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ロボット社会 [SF]

ちくしょう、何てこった。右を見ても左を見てもロボットばっかりじゃないか。

ロボットが一人一体の時代になったのは10年ほど前だ。
やがて人間は、ロボットを自分の代わりに働かせるようになった。
人間は一日中モニターの前に座って、ロボットの操作をするだけの毎日になった。

そのころはまだよかった。
やがて、さらに進化したロボットは自動操縦が可能になり、人間はもう操作すらしない。
1日中好きなことをして過ごす。
自分の代わりにロボットが仕事、あるいは勉強をして食事の用意も買い物もすべてやってくれる。

ごくまれに不具合が起こるとアラームが鳴り、アラームが鳴った時だけ人間は仕事をする。
仕事といっても、不具合解消のボタンを押すだけだ。
人間の仕事はそれだけだ。
人間は、どんどん怠惰になった。
「これは、非常に危険なことです」
と訴えていた評論家も、いつのまにかロボットになっていた。

まったくやってられない。会社はロボットだらけ。
人間そっくりだが、感情がないので機械的な動きをする。
しかも俺よりずっと優秀だ。
憂さ晴らしに飲みに行ったバーに置いてあるのは、ロボット用の潤滑油だ。
カウンターにはロボットのマスター。飲む気にもならない。

仕方ないのでコンビニによって、人間用と書かれた酒を買い、ロボットの店員に金を払った。
とぼとぼと河原を歩いていたら、酒を飲んでくだを巻く男と出会った。
こんなところでくだを巻くなんて、人間に違いない。
「君は人間か?」と声をかけたら、
「そう言うあなたは人間ですか?」と俺を見た。
「そうだよ。俺は人間だ。いやあ驚いた。こんな外で人間に出会えるなんて」
俺たちは並んで酒を飲んだ。

「しかしこのままでは、人類は滅んでしまうな」
「ええ。一歩も外へ出ず、若者はネットの中だけで恋愛をしている。間違いなく、子孫は途絶えるでしょう」
「そうだな。しかしロボットはどうだ。次々に新型を作り出している。致命的なのは、そのロボットを作っているのもまた、ロボットだということだ」
「ええ。人間は必要なくなりますね」
「何てこった」
「あの、よかったら家で飲みなおしませんか?おいしいワインがあるんですよ」
「ワインか。ワインなど久しぶりだ」

俺は男の家に行った。
上質なワインと楽しいおしゃべり。本当に久しぶりだった。
「君はひとり暮らしなのか?」
「おじいさんがいましたが、先日亡くなりました」
「そうか。それは寂しいな」
「はい。だからあなたに出会えて本当によかったです」
俺は勧められるままガンガン飲んだ。
そして翌朝、割れるように頭が痛くて起きられなかった。

「二日酔いですね。かまいませんよ。どうかいつまでもここにいて下さい。私は出かけますが、気にせずゆっくりして下さい」
「すまんな」
「いいえ、いいんです。ただし、ひとつだけお願いがあります。アラームが鳴ったら、その赤いボタンを押してください。なに、滅多に鳴りませんよ。
あなたの仕事はそれだけです。あとは何もしなくていいのです」

男は出かけた。
俺は再びまどろみの中に入っていった。
何もしなくていいとは、何て楽なんだ。

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宇宙人は誰だ? [SF]

いつからか、頭の中に声が聞こえるようになった。
たとえばテスト中、
『(3)の漢字間違ってるぞ。そこはのぎへんだ』とか、
『アフリカはCだろう。Bはインドだ』と、そんなふうだ。
おかげで僕は、ずいぶん点数が上がった。

誰かが、僕の頭にテレパシーを送っている。きっと宇宙人だ。
なぜなら、僕がアイドルのグラビアを見ていたら
『地球人はそういう女がいいのか。ボクの好みじゃないな』
と言ったからだ。
声の主は宇宙人で、男だ。そしてこの教室にいる。
教室以外で声が聞こえることはない。だから宇宙人はこのクラスにいるのだ。

クラスメイトは僕を除いて35人。男子は17人。僕はひとりひとりをじっと見た。
梅沢くんかもしれない。梅沢くんは、頭が良くてスポーツ万能。
それにおでこが広くて宇宙人みたいな顔をしている。
決定的だったのは、算数の授業中だ。
『次、当てられるよ』と声がした。

「じゃあ次、問3をヤマダ、答えてみろ」
当たった~。しかも問3って、いちばん難しい。まだ習っていないところだ。
先生はときどきこういう意地悪をする。
『0.3だよ』声がした。
「0.3…です」
僕が言うと、先生は奇蹟が起きたように喜んだ。
「すごいぞヤマダ。ちゃんと予習をしたんだな。えらいぞ!」

僕は確信した。
この問題が解けるのは、このクラスには梅沢くんしかいない。梅沢くんが宇宙人だ。
僕は放課後、梅沢くんを校舎の裏に呼び出した。

「話って何?ボク、今から塾なんだけど」
「梅沢くん、さっきはありがとう。…っていうか、いつもありがとう」
「…何が?」
「ねえ梅沢くん、どうやって地球に来たの?やっぱりUFO?」
「意味わかんねえ」
「梅沢くん、目的は何?もし地球征服が望みなら、僕は協力できないな。あ、でも友達になりたいのなら、もちろんオッケーだよ」
「おまえ頭おかしんじゃねえ?」
「友達になろう。ってか、もう友達だね。テレパシーってどうやるの?僕にもできる?」
梅沢くんは僕の顔をじっと見た。そして言った。

キモイ!」

梅沢くんは行ってしまった。キモイって、地球では気持ち悪いの意味だけど、梅沢くんの星では違うのかな?それとも、地球征服を拒んだから怒ったのかな?

****

そのころ、誰もいない教室では…
ヤマダの机の中にいる小さな異星人が、外部と通信していた。
『どうだ、ヤマダの調査は進んでいるか?』
『はあ…。しかしヤマダはひどい馬鹿ですよ。漢字は出来ない、計算は出来ない、地理に至っては致命的です』
『そうか…』
『はい、とても我々の星を滅亡させた宇宙テロリストの首謀者とは思えません』
『データミスとは考えにくい。もう少し調査を続けてくれ』

****

なんてことが話されていることなどつゆ知らず、僕は思っていた。
梅沢くんの期待に応えられるように、宇宙の勉強をしよう。そして、いつか梅沢くんと一緒に地球を…いや、宇宙を征服するんだ。

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これはカテゴリーをSFにするかコメディーにするか迷いました。
まあ、ちょっとふざけてるけどSFでいいか!(笑)

さよなら私 [SF]

タイムマシンは、20年前にたどり着いた。
今日が初めての渡航だった。20年前に来ることは私が希望した。

懐かしい家の前に立った。古い戸建てのアパート。
軒下に、お下がりの赤い自転車がある。小さな私の唯一の宝物だった。
いい思い出など何もないのに、懐かしく感じるのが不思議だった。

5歳の私が花壇の隅で膝を抱えている。
ママの男が来ると、いつもそうして外に出された。
私は、5歳の私に話しかけた。
「チエちゃん、おねえさんと遊ばない?」

小さな私は、警戒心たっぷりの目で私を見上げた。
「大丈夫よ。私はママのお友だち。ママに頼まれて、チエちゃんを誘いにきたの」
小さな私は頬をゆるめ、スカートに付いた泥を払って立ち上がった。
私たちは手をつないで歩き出した。

過去の自分と関わりを持つことはタブーだ。そんなことは百も承知だ。
だけど私は、あえて掟を破った。そのために、この時代にやってきたのだ。
小さな私を薬で眠らせると、タイムマシンに乗せて現代に連れて帰った。

所長は真っ青な顔で怒った。
「君は何を考えているんだ。過去から自分を連れ去るなんて。どうなるかわかっているのか?君自身の存在が消えてしまうんだぞ」
「わかっています。消えてもいいんです」
「何だって?」
「5歳の私は、あのあとママの男からひどい虐待を受けるんです。額の傷と背中の傷は、今でも時々痛みます。何より心に受けた傷は、一生消えることはないのです。
そんな痛みを抱えながら生きていくのは辛くて耐えられません」
「まさか君は、そのために研究所に入ったのか?」
「そうです」

タイムマシンの研究と聞いて、私はまっさきに思った。可哀想な子供時代の私を救いたい。そしていやな過去をすっかり消すのだ。たとえそれが危険なことでも。
私は必死で勉強した。誰かを蹴落としてでも、この研究所に入りたい。私はそうして生きてきた。

意識が遠のいていく。
私は消える。無邪気に眠る5歳の私といっしょに消えるのだ。

**

気が付くと、ベッドに横たわっていた。
手足の感覚もある。私は消えていなかった。
ただ額と背中の傷が消えていた。いったいどういうことだろう。

「気が付いたかね」
所長がホッとしたように覗き込んだ。
「5歳の君を元の時代に戻してきたよ。あと少し遅かったら優秀な助手を失うところだったよ」
「戻した?戻したなら、なぜ私の傷が消えているのですか?」
「君の家から離れた養護施設に君を預けた。君はそこで穏やかに育つことになる」

「所長。頭がすごく痛いです」
「君の記憶が、ものすごい勢いで入れ替わっているんだ」
頭の中で雷が鳴っているような激しい頭痛だ。脳の回路が今にも破裂しそうだった。
鬼のようなママと男の顔が薄れていく。いろんな顔が現われては消えていく。
うずくまる私の手を、所長がしっかりと握った。所長も痛みに耐えているように見えた。
「5歳の君は施設で、科学が大好きな15歳の少年と出会うんだ。やがてふたりは、同じ夢を追うことになるだろう。そう…。タイムマシンを一緒に作るという夢だ」

頭痛が治まった。嵐の後の青空のような澄みきった気分だ。
私の前には、幼いころからずっと慕ってきた兄のような所長の笑顔があった。
「さあ、研究を続けようか、チエ」

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アンドロイド・ママ [SF]

僕のママはアンドロイドだ。
パパが死んでから、ママはずっと沈み込んでいた。
悲しくて悲しくて、どうしようもなくなったママは、アンドロイド手術を希望した。
心が壊れてしまう前に、感情をなくしてしまうのだ。
希望してお金を払えば、誰でも手術を受けられる。
今では、都会の3分の1はアンドロイドだと言われている。

アンドロイドになったママは、いつも優しかった。
つまらないことで怒ったり、ヒステリックにわめいたり、うっかり失敗したり、そんなことはすっかりなくなった。
パパの写真を見ても、メソメソ泣くことはなくなった。

家事も仕事も完璧にこなす。
アンドロイドは仕事も早く、私情を入れないから会社からも重宝がられた。
収入が増え、僕たちの暮らしはずいぶん豊かになった。

だけど僕は、前のママが好きだった。
嫌なことがあると僕に当たったり、くだらないことで落ち込んだり、すぐに忘れ物をしたり、ぐちゃぐちゃの目玉焼きを作ったりするママが好きだった。

僕は夜中にこっそりママの部屋に行った。
頭の中に埋まっているICチップを抜き取ってしまおうと思った。
そうすれば、前のママに戻るかもしれないと思った。
髪をかき分けて、チップを探した。指が、固いものに触れたとき、けたたましい音でママが叫んだ。
ビービービー
まるで危険を知らせる警報音だ。

それを聞きつけたアンドロイド警察がやってきて、僕はあっという間に捕まった。
ママは感情のない目で、僕に言った。
「ICチップの窃盗は、重罪です。二度としてはいけませんよ」

僕は少年院に入れられた。
ママは毎日面会に来る。来るたびに、笑顔で僕に言う。
「犯罪はいけないことよ。二度としてはだめよ」
僕はママが作ってきた完璧な弁当を床に叩きつけた。
「ママ、どうして怒らないの。僕は悪い子だよ。もっと怒ってよ。大声で怒ってよ」
僕がどんなに泣きわめいても、ママは笑顔を崩さない。
「いけない子ね。二度としてはだめよ」
ニコニコと感情のない笑顔を繰り返すのだった。

僕はひどく落ち込んで、そして何もかもがどうでもよくなった。
そして僕は、アンドロイド手術を希望した。

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恐竜の星 [SF]

眠れないのかい?そうだよね。窓の外はいつも真っ暗だ。
朝か夜かもわからない。
宇宙旅行とはそういうものだ。退屈なんだよ。
どれ、父さんが話をしてあげよう。
いつかお前に話そうと思っていた話だ。

これは、ある星の話だ。
恐竜と人間が共存する、不思議な星の話だ。
ずっとずっと大昔に、地球の恐竜が絶滅した。
神様は、絶滅前に何頭かの恐竜を船に乗せて、他の星に運んだんだ。
このまま絶滅させては可哀想だと思ったんだろう。
船で共食いをされては困るから、草食恐竜ばかりを選んだ。

その星で、恐竜は穏やかに暮らした。
やがて人間が誕生して、暮らしも進化していった。
しかしその星の人間は、恐竜の領域を侵すことはしなかった。
先住民である恐竜を敬い讃えていたのだ。
また恐竜も、人間の暮らしを脅かすことはなかった。
お互いに上手に共存していたんだ。

そこに、地球人がやってきた。
地球人は、それはそれは驚いた。
絶滅した恐竜が、そこにいたんだからな。
地球人は、恐竜を何頭か譲ってくれないか、と頼んだ。
しかしその星の住民は断った。どんなに大金を積まれても断った。
恐竜にとって、この星を出ることは幸せではないと思ったからだ。

地球人は諦めた。
しかしひとりだけ、どうしても諦められない男がいた。
恐竜が大好きな研究者だ。
男は恐竜の生息区域に忍び込み、卵を盗んだ。
そして何食わぬ顔で地球に帰ったのだ。

男は自分の研究室で、卵を大切に育てた。
やがて見たこともない恐竜が生まれた。
大変高い知能を持った恐竜だ。人間の言葉を理解し話すことが出来た。
恐竜も進化していたのだ。

男は、まるで我が子のように恐竜を可愛がった。
恐竜も男を父親だと思った。
男にとっても恐竜にとっても、それは楽しい日々だった。
しかし恐竜は、どんどん大きくなった。
まだ1年足らずなのに、研究室の天井に届きそうだ。
男は思った。このまま置いておくわけにはいかない。
かといって外に出して好奇の目にさらされては可哀想だ。

男は、自分の愚かさに気付いた。
好奇心で連れてきたのが間違いだった。
愛しい。とても愛しいけれど、恐竜を故郷に返すことにした。
これ以上大きくなったら船に乗せることが出来なくなるから、男はすぐに出発したんだ。
最愛の息子と、最初で最後の宇宙旅行だ。

「お父さん、もしかして、その恐竜がボクなの?」
「ああそうだ。お前はやっぱり賢い子だな」
「いっしょには暮らせないの?」
「暮らせないな。父さんは、罪人だ。罰を受けなければならない。お前には本当に悪いことをした」
「でも、ボクはお父さんが好きだよ」
「ありがとう。さあ、もうすぐ到着だ。少し眠りなさい」

愛しい息子は、そのざらついた舌で、私の涙をそっと拭った。

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七夕の祈り [SF]

夕香が、短冊に願いごとを書いている。
「夕香、何をお願いしているの?」
「あのね、パパが帰ってきますようにって、お願いしてるの」
夕香は、たどたどしい字で願いを書いて、笹につるした。

夫は地球人だ。
7月7日は七夕といって、星に願いごとをする日だと、夫に教えてもらった。
地球の、ニッポンという国に古くから伝わる習慣だ。
織姫と彦星が、年に一度逢う日だと聞いた。

私と夫も、1年に1度しか逢えない。夕香の誕生日である7月7日がその日だ。
彼が都合をつけて、この星にやってきてくれる。

出会いは7年前。
宇宙を探索していた夫が、私の星に不時着したのだ。
私の星は、とてもとてもとても小さい。
私たちは流星族だから、成人すると自分の星をもらって故郷を離れる。
そして広い宇宙を漂い続けるのだ。
漂流の途中で出会いがあれば、家族を持つこともできるが、一生をひとりで過ごす人もいる。

私は地球人の彼と出会った。そして恋に落ちて夕香が生まれた。
夫は地球に帰り、地球のために働いて、年に一度逢いに来る。
もうすぐ7月7日がやってくるけれど、今年は無理かもしれない。
ニッポンは今、とても大変だから。

「夕香、パパから通信が来たわよ」
「わーい。パパだ~」
「夕香、ママの言うことを聞いて、おりこうにしてるかな」
「うん。ねえパパ、もうすぐ帰ってくる?」
「う~ん…それが、今年は帰れないかもしれない」
「あなた、お仕事大変なの?」
「ああ、例の原発のあと始末だ。今度大量の汚染水をタンカーに乗せて、無人の星に捨てに行くことになった」
「まあ。宇宙に汚染水を捨てるの?」
「ああ…。でも安心して。君の星からは、離れた場所を選ぶから」

夫の通信はそこで途絶えた。
夕香は寂しそうに笹飾りを眺めた。私だって寂しい。
夕香の背中を包み込むように抱いて、ふたりで泣いた。

7月7日がやってきた。
「さ~さのはさ~らさら」と夕香が歌っている。
地球の歌だ。なんて優しくて素敵な歌だろう。
「あ、ママ、あれなあに?」
夕香が指さす先に、巨大なタンカーがあった。
まさか、ニッポンから来た汚染水?
私の星に、汚染水を流す気だろうか。

私は慌てて夫と通信をつないだ。しかし連絡はとれない。
タンカーは私の星に停まり、ゆっくりとタンクのふたを開けた。
「やめて!私の星を汚さないで!!」
私は、夕香を抱きしめて叫んだ。

しかしタンクから流れ出したのは、キラキラ光る大量の星屑だった。
星屑はまるで川のように空へ続いた。なんて美しい。

夫が操縦席から降りてきた。
「パパ!」
「やあ、驚かせてごめん」
「あなた。いったいこれは何?」
「天の川だよ。夕香へのバースデープレゼントだ」
「天の川?」
「僕たちは織姫と彦星だからね。天の川がないとね」
夫は優しく笑った。少し疲れているようだった。
「ねえ、やっぱり私、地球に移住しようか?」
「いや、君はこの星を守るんだ。僕は地球を守るから」

私たちは寄り添って天の川を見た。美しく、儚い光だ。
また来年まで、逢えないのね。

七夕.gif

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最後の通信 [SF]

「地球に残っている諸君、…が…最後の…通信…無事を…祈…」
地球政府からの、最後の通信が途絶えた。

地球は、もうすぐ終わりを迎える。
仕方のないことだ。星には寿命がある。
しかし人間たちの手で、その寿命をいくらか早めてしまったことは否めない。

地球の滅亡を知った人々は、早々に新しい星を見つけて移住した。
快く地球人を受け入れる星は少なく、移住しても恵まれた暮らしは望めない。
だけど死ぬよりはマシだ。生きるために新しい星の住人に服従しながら暮らしている。

わたしは地球に残った。
地球最後の姿を見届けるのが、わたしの使命だと思っている。
わたしはジャーナリストだ。

地球に残ったのは、病人ばかりだ。
医者もいなくなった病院は、いつだって死の匂いがした。
薬も食料も底をつき、体力のない者から命を落としていった。
感染病にかかった者は、容赦なく外に出された。
外の世界は、完全に汚染されていた。

最後の患者を見送った。おそらく地球に残っているのは、わたしだけだ。
わたしは、地球の最後の証人になる。

汚れきった淀んだ空、魚も住めない死んだ海。
地球は確実に滅亡へと向かっていた。
焼けるような太陽が照りつけて、温度がひどく上がったかと思うと、氷のように寒い夜が何日も続いた。
木々は枯れ、水は枯れ、あらゆる山が噴火した。

そして、とうとうその日がやってきた。
大爆発が起こったのだ。
巨大な光があちこちに飛び散り、大地はひび割れ、空は荒れ狂った。
見たこともないような不気味な雨が降り、隕石が容赦なく窓ガラスを割った。
炎の塊がすべて物を燃やしていく。
もう終わりだ。
地球が壊れていく。

わたしは、壊れていく地球の姿を、この目にしっかりと焼きつけた。
地球とともに、その使命を終える。
わたしは、地球最後のジャーナリストだ。

****

「デスク、M2C7より、最後の通信がきました」
「そうか。どうだった?」
「はい、地球滅亡の瞬間が、しっかり映っています」
「よし、よくやった。明日のトップニュースはこれだ!」
「星が滅びる瞬間の映像なんて、どのテレビ局も撮れませんからね」
「それで、M2C7はどうした?」
「残念ながら、回収不可能でした」
「そうか、惜しいことをしたな。なかなか優秀な取材ロボだったがな」
「ご安心ください。同じヒト型ロボットを新しい星に潜入させました。次の特集は“新しい星で過酷に生きる地球人”です」
「よし。宇宙一の視聴率を目指そう」

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SFというカテゴリーを増やしてみました。
あまり得意分野ではないですが、たま~に書いてみようかなと思います。