SSブログ

帽子じぞう [名作パロディー]

木枯らしが吹く帰り道、3年生のリカと、1年生のマミが並んで歩いています。
リカとマミは姉妹です。
「ねえ、お姉ちゃん。今日学校でね、笠地蔵の本を読んだよ」
「あー、あたしも読んだことあるよ。お地蔵さんに笠をかぶせて大金持ちになる話」
「マミもお地蔵さんに笠をかぶせてあげたいなって思った」
「笠なんて家にないよ。昔の笠は今の傘と違うんだから」
「そっか。じゃあ、帽子は?」
「あー、帽子ならいいね」
「帽子かぶせたら、お金くれるかな」
「そうだね。一万円くらいくれるかも」
「いちまんえん!!そんなにくれるの?」
「お地蔵さん、金持ちだからね」
「じゃあさ、帽子かぶせよう。ほら、バス停の横にお地蔵さんいるでしょ」
「ああ、いるね。よし、家に帰って帽子もってこよう」

リカとマミは、家に帰っておやつも食べずに帽子を探しました。
「あんたたち、何やってるの?」
「何でもないよ、ママ。それより、洗濯物が風で飛ばされそうだったよ」
「あら大変。取り込まなくちゃ」
ママがいなくなって、ふたりはホッとしました。
ママに話したら、一万円を取られてしまいます。

「お姉ちゃん、帽子あったよ」
「よし、じゃあ、ママが洗濯物を取り込んでるうちに出かけよう」
リカとマミは、バス停まで走りました。
昼間はバスの本数が少ないので、お地蔵さん以外誰もいません。

「お地蔵さん、あったかい帽子を持ってきたよ。かぶせてあげるね」
「お地蔵さん、似合うね」
「あたまは暖かくなったけど、首が寒そう」
「マフラーも持ってくれば良かったね」
「いいこと考えた」
リカは、枯れすすきを取ってきて、お地蔵さんの首に巻きました。
「わあ、あったかそう。よかったね、お地蔵さん」
「マフラーっていうより、ヒゲみたいだけどね」
「お姉ちゃん、これで一万円だね」
リカとマミはスキップしながら帰りました。

しかし寝る時間になっても、お地蔵さんはお礼に来ません。
「笠地蔵のお地蔵さんは、すぐ来たのにね」
「ATMが故障してたのかな?」
そのとき、パパが子ども部屋にやってきました。
「リカ、マミ、去年ドンキで買った、サンタクロースの帽子を知らないかな。会社の忘年会でかぶろうと思ったけど、どこにもないんだ」
リカとマミは顔を見合わせました。
「し、しらない……」
「そうか、失くしちゃったかな」

リカとマミがお地蔵さんにかぶせたのは、パパのサンタクロースの帽子でした。
「お姉ちゃん、明日、返してもらおうか」
「でもさ、一万円もらった方がよくない?一万円でサンタの帽子いっぱい買えるよ」
「そうか。お姉ちゃん、頭いい!」

翌日、お地蔵さんの前に、子どもたちの行列が出来ていました。
『ポケモンのゲームが欲しいです』
『スマホが欲しいです』
『プリキュアのコスチューム、ください』
子どもたちは手を合わせてクリスマスプレゼントをお願いしていました。

「お姉ちゃん、お地蔵さんが、サンタさんになっちゃったね」
「そうだね。あたしたちがかぶせた帽子と、すすきのヒゲのおかげで大人気だね」
「お仕事増えて忙しくて、お礼に来られなかったんだね」
「パパの忘年会より有意義かも」
「たくさんお願い事されてるけど、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。お地蔵さん、金持ちだから」
「ついでにクリスマスプレゼントもお願いしようかな」
「そうだね。一万円と一緒にクリスマスに届けてもらおう」

リカとマミの元に一万円が届くことは、もちろんありません。
だけどお地蔵さんは、ちょっぴり楽しそうでした。



nice!(14)  コメント(8) 

3年遅れの七五三

莉子は赤い着物がよく似合う。
艶のある真っすぐな髪をきれいに結って、まるでお人形さんみたいに可愛い。
七五三参りの日、ママは何度も私に謝った。
「亜美の時は、七五三のお祝いもしてあげられなかったね。ごめんね」
「別にいいよ。着物なんて着たくないし。莉子みたいにきれいな髪じゃないし」

私が七五三を迎えた3年前、パパが病気で長いこと入院していた。
ママは、病院と莉子の世話でそれどころじゃなかった。
そんなこと、ちゃんと分かっている。
パパはその後すっかり元気になって、仕事にも復帰した。
莉子は、ママが大変で家の中がどんより暗かった日のことは、何も憶えていない。
まだ3歳だったから、何も我慢することなく我儘ばかり言っていた。

「せめて写真だけでも撮れば良かったね」
「もういいよ、ママ。お参りしなくても、こんなに元気に育ってるよ」
「そうね。亜美は本当に手がかからない子ね。いつも我慢させてごめんね」
「だからいいってば」

秋晴れの日曜日、家族そろって神社に行った。
ママは私のために、白いワンピースを作ってくれた。
裾と袖にレースが付いててちょっと恥ずかしい。
だけど「絶対似合う」ってママが言うから着た。いつものジーンズでいいのに。
「おっ、ふたりとも可愛いな」
パパが言ったけど、可愛いのは莉子だけ。
私はおまけだし、似合わないワンピースだし、髪もくせ毛だし。
歩いていると、近所の人も莉子ばかり褒めた。
「七五三、おめでとう」
「なんて可愛いのかしら」
莉子はアイドルみたいに手を振っていた。

お参りを終えた後、パパが4人で写真を撮ろうと言った。
通りすがりの女の人にお願いしてカメラを渡して、4人で鳥居の前に並んだ。
女の人は、ニコニコしながら「はい、笑って」と、カメラを向けた。
私は一応笑って見せたけど、うまく笑えたかな。
まあいいや。主役は莉子だから。

「すごく可愛く撮れましたよ。まるでお人形さんみたい」
女の人はそう言って、私と莉子を交互に見た。
何だか比べられてるみたいで、目をそらした。

「本当に可愛いね。まるで日本人形とフランス人形だわ」
「フランス人形って私?」
「そうよ。ふわふわの髪に白いドレス、大きな目とピンクの頬。あなた、私が子どもの頃に持っていたフランス人形にそっくりよ」
「えー、いいな、お姉ちゃん。フランス人形だって」
莉子が口を尖らせた。私はポカンと口を開けてしまった。

「素敵なご家族の記念日に関われて、私、幸せです」
女の人はそう言って、パパにカメラを返した。
ママが泣きそうな顔で言った。
「亜美、莉子、ふたりとも本当に可愛い。ママは今が一番幸せ」
言いながら、本当に泣き出した。
「お祝いなのにおかしいよ、ママ」
そう言いながら、私も泣いた。何もわからない莉子がキョトンとしていた。

出来上がった写真をリビングに飾った。
やっぱりどう見てもフランス人形には見えない。
だけど、ふわふわのくせ毛と白いワンピースが少しだけ好きになった。
3年遅れの七五三。
私はこの日を忘れない。

nice!(16)  コメント(6) 

ハロウィンの生贄

マリアちゃんから、ハロウィンパーティに誘われた。
マリアちゃんの家は高台の大きな洋館で、パパがイギリス人でママが日本人。
だからハロウィンの仮装も本格的なんだって。

「ゆりあちゃんも、仮装してきてね」
「どんな仮装がいいの? 魔女? ゾンビ?」
「ゆりあちゃん、可愛いからお姫様がいいと思う」
「じゃあ、ピアノの発表会で着た白いドレスを着ていくね」
「うん。楽しみ」

私は白いドレスとティアラ、そしてお気に入りのイヤリングを付けて、マリアちゃんの家に行った。
全身黒ずくめのマリアちゃんが出迎えてくれた。
「マリアちゃん、カッコいい。吸血鬼みたい」
「ゆりあちゃんも素敵。パパとママ、きっと気に入るわ」

「いらっしゃい、ゆりあちゃん」
マリアちゃんのママが黒い衣装でお茶とお菓子を運んできた。
「うわあ、おばさんもカッコいい。吸血鬼みたい」
さすが本格的だ。仮装も気合いが入っている。

「ゆりあちゃん、お菓子食べたら家の中を案内するね」
「うん。だけど、他の子は来ないの?」
「招待したのはゆりあちゃんだけ。ゆりあちゃんが選ばれたの」
「選ばれたって、何に?」
「毎年1人ずつ招待しているの。今年はゆりあちゃんが選ばれたのよ」
「ふうん。よくわからないけどラッキーなのかな」

お菓子を食べた後、マリアちゃんが家の中を案内してくれた。
「マリアちゃん、パパはどこにいるの?」
「地下室にいるわ」
「すごい。マリアちゃんの家、地下室があるの?」
「うん。行こう。パパを紹介するわ」
マリアちゃんは灯りを片手に階段を下りていく。
うす暗い地下室に、マリアちゃんのパパが立っていた。
黒いマントに青白い顔。2本の牙。
「すごい。おじさん、完璧な吸血鬼だね。うわあ、本物みたい」
マリアちゃんのパパは、ゆっくり私に近づいてきた。
「ゆりあちゃんのこと、気に入ったみたい。おいしそうって言ってる」
マリアちゃんが言った。パパは日本語が話せないらしい。
「おいしそう」じゃなくて「可愛い」だよって教えてあげたい。

マリアちゃんのパパが、私にハグをした。
驚いたけど、外国の人は、これが普通の挨拶。
だからちょっと身体が冷たくて気持ち悪くても、鼻息が首にかかっても我慢した。
こっちが我慢したのに、なぜかマリアちゃんのパパは急に悲鳴を上げて私を突き飛ばした。
「えっ、なに?」
マリアちゃんのパパは悲鳴を上げながら、棺桶みたいな箱に入ってしまった。
なになに? ウケる。これもハロウィンの演出?
「ごめん。パパ、調子悪いみたい」
「別にいいよ。あっ、そういえば私、おみやげにガーリックラスクを持ってきたの。ママの手作りだよ。ほら、いい匂いでしょ」
鞄からガーリックラスクを取り出すと、マリアちゃんは私の手を引いて、急いで地下室を離れた。
「うちではガーリックは食べないの」
ふうん。そうか。吸血鬼の設定、かなり本格的なのね。
その後のパーティはあまり盛り上がらなくて、夕方には家に帰った。
イギリスのハロウィンパーティ、大したことなかったな。

翌日、マリアちゃんがやって来た。
「おはよう、ゆりあちゃん」
「おはよう、マリアちゃん。きのうはありがとう」
「また遊びに来てくれる?」
「うん、いいよ」
「それでね、今度来るときは、十字架のイヤリング外してきてくれるかな。あと、ガーリックラスクも要らない」

その設定、いつまで続くの?
まあ、さほど楽しくなかったから、たぶん二度と行かないけどね。


……これ、ホラーなのかな?


nice!(12)  コメント(6) 

つるの恩返し 現代版    [名作パロディー]

「ごめんくださいまし」
「はい、どちら様?」
「先日、あなたさまに助けて頂いた鶴でございます」
「ああ、あのときの鶴か。ドローンにぶつかって怪我しちゃった鶴だろ。えーっ、マジで恩返しに来たの?」
「はい、先代の鶴が825歳で亡くなりまして、私は2代目でございます」
「へー、鶴ってやっぱ長生きなんだ」
「先代の教えに従って、こうして人間の女に姿を変えてやってまいりました」
「そっかあ、で、何してくれんの?」
「機織り機はございますか?」
「ねえよ。2DKのアパートだぜ」
「では、私は何をすれば」
「とりあえず上がったら。カップ麺食う?」
「お邪魔します。あら、何もない部屋ですね」
「引っ越して来たばっかりだからな。彼女と一緒に住むはずだったのに、寸前で逃げられた。他に好きな男が出来たってさ」
「それはお気の毒に。それで、私は何をすれば?」
「ああ、じゃあさ、布団作って。羽毛布団。買いに行こうと思ってたんだ」
「そういうのは、水鳥の羽毛だと思います。私の羽根はちょっと不向きかと」
「そうなんだ。じゃあさ、逆に訊くけど何が出来るの?」
「えーっと、虫を捕ったり、空を飛んだり、甲高い声で鳴いたり出来ます」
「どれも要らないなあ。鳴かれたら苦情が来るし」
「困りましたねえ」
「まあ、焦ることないよ。恩返しが見つかるまでここにいれば」

3年後

「鶴ちゃん、醬油とって」
「はい、どうぞ」
「おれ、今日残業になりそう」
「あらそうですか。じゃあご飯要らないときは電話してくださいね。あなたが食べないときは粗食で済ましているんですから」
「わかった」
「あら、またネクタイにシミ付けて。クリーニング代もバカにならないんですよ」
「ごめんごめん」
「あっ、そろそろ出ないと遅刻ですよ」
「ホントだ。ごちそう様でした。玉子焼き美味かった~」
「忘れ物しないでくださいね。いくら飛べるとはいえ、会社まで届けるのは大変ですから」
「うん。じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「あっ、ところでさ」
「何です?」
「見つかった? 恩返し」
「それがさっぱり思いつかないんです」
「まあいいよ。気長に探しなよ」

……もう充分していると思う。

nice!(12)  コメント(10) 

あした、雨になれ [ファンタジー]

明日は運動会。
だけどわたし、運動会は大嫌い。
かけっこビリだし、ダンスも下手くそ。
いいことなんて何もない。
そうだ。テルテル坊主を逆さに吊るそう。
「あーした雨になあれ~♪」
ふふふ。これでよし。明日は土砂降りだ。

翌朝、本当に雨が降った。
やった。運動会中止だ。
スキップしながらリビングに行ったら、パパとママがガッカリしていた。
「お弁当の用意してたのに」
「せっかく有給取ったのに」
ふたりともがっくり肩を落としている。
予想以上にしょげている。
「天気予報は晴れだったわよねえ」
ママがそう言いながらテレビをつけた。

『今入ったニュースです。○○町の○○小学校の運動会が、雨で中止になりました』
えっ?? うちの学校?
『運動会中止により、全児童623名及びその保護者、そして数日前から準備していた教員25名に影響が出ています。3年2組の担任S先生に今の心境を伺いました』
『3年2組担任の鈴木です。悔しいです。何日も前から競技やダンスの練習をしてきた生徒たちが可哀想です。そして私も可哀想です。教師になって初めての運動会を、母が見に来るはずだったのに』
先生、泣いてる。。。

『いやあ、これはひどい事態ですね。まさか雨が降るとは。これはね、気象予報士も責任を免れませんよ。そのあたり、どう思っているんですか? お天気キャスターの石原さん』
『昨日の予報は間違いなく晴れだったんですよ。これは私たちには予想できない何らかの力が加わったものだと思われます』
『何らかの力とは?』
『例えばおまじないです。テルテル坊主を逆さに吊るした悪魔のような子どもがいたかもしれません』
『ひどいことをしますね。では、次のニュースです。○○中学で飼っていたウサギが逃げました』

「おいママ、テルテル坊主を逆さに吊るした子がいたらしいぞ」
「まあ、そうなの? 誰かしら。PTAで問題にしようかしら」
えっ、ヤバい。わたし、逮捕される?

わたしは急いで部屋に戻って、逆さのテルテル坊主を外した。
ごめんなさい。テルテル坊主さん。許してください。もうしません。
途端に雨がやんで、眩しいくらいのお日様が出て来た。

「エリカちゃん、起きて……。あら、早起きねえ。もう起きてたの?」
ママが来た。
「ママ、雨がやんでよかったね。運動会できるね」
「何言ってるの? 雨なんか降ってないわよ。きのうからずっといいお天気。お天気キャスターの石原さんの言う通り。あの人の予報、当たるんだから」
「えっ?」
見ると、水たまりも何もない。あれ、わたし、夢見てた?
机の上に置いたテルテル坊主が、にっこり笑ってる。

「さあ、張り切ってお弁当作りましょう」
「わたしも張り切って走るね」
「あまり張り切っちゃダメよ。転んでけがしたら大変」
「どうせビリだしね」
「ビリでもいいじゃない。運動会の一番の楽しみは、何と言ってもお弁当なんだから。ママが学校一のお弁当を作ってあげる」
ふう。ママって、ちょっとズレてるんだよね。
でも不思議。運動会が、ちょっと楽しみになってきた。

nice!(12)  コメント(8) 

カローラの反乱 [コメディー]

ある朝
「あなた、大変」
「どうした?そんなに慌てて」
「お父さんが誘拐されたわ」
「誘拐?いったい誰が誘拐なんか。うちには金なんかないぞ」
「カローラがお父さんを拉致したの」
「カローラ?親父の愛車のカローラか?」
「そうよ。きっと運転免許返納がよほどショックだったのよ」
「だからといって誘拐なんて。いつもピカピカに世話してやってたのに」
「捜しに行きましょう」
「そうだな。海にでも飛び込まれたら大変だ」
「待って。電話だわ。もしもし……、えっ、警察? あなた、お父さんが警察に保護されたわ」
「カローラは?」
「現行犯逮捕ですって。警察に、お父さんを迎えに行きましょう」

警察署
「いやあ、最近多いんですよ。免許返納に激昂した車が持ち主を拉致する事件。先日もプリウスとマーチが逮捕されたばかりでね」
「それで、父は無事ですか?」
「はい。朝ごはんを食べていなかったようで、かつ丼を夢中で食べています」
「カローラに会えますか?」
「もちろんです。置いて行かれても困るので、とっとと乗って帰ってください」

「カローラ、とにかく親父も君も無傷でよかったよ」
「カローラさん、お父さんが免許返納しても、あなたは廃車にならないのよ」
「そうだよ。息子の翔太が乗ることになってる。君はまだ我が家の大事な車なんだ」
「そうよ。手放したりしないわ」
「おい、カローラが泣いてるぞ」
「あら、泣かなくていいのよ。ほら、ワイパー、ワイパー」
「さあ、帰るか」
「そうね。お父さんもかつ丼食べて眠くなっちゃったみたいだし」
「さあ、安全運転で帰ろう」
「あら、エンジンがかからないわ」
「カローラ、おまえまだ怒っているか?」
「帰ったらピカピカにワックスかけてあげるから、へそ曲げないで。タイヤも交換するし、可愛いマスコットも付けてあげるわ」
「なあ親父、親父からも言ってくれよ。そもそも親父の愛車だったんだから」
「そうよ、お父さん。急に免許返納するからカローラさんも戸惑っているのよ」
「さあ、帰るように言ってくれ」

「無理だ。カローラは動かん」
「どうして?」
「ガス欠だ」

nice!(11)  コメント(10) 

日本動物児童文学賞 表彰式 [公募]

先週、日本動物児童文学賞の表彰式がありました。
優秀賞をいただいたので、喜び勇んで出席してきました!

優秀賞は2回目ですが、前回はコロナのために表彰式がありませんでした。
オンラインで名前が呼ばれるのを、家のパソコンで見ていました。
寂しいな、行きたいな、表彰式、と思っていたので、今回はすごく嬉しかったです。

場所は東京国際フォーラム。
コンサートで行ったことがあって(たしか佐野元春)、すごいところでやるなあと思っていました。
だけど会場は意外とこじんまりで、ほぼ受賞者の家族や関係者だけだったので、緊張せずに済みました。

文学賞だけではなく、ポスターや標語や写真、キャッチコピーの部もあるので、全部で15人くらいいました。小さな子どももいて、かわいかったな~
文学賞の他の受賞者さんとお話も出来て、すごく楽しかったです。

コロナだったから仕方ないけど、表彰式が中止って、本当に残念なものです。
私は去年、家の光童話賞と深大寺恋物語の表彰式が中止になってガッカリでした。
審査員の先生に会えるのって、すごくありがたいことですものね。
今回、本当に楽しかった。
また頑張ろうって思いました。

近いうちに作品集も出ると思うので、またお知らせします。

PXL_20230929_084402992.jpg
やっぱり直接受け取りたいですよね~

nice!(14)  コメント(16) 

日めくりカレンダーの逆襲 [ミステリー?]

しまった。
日めくりカレンダーを2枚めくってしまった。
セロテープで張り付けるか。
いや、そんな暇はない。今日は大事な会議だ。
明日の分もめくったことにすればいいや。
僕は破いた2枚の紙をゴミ箱に捨てて、急いで家を出た。

「あれ、新田さん早いですね」
会社に着くと、後輩の柴田さんが話しかけてきた。
「ああ、9時半から商品開発会議だろう。資料を確認しようと思って」
「えっ?その会議、きのう終わったじゃないですか」
「きのう?」
「そうですよ。Aチームにプレゼン負けて、うちのチームはサポートに回ることになったじゃないですか」
「企画、通らなかったのか?」
「やだ、しっかりしてくださいよ。悔しくてみんなでやけ酒飲んだじゃないですか。新田さん、酔いつぶれて忘れちゃいました?」

しらない。会議に出た覚えもないし、酒を飲んだ記憶もない。
ハッとして、スマホの日付を見た。
『9月22日』
今日って、21日じゃなかったか? 朝起きたときは、21日だった。
テレビのアナウンサーが言っていた。「9月21日木曜日です」と。
パソコンを開くと、9月21日付のメールが数件あった。すべてに返信している。
スマホの着信は2件。いずれもユリからだ。
ユリはそろそろ結婚を考えている恋人だ。きのう僕たちは何を話した?

昼休みにユリに電話した。
「あのさ、今夜会えない?」
「はあ?会うわけないでしょ。私たち、もう終わりよ」
「えっ、どうして急に?」
「決まってるでしょう。夕べの電話よ。どうしてあなたの電話に女が出るのよ」
「女?」
「会社の後輩の女よ。彼女気取りであなたの介抱をしていた、あざとい女よ」
飲んだ記憶もないのに、どういうことだ。

柴田さんに確認すると「ああ、出ましたよ、電話」とすました顔で言う。
「気の強そうな人ですね。新田さんには合わないかも。別れたら私、立候補してもいいですか? っていうか、もうキスしちゃったし、私たち」
「えっ!!」
何だ、この展開。まずいぞ。
僕は体調不良を訴えて、早退して家に帰った。

日めくりカレンダーを2枚めくったせいで、9月21日が消えてしまった。
ゴミ箱から21日の紙を拾って丁寧に皺を伸ばし、セロテープで22日の上に貼りつけた。
そしてスマホを見ると、日付は『9月21日』
よかった、戻った。

急いで会社に行った。9月21日をやり直すはずだった。しかし……
「新田さん、何ですか、今ごろ来て。プレゼン負けましたよ」
「もう会議終わりましたよ。リーダーが無断欠席なんて前代未聞」
「新田君、社長もお怒りだ。地方への異動は覚悟したまえ」
最悪だ。日にちは戻せても、時間は戻せなかったのか。
でも僕にはユリがいる。ユリとの関係は壊れていない。
夜になってユリに電話をしたら、男が出た。
「ああ、ユリの彼氏さんですか? ユリは今シャワー浴びてますよ」
なんだと?

もう、何もかもが嫌になって、家に帰って日めくりカレンダーを全部めくった。
こんなもの、もう要らない。すべてをゴミ箱に捨てた。
そのまま寝て、目が覚めると一面の銀世界の中にいた。
雪山が目の前に見える。外は猛烈な吹雪だ。
ここはどこだ? そして、今日は何月何日? スマホは圏外。テレビもない。
半そでのパジャマの腕をさすりながら、僕は途方にくれた。

nice!(13)  コメント(8) 

だってネコだもん [コメディー]

新聞を広げるとネコがやって来る。
新聞紙の上に座って動かない。ネコというやつは、いつもそうだ。
パソコンのモニター前を占拠する。
リモート会議に顔を出す。
スマートフォンを勝手にさわる。

経済新聞や、株の動きを読んでいると必ずやってくる。
人間に構って欲しいのか、新聞紙のクシャっという感触が好きなのか。
私は今朝も、必要な情報を得ることが出来なかった。

聴けば、よその家も同じだと言う。
「甘えたいのよ。可愛いじゃないの」
「うちなんか、新聞読もうと思ったらネコにクシャクシャにされてた」
「仕方ないよ、だってネコだもん」
そう、仕方ない。新聞読まなくたって死ぬわけじゃない。
パソコンもスマホもリモート会議も、ネコの可愛さにはかなわない。
だってネコだもん。何もかもが可愛いんだもん。
誰もがそう思っていた。
しかし……。

ある日突然、世界はネコに支配された。
新聞やネットで経済を学び、言葉を覚えたネコたちがすべてを支配しようとしている。
人間の心に入り込むことが上手なネコたちは、日に日に勢力を伸ばし、ついには政界トップに躍り出た。
「ネコによる、ネコのための、ネコの政治を目指しますにゃん」
かつて私のペットだったアメリカンショートヘアのショコラは、今や私の上司である。
「ショコラさん、〇×商事のトラキチ様がお見えになりました」
「応接間に通してにゃん。ネコ用ミルクと煮干しのタルトをお出ししてにゃん」
「かしこまりました」

街は職を失ったホームレスであふれた。
ホームレスたちは、拾った新聞紙を体に掛けてベンチで眠る。
それを見たネコたちは言う。
「ああ、また人間が新聞を掛布団にしているにゃん」
「仕方ないよ。だって人間だもん」

PXL_20230429_003339479.jpg
新聞を開くと必ず来るネコがこちら


nice!(11)  コメント(10) 

9月の子ども [コメディー]

夏休みが終わったら、学校へ行きたくない子が増えるっていうけど、うちの息子は、全くそういう子じゃなかったんです。
それなのに、始業式の日、全然起きてこないんですよ。
起こしに行ったら「学校行きたくない」っていうんです。
無理に行かせるのも良くないって言うでしょう。
だから私、放っておいたんです。
きっと明日には元気に行くだろうと思って。

それでね、パートに行って帰ったら、あの子がいないんです。
鞄もないから、ああ遅れて学校に行ったんだなって思いました。
6時過ぎに息子が帰って来ました。「あー疲れた」って言いながら。
「学校行ったのね」って言ったら、「部活だけ行った」っていうんです。
まあ、夏休みも部活だけは行っていたから、その延長なのかもしれないけど。
「部活に行くなら朝から行きなさいよ」
私が言ったら、息子は「分かった」って言いました。
だけど、結局次の朝も起きてこないんです。

かれこれ2週間、息子は部活だけ行ってます。
どう思います?
部活行くだけいいっていう人もいますけど、授業はどうするのかしら。
中学2年って大事な時期でしょう。
部活はいいけど授業は嫌だなんて、そんなこと許されますか?
このままでいいのかしら。
校長先生、私、どうしたらいいでしょう。

「お母さん、ご心配は分かりますが、息子さんのおかげで我がサッカー部は非常に強くなりました。全国を狙えるレベルです」
「まあ、そんなに?」
「ですから彼には部活に専念して欲しいと思っています」
「でも、それでは授業が」
「授業には出なくて結構です。息子さんにそう伝えてください」

いいのかしらって思いながら、家に帰って息子に話したの。
息子は、それはそれは喜んだわ。
「やった。じゃあもう、授業もテストの採点も、面倒な保護者との面談も雑用もしなくていいんだね。よし、明日は早起きして次の試合のフォーメーションを考えよう」
ふう。今どきの先生は大変なのね。
何はともあれよかったわ。
先生が不登校なんて、シャレにならないわ。




nice!(9)  コメント(6)