窓会でしょう?
結婚前の最後のアバンチュールとか言って、はめを外したら許さないわよ。
たとえ相手が、憧れのヨーコちゃんでもね」
またヨーコちゃんか。しかも何故彼女がヨーコちゃんを知っているんだろう。
年齢も、出身校も違うのに。
僕はさすがに気になって卒業アルバムを開いた。
ようこという名の女生徒は3名いたが、どれもマドンナと呼ぶには程遠い。
ヨーコちゃん…いったいどんな人だろう。
僕の頭は、ヨーコちゃんで一杯になった。
**
同窓会当日、仕事でトラブルがあり残業になってしまった。
僕は友人に電話をして、少し遅れると言った。
「仕事なら仕方ないけど、なるべく早く来いよ。ヨーコちゃんもお前に会いたがっているぞ」
ヨーコちゃん…その名前を聞くと、俄然やる気が湧いた。
急いで仕事を終わらせ、タクシーに飛び乗った。
「〇〇ホテルまでお願いします」
「お客さん、同窓会でしょう。ヨーコちゃんが待ってるんでしょう。
ちょっと飛ばして行きましょうね」
何故だ?運転手までヨーコちゃんを知っている。
地元で有名人なのか?
それにしてもスピードの出しすぎだ。
「運転手さん、そんなに飛ばさなくても…あ!危ない!!」
車はカーブを曲がりきれずガードレールを突き破り、海に落ちた。
水の中でもがきながら、僕は叫んだ。
「助けて…助けて!ヨーコちゃん!」
**
僕は、病院で目を覚ました。
恋人が、心配そうな顔で見ていた。
「あ、意識が戻ったわ」
「ここは?」
「事故にあったのよ。もう1ヶ月も昏睡状態だったのよ」
恋人は顔をくしゃくしゃにして泣いた。そして「先生を呼んでくる」と洟をすすって立ち上がった。
ベッドの横には、友人がふたり。「よかったな」と手を取り合っていた。
同窓会の日に、こんなことになったから、心配で来てくれたのだろうか。
「ごめんよ。こんなことになって同窓会に出られなかった」
僕が言うと、二人はきょとんと顔を見合わせた。
「おいおい、夢でも見たのか?同窓会なんて、ここ何年もやってないぞ」
「え?だって、ヨーコちゃんは…」
「ヨーコちゃん?誰だよ、それ」
しばらくして、恋人が医者を連れて戻ってきた。
若くて美しい女医だった。
「よかったですね。意識が戻れば大丈夫ですよ」
女医は優しく微笑んだ。
「この先生が、あなたを助けてくれたのよ」
美しい女医は、マドンナと呼ぶのにふさわしい。知的で美人だ。
僕は尋ねてみた。
「先生、下の名前はもしかして…」
「ヨーコですけど…」
やっぱり…
僕は心の中でつぶやいた。
ありがとう…ヨーコちゃん。
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また楽しい競作に参加できて嬉しいです。
私は「同窓会」で、こんな話を書いてみました。感想などいただけたら嬉しいです。
同窓会を数日後に控えたある日、友人から電話がきた。
「お前同窓会行くんだろう。楽しみだよな。何といっても今年はヨーコちゃんが参加するから」
「ヨーコちゃん?だれだっけ?」
「またまた~、何とぼけてるんだよ。われらがマドンナ・ヨーコちゃんだよ。
知的で美人のヨーコちゃんだよ。お前も夢中だっただろ」
ヨーコちゃん…まるで思い出せなかったが、適当に相槌を打って電話を切った。
しばらくして、別の友人からメールが来た。
“同窓会行くだろう。楽しみだな。ヨーコちゃんが来るらしいから。
ヨーコちゃん、今も独身で相変わらず美しいらしいぞ。
中学時代に結んだ『抜け駆け禁止条例』 まだ有効だからな(笑)“
またヨーコちゃんか…さっぱり思い出せないけど、適当に返事を打って送った。
夜、恋人と会った。彼女とは秋に結婚することになっている。
「ねえ、もうすぐ同窓会でしょう?
結婚前の最後のアバンチュールとか言って、はめを外したら許さないわよ。
たとえ相手が、憧れのヨーコちゃんでもね」
またヨーコちゃんか。しかも何故彼女がヨーコちゃんを知っているんだろう。
年齢も、出身校も違うのに。
僕はさすがに気になって卒業アルバムを開いた。
ようこという名の女生徒は3名いたが、どれもマドンナと呼ぶには程遠い。
ヨーコちゃん…いったいどんな人だろう。
僕の頭は、ヨーコちゃんで一杯になった。
**
同窓会当日、仕事でトラブルがあり残業になってしまった。
僕は友人に電話をして、少し遅れると言った。
「仕事なら仕方ないけど、なるべく早く来いよ。ヨーコちゃんもお前に会いたがっているぞ」
ヨーコちゃん…その名前を聞くと、俄然やる気が湧いた。
急いで仕事を終わらせ、タクシーに飛び乗った。
「〇〇ホテルまでお願いします」
「お客さん、同窓会でしょう。ヨーコちゃんが待ってるんでしょう。
ちょっと飛ばして行きましょうね」
何故だ?運転手までヨーコちゃんを知っている。
地元で有名人なのか?
それにしてもスピードの出しすぎだ。
「運転手さん、そんなに飛ばさなくても…あ!危ない!!」
車はカーブを曲がりきれずガードレールを突き破り、海に落ちた。
水の中でもがきながら、僕は叫んだ。
「助けて…助けて!ヨーコちゃん!」
**
僕は、病院で目を覚ました。
恋人が、心配そうな顔で見ていた。
「あ、意識が戻ったわ」
「ここは?」
「事故にあったのよ。もう1ヶ月も昏睡状態だったのよ」
恋人は顔をくしゃくしゃにして泣いた。そして「先生を呼んでくる」と洟をすすって立ち上がった。
ベッドの横には、友人がふたり。「よかったな」と手を取り合っていた。
同窓会の日に、こんなことになったから、心配で来てくれたのだろうか。
「ごめんよ。こんなことになって同窓会に出られなかった」
僕が言うと、二人はきょとんと顔を見合わせた。
「おいおい、夢でも見たのか?同窓会なんて、ここ何年もやってないぞ」
「え?だって、ヨーコちゃんは…」
「ヨーコちゃん?誰だよ、それ」
しばらくして、恋人が医者を連れて戻ってきた。
若くて美しい女医だった。
「よかったですね。意識が戻れば大丈夫ですよ」
女医は優しく微笑んだ。
「この先生が、あなたを助けてくれたのよ」
美しい女医は、マドンナと呼ぶのにふさわしい。知的で美人だ。
僕は尋ねてみた。
「先生、下の名前はもしかして…」
「ヨーコですけど…」
やっぱり…
僕は心の中でつぶやいた。
ありがとう…ヨーコちゃん。
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あの車を追って!(タイムスリップタクシー) [競作]
私は、タイムスリップタクシーの運転手。
過去へ未来へ自由自在。今日はどんな客が来るかな。出来ればとびきり美人の客を乗せたいものだ。
そんな事を思っていると、血相を変えた若い女が乗り込んできた。
「前の車を追ってちょうだい!」
「えっ?お客さん、刑事か何かですか?」
「いいから行って!見失っちゃうわ」
私は車を発進させた。
車を尾行するなんて初めてだ。スリル満点。
しかも若くて美人の刑事がいっしょだ。まさにサスペンスドラマのようだ。
前の車は、どうやら過去に行くらしい。
私は軌道を外れないよう注意しながら、あとを追った。
車は、3年前の小さなアパートの前で停まった。
中年の男が車を降りて、アパートを見上げた。
「あの男が犯人ですか?」
ワクワクしながら聞いたが、女はそれには答えず、険しい顔で車を降りた。
女は背後から男に近付くと、ハンドバックから銃を取り出し、あっという間に男を撃った。
男はスローモーションのように倒れた。
女は何もなかったように車に戻り
「早く出して!」と言った。
「お、お客さん… どういうことですか」
「いいから早く行って!」
女は銃を私に突きつけた。
「だ、誰にも言いませんから命だけは…」
「別にいいわよ、言っても。時空を超えた殺人は、立証が難しいから罪にならないのよ」
「そうなんですか。それで、あの男はいったい何者なんです?」
「あれは、婚約者の母親が雇った探偵よ。わたしの素行調査をしていたの。
過去にさかのぼって調査をしようとしたから、消えてもらったのよ」
「知られてはまずい過去があるんですね」
「大ありよ。あの探偵に、整形前の顔を見られたら、全て終わりよ」
「そういうことですか」
「さあ、早く行って。今日は彼とデートなの。いっしょに未来都市に行くのよ」
この女の未来は明るいのだろうか。
どうでもいいことだ。
私はスピードをあげて、再び時空を超えた。
タイムスリップタクシーは、矢菱虎犇さんや、ヴァッキーノさん、舞さん、iaさんなどが競作しているものです。
同じ題で、それぞれお話を考えます。
おもしろいですね。
今回初めて参加させていただきました。(勝手に参加しちゃったんだけどね)
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過去へ未来へ自由自在。今日はどんな客が来るかな。出来ればとびきり美人の客を乗せたいものだ。
そんな事を思っていると、血相を変えた若い女が乗り込んできた。
「前の車を追ってちょうだい!」
「えっ?お客さん、刑事か何かですか?」
「いいから行って!見失っちゃうわ」
私は車を発進させた。
車を尾行するなんて初めてだ。スリル満点。
しかも若くて美人の刑事がいっしょだ。まさにサスペンスドラマのようだ。
前の車は、どうやら過去に行くらしい。
私は軌道を外れないよう注意しながら、あとを追った。
車は、3年前の小さなアパートの前で停まった。
中年の男が車を降りて、アパートを見上げた。
「あの男が犯人ですか?」
ワクワクしながら聞いたが、女はそれには答えず、険しい顔で車を降りた。
女は背後から男に近付くと、ハンドバックから銃を取り出し、あっという間に男を撃った。
男はスローモーションのように倒れた。
女は何もなかったように車に戻り
「早く出して!」と言った。
「お、お客さん… どういうことですか」
「いいから早く行って!」
女は銃を私に突きつけた。
「だ、誰にも言いませんから命だけは…」
「別にいいわよ、言っても。時空を超えた殺人は、立証が難しいから罪にならないのよ」
「そうなんですか。それで、あの男はいったい何者なんです?」
「あれは、婚約者の母親が雇った探偵よ。わたしの素行調査をしていたの。
過去にさかのぼって調査をしようとしたから、消えてもらったのよ」
「知られてはまずい過去があるんですね」
「大ありよ。あの探偵に、整形前の顔を見られたら、全て終わりよ」
「そういうことですか」
「さあ、早く行って。今日は彼とデートなの。いっしょに未来都市に行くのよ」
この女の未来は明るいのだろうか。
どうでもいいことだ。
私はスピードをあげて、再び時空を超えた。
タイムスリップタクシーは、矢菱虎犇さんや、ヴァッキーノさん、舞さん、iaさんなどが競作しているものです。
同じ題で、それぞれお話を考えます。
おもしろいですね。
今回初めて参加させていただきました。(勝手に参加しちゃったんだけどね)
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