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おとぎ話(笑)25 年末スペシャル [名作パロディー]

今年は、コロナコロナの1年でしたね。
こうなったらもう、コロナが吹っ飛ぶように笑い飛ばしちゃいましょう。

<桃太郎>

桃太郎や、鬼退治に行くのは勝手だけどね、頼むから帰省はしないでおくれよ。
あたしたちは年寄りなんだ。感染したら困るだろう。
ああ、でも宝物は送っておくれよ。ちゃんと除菌してからね。
じゃあ行っておいで。はい、黍団子。
ひと口食べるごとにマスクするんだよ。


<かさ地蔵>

「ただいま。峠のお地蔵さんが感染しないように、マスクをかけてきてあげたよ」
「まあおじいさん、いいことをしましたね」
「それから地蔵同士の距離を2メートル離してあげたよ。ソーシャルディスタンスだ」
「あら、いいことをしましたね。今夜あたり、お礼の品を持ってくるかもしれませんね」
ドンドンドン
「ほら来た。あら、封筒が置いてある。おじいさん、何が入っているんでしょうね」
「どれどれ。あっ、GO-TOトラベルの旅行券だ。ばあさん、どうする?」
「今はやめときましょ」


<白雪姫>

「あれ、小人さん達、お仕事行かないの?」
「うん、今日からテレワークになったの」
「木こり……だよね」


<鶴の恩返し>

「いいですか。決して覗いてはいけませんよ」
スー。
「ちょっと、どうしてふすま開けるんですか!」
「1時間ごとに換気をすることになっているんじゃ」
「ほお、きれいな布だね。余ったらマスクを作っておくれ」
「いや、まず鶴だったことに驚こうよ」


<赤ずきん>

「へへへ、ばあさんの振りをして、赤ずきんが来たら食ってやろう」
トントントン
「おばあさま、お見舞いに来ました」
「お入り」
「いいえ、おばあさま。会って顔を見たいけど、今はやめておきます。もしも私が保菌者だったらおばあさまにうつしてしまうでしょう。だから、玄関先に葡萄酒とケーキを置いていきますね。おばあさま、しっかり食べて免疫をつけてくださいね」
「ああ、なんていい子だ。ばあさんを戻して、森でホームステイしよ」


みなさま、今年は本当に大変な年でしたね。
当たり前のことが当たり前じゃなくなって、いつも何かに怯えていました。
コロナが一日も早く終息するように、出来る限りの感染予防をしましょう。

では、よいお年をお迎えください。

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来年もヨロシク!!

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ケーキ屋のクリスマス [男と女ストーリー]

「今年も作り過ぎたわね」
ショーケースに残ったケーキをのぞき込みながら、夫を軽く睨んだ。
ケーキ職人の夫は、腕はいいけど商売はまるで下手。
12月25日の閉店間際に、ケーキを買いに来る人がどれだけいると思っているのだろう。
「あと1時間じゃ捌けないわよ。どうする? 半額にする?」
「うん。するする。半額の紙貼ってきて」
全くこの人は、丹精込めて作ったケーキを半額で売ることに、何の抵抗も感じないのだろうか。
『只今よりケーキ半額』の張り紙を持って外に出たら、駅前に飾られた巨大なツリーの陰で、女がこちらを見ている。
あの人、去年もいた。確か一昨年も、その前も。
半額の紙を貼った途端店に来て、待っていたようにケーキを買っていく女だ。
スーパーで値引きシールを待っている客みたい。
あの人のために半額にするみたいで、なんだか悔しい。

ところが女は、半額の紙を貼ってもなかなか入ってこない。
閉店30分前、いつもの年より人通りは少なくて、半額でも客は来ない。
「いっそ7割引きにしよう」と夫が言った。
「本気で言ってる? 利益がないわよ」
「じゃあこのケーキ、二人で食べるの? きみ、ダイエットするって言ってなかった?」
「分かったわよ。7割引きにしてくるわよ」
外に出て、半額のところに7割引きの紙を貼った。
すると女が動いた。冷え切った身体をさすりながら店に入るなり言った。
「残ったケーキ、全部ください」
「はーい」と、夫は笑顔で応えて箱にケーキを詰めていく。
おまけに「お客さん自転車でしょう。崩れてしまうので配達しますよ」などと言っている。
「ちょっとあなた、7割も引いた上に配達なんて、割に合わないわよ」
ユニフォームの裾をつまんで小声で言ったが、女が嬉しそうな顔をしたものだから仕方なく、ぎこちない笑みを返した。

「店を閉めて、君も一緒に行こうよ」
「えー、7割引きの上に二人分の人件費って、大赤字だわ」
ぶつぶつ言いながら、ケーキを積んで助手席に乗り込んだ。
夫はまるで女の家を知っているように、ナビも見ずに運転している。
「あの人、知り合いなの?」
「うん、ちょっとね」
怪しい。まさか不倫? いや、不倫相手の家に、妻を同行させたりしないだろう。いや、今から修羅場? うーん。まさかね、この人に限って。

悶々としているうちに辿り着いたのは、小さな教会だ。
「ここ、児童養護施設なんだ。前に焼き菓子を頼まれたことがあってさ、配達に来たんだ」
「なあんだ。そうだったの」
「クリスマスの日でさ、本当はケーキを食べさせてあげたいけど財政難で無理だって言ってた。だから俺、言ったの。閉店1時間前に半額になりますよって」
「えっ?だからあの人、毎年半額になるのを待っていたの?」
「うん。今年は半額でも厳しかったのかな。7割引きは初めてだったね」
「あなたまさか、わざと残るように作っていたの?」
「えへへ。ばれた?」
全くこの人は……。
それにしてもずるいなあ。自分だけいい人ぶっちゃって。

ふたりでケーキを運ぶと、子供たちがいっせいに声をあげた。
「わーい、ケーキだ!」「美味しそう!!」
この顔を見ちゃったら、赤字でも怒れない。
そのために私を連れてきたのかな。やっぱりずるいなあ。

「海の夜景でも見に行く?」
シートベルトを閉めながら、夫が言った。
「だめよ。帰って売り上げ計算しなきゃ」
「いいじゃん、そんなの後でやれば」
ああ、全くこの人は。
やれやれと思いながら、夫の左肩に頭を乗せた。
甘いクリームの香りがした。

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メリークリスマス ♪
このお話は、ずっと前に書いた「ケーキ屋の女房」の続編です。

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サンタクロース宅配便 [ファンタジー]

公園に突然、大きなモミの木が生えた。
「サンタクロースからの贈り物だよ」と町長さんが言った。
みんなでオーナメントを飾り、ピカピカの電飾を付けた。
最後に町長さんが、ひときわ輝く大きな星を天辺に付けた。

「ねえ町長さん、天辺の星は、どうしてあんなに輝いているの?」
「ああ、あれはな、灯台の役割をしているんだよ。どんなに高い空の上からだって、この星が見えるんだ」
「わかった。サンタさんの目印だね」
「まあ、そういうことかな」

子供たちは大さわぎ。
「この公園に、サンタクロースが来るってことじゃないか?」
「きっとそうだ。あの星めがけて来るんだよ」
「なあ、サンタさん、見たくないか?」
「見たい、見たい」
「24日の夜中に、こっそり集まろうぜ」
そしてクリスマスイブの夜、子供たちはそうっとベッドを抜け出して、公園に集まった。
つま先まで凍りそうな夜だけど、子供たちの好奇心は寒さになんか負けない。

午前1時を過ぎたころ、巨大な光が降りてきた。
「サンタクロースが来たぞ」
子供たちが身構えていると、降りてきたのはUFOみたいな大きな飛行船だ。
「サンタって、UFOで来るの?」
「橇じゃないの? トナカイは?」
「鈴の音も聞こえないよ」

船から数人の作業員が下りてきて、ベルトコンベアーで荷物を下ろし始めた。
もっともらしい赤い服を着ているけれど、サンタクロースには見えない。
大きな段ボールが、ツリーの周りに積まれていく。
「あれ、プレゼントかな」
「あの人たち、サンタなの?」
「サンタっていうより、宅配便のお兄ちゃんみたいだ」
「本当だ。運送屋みたいだね」
「想像と違うね」
サンタたちは、荷物を下ろして伝票をチェックすると、再び飛行船に乗り込んだ。
まるで次の配達先に急ぐように、空へと旅立った。

午前2時、「寒い寒い」と言いながら、大人たちがやってきた。
「おお、届いてるぞ、プレゼント。うちのはどれだ」
大人たちは名前を確認して、自分の子供宛のプレゼントを持ち帰った。

「あっ、パパだ」「うちのパパもいる」
「ねえ、あのプレゼントを、今から僕たちの枕元に置くんじゃない?」
「やば! 急いで帰ろう」
子供たちは、忍者のように裏道を抜けて親より早く家に帰った。
そして寝たふりをしながら、親がプレゼントを置いていくのを毛布の隙間からこっそり見ていた。

「やれやれ、すっかり身体が冷えちまった」
「ご苦労さま。去年まではサンタクロースが家まで届けてくれたのにね」
「働き方改革ってやつか?」
「感染症が怖いのかも。ほら、もうご高齢だから」
「ホットウイスキーでも飲んで寝るかな」
「あら、いいわね。チキンが少し残っているわ」

親が部屋を出て行ったあと、子供たちは思う。
「結局、サンタクロースって、いるの? いないの?」

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リモコンベビー [公募]

秋に里帰り出産をした妻が帰ってきたのは、街にジングルベルが流れる12月の初旬だった。
生後二か月の我が子は頬の赤い女の子で、なんとこの日が初対面だった。

妻の故郷はとても遠い。
電車を乗り継いでようやく港にたどり着き、そこから一日二本しか出ていない連絡船に乗り換えて五時間。
まるで日本の一番端っこのようなその島で、妻は子供を産んだのだ。
もちろん里帰り出産には反対だった。
仕事を休んでついていくことは出来ないし、生まれる時に立ち会うことも不可能だ。
僕の仕事はとても忙しい。
「生まれ育った家で子供を産みたいの。先祖代々そうして来たから」
妻はそう言い張って、八か月のお腹を抱えて一人で帰った。

そんな島にも電波は届いていたから、スマホで赤ん坊の顔が見られた。
ネットの電話で会話をして、動く小さな手や足を見て、ちょっと感動した。
名前はちゃんと顔を見て決めた。桜色の頬が可愛かったから「さくら」と名付けた。
待ちに待った初対面だけど、怖くて触れない。
「ゆっくりパパになればいいのよ」
妻は慣れた手つきでミルクを飲ませ、オムツを替えてお風呂に入れた。
僕は感心しながら見ているだけだった。

一緒に暮らしてみると、さくらはとてもいい子だった。
よく寝るし元気だし、いつも機嫌がよくて夜泣きもしない。
僕たちはゆっくり食事をして、妻は編み物を、僕は音楽を、心置きなく楽しむことが出来た。
「ねえ、子供がいる友達の話を聞くと、みんな大変らしいよ。夜泣きがひどくて眠れなかったり、一日中抱っこをして腰が痛いとか、奥さんが育児ノイローゼで大変だったとか。どうしてさくらはこんなにいい子なのかな」
妻はふふっと笑って、ベビーベッドの横から何やら黒い物を持ってきた。
「これのおかげよ」

それは、どう見てもリモコンだった。
オンとオフのマークと、プラスとマイナスのボタンがいくつかあるシンプルなリモコンだ。
タイミングよくさくらが泣き出して、妻がマイナスのボタンを押すと泣き声は小さくなり、やがてフェイドアウトした。
「どういうこと?」
「リモコンで操作してるの。オフにすればしばらく眠っているわ」
「何それ。さくらは人間だ。機械やロボットじゃないぞ。リモコンなんて変だろ」
「私たちの島には、昔から超人的な力を持つ祈祷師様がいるの。生まれた子供はそのお方から、無病息災や、疳の虫を抑える力をいただくの。小さな島で病院もないから、みんなその力をいただいて育つのよ」
「このリモコンは何?」
「私の場合、島を出て子育てをするから、祈祷師様の力が届かないでしょう。だからね、このリモコンに力を封じ込めてもらったの」

いったいどういう仕組みになっているのだろう。
電池も入っていない小さなリモコンに、そんな力があるとは到底思えない。
「そんなのに頼るなんて変だよ。ここは都会だし、病院だってあるじゃないか」
「じゃああなた、さくらが病気になったら仕事をやめて帰ってくるの? 無理でしょう。都会の人は冷たいわ。妊婦に席も譲ってくれない街よ。きっと誰も助けてくれない。だから私には、祈祷師様の力が必要なのよ」
それを言われたら言い返せない。
にわかに信じがたいけれど、僕にはやはり、見ていることしかできないのだ。

クリスマスイブの夜、珍しく早く帰れたので、食事に行くことになった。
さくらをベビーカーに乗せて、初めてのお出掛けだ。
ファミレスよりは少し高級な、気取らない店を選び、僕たちは食事を楽しんだ。
オフのボタンを押しているせいか、さくらはずっと眠っている。
「おとなしい赤ちゃんね」と声をかけていくご婦人に、妻は穏やかに微笑んだ。

最後のデザートを食べ始めたときだった。さくらが急に激しく泣き出した。
妻がリモコンを押してもまったく泣き止まない。
「やだ、どうしちゃったの。ミルクはあげたし、オムツも替えたのに」
そのとき妻のスマホが鳴った。電話に出た妻は、呆然としながら唇を震わせた。
「祈祷師様が、たった今亡くなられたわ」

力が切れた。リモコンはただの薄い板になった。
僕はさくらを抱き上げたけれど、あやす術など何も知らない。
周囲の視線が気になって、早々に会計を済ませて外に出た。
外に出た途端、さくらはピタリと泣き止んだ。
「もしかして、暑かったんじゃない?」
着膨れしたさくらが、薄ら汗をかいていた。
「ああ、そんなことも分からないなんて、私、母親失格だわ」
溜息を吐く妻の頬を、さくらが小さな手で撫でた。
ゆっくりでいいよと言っているみたいで、僕たちは顔を見合わせて笑った。

*****
公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「リモコン」でした。
こんな素っ頓狂な話では、入選なんかするわけないね(笑)

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白い月の夜 [男と女ストーリー]

「今夜の月はやけに白いね」
「そうね。ねえ、次はいつ会える?」
「5回目だね、その質問。言っただろ。年末年始は忙しいんだ」
「クリスマスは?」
「うちのショップ、クリスマスは書き入れ時。しかも俺、遅番」
「ふうん。じゃあ私、静香さんとパーティしようかな。誘われてるの。静香さんの彼氏が友達連れてくるって。10人ぐらい集まるんだ。静香さんって、すごいセレブなのよ」
「楽しそうだね。それにしても、月、白いね」
「そうね。じゃあ次はいつ会えるの?」
「6回め。だからさあ、俺、ショップのオーナーなんだよ。クリスマスと年末年始は絶対無理」
「ふうん。ねえ、静香さんの彼氏ってすごいお金持ちなんだって」
「へえ」
「年収1千万の男紹介してくれるって」
「あのさ、さっきからちょいちょい出てくる静香さんって誰?」
「会社の先輩」
「へえ、君の職場ってラーメン屋でしょ。家族でやってるラーメン屋でしょ。先輩なんていないよね」
「あっ、お客さんだった。店の常連さん」
「ふうん。セレブなのにラーメン屋に通うんだ。カッコいい人だね」
「そうよ。いつもシャネルで店に来るのよ」
「へえ、本当に白いな、月」
「そうね。で、次はいつ会えるの?」
「7回め。ああ、駅に着いちゃった。明日早番なんだ」
「電車、行ったばかりよ。あと20分は来ないわ」
「そうか。寒いね」
「ねえ、こっちに帰ってくれば? そうしたら毎日会えるわ」
「無理だよ。俺のショップ結構人気だからさ、今だって、注文バンバン入ってるし」
「あのさあ、さっきからショップって言ってるけど、あなたの職業、農業だよね。早番も遅番もないでしょ。バカじゃないの」
「はつ? 農業じゃねえし、オーガニック野菜のセレクトショップだし」
「自分で作った野菜をネットで売ってるだけじゃん」
「大人気なんだよ。クリスマスと年末年始は、イチゴの収穫で休みなしだ」
「ふうん。イチゴが恋人ってわけね」
「ねえ、君が僕の町に来るっていう選択肢はないの? ラーメン屋はお兄さんが継ぐんでしょ」
「私が農業を? ありえない」
「俺の年収、1千万だけど」
「えっ、マジで? 考えてみるわ」

「月、白いね」
「本当に白いわね」
「電車、1本遅らせようかな」
「月が白いから?」
「まあ、そうだね」

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