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プレゼント交換 [ファンタジー]

幼いころ、クリスマスに友達とプレゼント交換をしていた。
缶バッチやマンガ本といった他愛のない物だ。
しかしその友達は、遠い北の国に行ってしまった。
もう何十年も会っていない。
携帯でもあれば連絡を取り合っただろうが、あいにくずいぶん昔の話だ。
携帯はおろか、エアメールの送り方さえ知らなかった。
遠い昔の話だが、クリスマスになると何故か彼を思い出す。

私はプレゼント交換をやめなかった。
恋人とプレゼントを交換し合い、妻と交換し合い、子どもと交換し合った。
そして今は、5歳になる可愛い孫とプレゼント交換をしている。
今年のプレゼントは、折り紙で作ったサンタクロースだ。
私からは長靴に入ったお菓子をあげた。
「タツヤはサンタさんに何をお願いしたんだい?」
「あのね、恐竜の図鑑にしたの。ぼく、恐竜が好きだから」
「そうかい。届くといいね」
「絶対届くよ。だってサンタクロースだもん」

妻を亡くしてから、息子夫婦と同居をしている。
私は1階、息子の家族は2階で暮らす。
イブの夜は静かだ。
チキンとケーキを食べて、孫とプレゼントを交換したらもうやることはない。
部屋に引き上げて、静かにウイスキーでも飲んで過ごそう。

深夜になっても何故か寝付けず、起き上がってまたウイスキーを飲んだ。
窓の外には雪が降り始めた。
プレゼント交換をしたあの子は、今頃どうしているだろう。
家族と幸せに過ごしているだろうか。

鈴の音が聞こえた。ああ、サンタクロースがやってきたんだな。
2階の子ども部屋に、サンタがこっそり入る気配がした。
ぼんやりと窓の外を見ていたら、目の前にサンタクロースが現れた。
手にプレゼントを持っている。思わず窓を開けて言った。
「私は子どもじゃないよ。プレゼントは要らないよ」
「メリークリスマス、ショウちゃん」
「えっ、どうして私の名前を?」
「僕だよ。子どもの頃にプレゼント交換をした聖夜だよ」
「えっ、きみ、せいちゃんか?」
「そうだよ。すっかりおじいちゃんになっちゃったよ」
「それはお互い様だ」
「うちは元々サンタクロースの家系でね、父が修行の為に北欧に行って、僕はそのあとを継いだというわけさ」
「驚いたな。せいちゃんがサンタクロースだなんて」
「今年から担当が日本になったんだ。今タツヤ君の顔を見て、君にそっくりだったから驚いた。もしやと思って覗いたら、やっぱりショウちゃんだった」
「そうかい。それでわざわざ寄ってくれたのか」
「久しぶりのプレゼント交換をしよう。僕からは、北欧の絵葉書だ」
「ありがとう。しかし困ったな、君にあげるものが何もない」
「じゃあ、ウイスキーを一杯おくれ。寒くてかなわない」
「お安い御用だ」
私は、グラスにウイスキーを入れて渡した。
彼はそれを一気に飲んで、ほんのり赤い頬で橇に乗り込んだ。
「ああ、あったまった。最高のプレゼントをありがとう。また来年会おう」
彼は手を振って、鈴の音と共に夜空へ消えた。

翌朝、「やったー、恐竜図鑑だ」という孫の声で目が覚めた。
「じいじ、サンタさん、来たよ」
「おお、よかったな」

枕元に北欧の絵葉書、窓のふちに空のグラス。
私のところにもサンタは来た。だけどこれは内緒だね。
来年は、もっと高級なウイスキーを用意しよう。
私はもう、来年のプレゼント交換を楽しみにしている。

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